5:ドギマギしちゃうモトキさん
「喧嘩をやめて飯を食おう」
俺の言葉にクリスは頷く。
「なぁ、屋台もあるけど、普段はどこで飯食ってるんだ?」
「あぁ、冒険者だとギルド併設の酒場だな。仕事前、仕事終わりに酒場でご飯を食べる。それ以外だと屋台や違う場所にある飯屋、酒場だな。宿屋が提供してたりもするぞ」
指をピンと立てて答えるクリス。
「へぇ、結構選択肢あるのね。今日はどうする?」
「それなんだが、暗くなる前に魔物討伐をしてから、ギルドで飯にしないか? せっかく冒険者カードを手に入れたんだ。宿代もないのだろう?」
「……確かに。腹は減っているが、そう言われたら仕方ないな」
「……少し待ってろ」
そう言うと、早足で通りの屋台に向かっていき、屋台のおっちゃんと会話をして指を2本立てる。
きんちゃく袋を出し硬貨を幾つか渡すと、2本の串を持って帰ってきた。
「……ほら、腹が減ってるんだろ。一本くらい、くれてやる」
「あ、ありがとな。そういえば、疑問だったんだが」
「なんだ?」
「フルフェイスの兜でどうやって飯を食ったり、水を飲むんだ?」
「あぁ、それはこうやって……」
クリスはカチャカチャと口元の部分をいじる。
すると綺麗に口部分だけが外れた。
「こうなる」
「ほぉ~……兜を脱が無くてもいけるんだな」
「まぁ、な」
クリスがそう言いながら、兜を……脱いでいった。
兜を脱ぐ時に髪がふわっと舞った。
うなじが見え、柔らかそうな髪がうなじを覆う。兜に抑えられ、うなじに張り付く髪は、艶っぽい。髪色は金。
鼻先が見えた。
シュッ、とした細長い鼻。
最後に目が見えた。
切れ長だが、大きな瞳。エメラルドグリーンを思わせる瞳が俺を見ると、細められる。
吸い込まれるような――違う、飲み込まれそうな美しさだった。
それまで鎧の中に隠れていた姿が、まるで封印された秘宝のように現れるなんて。
……ズルいだろ、そんなの。
「おい、何を見ている」
「……はっ!!?」
いかん!! なに見とれてんだよ!!?
「なんだ、私の顔はそんなに変だったか?」
「……い、いいえ? 大変、お美しゅうございます……」
小声になった。
まじか……こんな、綺麗な女とさっきまで普通に話してたのかよ!!?
そんで口げんかしてたの!? さっきまでのクリス、カムバック!!
「ん? 何を言っているのかよく聞こえなかった。もう一度――」
「さ、さっさと串食ったら冒険行こうぜ! な!! そうしようぜ!」
「あ、あぁ。分かったから、そんなに慌てるな」
誤魔化す様に焼き串を一気に頬張る。
これがギャップ萌えってやつか!? ちくしょう、思ってたより効く……!!
「ドジっ子」属性も既に爆発してる!!
怒涛の萌え属性攻撃だ!!
だ、だが同じクリスだ……! 落ち着け、俺の心臓ッ!!
「なんだ、胸なんか抑えて。焼き串でも喉に詰まったか?」
ちゃうわいッ!!
「ち、ちげぇし! 良いから、行くぞ!」
さっき入ったばかりの門を目指して、クリスから顔を見られない様にしながら歩き続けた。
こんなとこばっかり、テンプレ持ってきやがって!!
そう悪態をつきながら、テンプレってそもそもどういうモノだったっけ?、なんて考えていたら気持ちも落ち着きだすのであった……