6:魔術師って調教できるんだ……
町からそう離れていない、15分くらいのところの森。
途中からクリスに案内されながら、魔物のいる場所に連れてこられた。
「あれだ。初心者冒険者なら、相場はスライムからと決まってる」
クリスは、ぐにょっと形を変えながらピョンピョン跳ねる球体のモノを指さす。
「へぇ……あんな感じにピョンピョン跳ねるもんなんだな……なんか、可愛いじゃん」
「……分からなくもないが、今から倒すんだからな?」
兜越しにクリスの訝しむような視線が俺に向く。
分かってるよ……けど、色々と、こう……気持ち良さそうじゃん! 色々とッ!
「仕方ないだろ。こうプルっとしてるの、抱き心地よさそうだろ」
「……モトキ、本当に抱いて寝るなよ? そんなことを寝てる間やってたら、皮膚が少し溶けて爛れるぞ。調教した魔物なら大丈夫だが……」
……テイムしてたらありなのか。
お金が貯まったら欲しいな……
「そ、それって魔術師でもテイムできるのか?」
「ん? まぁ、調教師の様に高ランクの魔物は無理だろうが、スライムくらいなら出来ると思うぞ?」
クリスは顎に手を当てながら答える。
そうか! それなら……ふふふっ!
「なら、俺もスライムを調教しよう! で、どうやるんだ?」
「……さぁ?」
……えぇ~、そりゃぁ無いっすよ。
調教するったって、方法分からないとなぁ……
試しに会話できるか試すか?
ピョンピョン跳ねるスライムに近付き、手を向ける。
「……スライムと会話、スライムと会話。我は求め訴えたり……スライムと会話っ!!」
魔力と思しきモノを指先に感じながら、口に出して呟き続ける。
「……会話、会話、会話。答えろ、答えろ、答えろ、答えてろよッ!」
……駄目だ。プルプルしながら何も言わず、手の下でバスケボールみたいにピョンピョンとバウンドしてやがる。
こいつとは意思の疎通できないんじゃないか?
「モトキ、スライムがお前の手でバウンドしてるぞ。懐いたのか?」
「え? これ懐いてるの? さっきまでと違いが分からないんだけど」
俺の手の下でピョンピョンバウンドしてるだけで、さっきまでと特に代わり映えしないんだけどな……
「試しに手の上に乗せてみたらどうだ? 野良なら嫌がって下に落ちるはずだ」
「へぇ、んじゃ失礼して……意外と生温いな……うひぇっ!?」
俺の手にへばりつくようにくっ付いてきやがった!? ほ、捕食でもしてんのか!?
「おぉおお、おいぃい! クリス!?」
声が震えながら、ぐにょっと俺の手を包むスライムを、左手で示しながら聞く。
「そんなに慌てなくても……どうやら、スライムがお前を気に入って包み込んでるんだろう。多分な? 私は騎士だから良くは知らないが、恐らく、きっと……まぁ、平気だろう」
俺の手をじっと見ながら、うんうんと頷きながら、そんな事をいうクリス。
絶妙に不安になる言葉過ぎるわッ!
「そ、そんな風に言われると安心よりも不安になるわッ!!」
手をぶんぶんと振り回すが全く剥がれないスライム。
スライム君、離れてくれよぉ……!?
せめて意思疎通くらいさぁっ!?
幾らやっても離れないので、手を振るのをやめる。
その代わり、べったりくっ付いているスライムをじっと見て問いかける事にした。
「なぁ、一旦離れてくれないか? 頼むよ、スライムさん……」
そんな願いが通じたのか、ぼにょっと跳ねるように地面に降りるスライム。
「……一応、調教できてるのかもな」
「不安だったらギルド公認の調教師にでも確認をとると良い。どうせオトモ魔物の登録で話す事になるからな」
「それを先に行ってくれ……んで、魔物討伐もしなきゃならないが……どうすっか……考えなしに調教師ちまったよ」
「肩にでも張り付かせて一緒に連れてくれば良いさ。スライムだし」
「ま、まぁ、そうするか」
そうだなぁ……ついでに名前でも考えようと思ったけど……どうせスライムだしなぁ。
見た目もそのまんまだし……スラさんで良いや。
おいでー、スラさん。俺と君は一緒に行動するぞ~?
そう考えると――
ぬっちょりと手を伝っていき、俺の首元辺りに来る。
そして……うすーく伸びて張り付くのであった。
「なんか微妙に嫌な張り付き方するんだよなぁ、スラさんは……」
むずむずしながら、また森を歩くのであった。