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4:あれ?こいつ意外と……チョロ……

「ふぅ~っ! ふぅ~っ!」


「はぁっ……はぁっ……」


 二人して疲れて倒れる。

 ここだけ切り取れば、男女が息を切らして草原を追いかけっこした様な感じに見えるだろう。


 実態は殺伐としているが……


「も、もう、諦めろ。お前が、悪い」


「あ、謝らない、からな」


 もう、それで良いよ……

 これ以上、疲れて、言い争う気もねぇ……


「はぁ……無駄に疲れたな……」


「いったい誰のせいだと――」


「んじゃ、俺は町に向かうから。さよなら」


「あ、おい――」


 呼ばれても振り返りません。

 俺は異世界ライフを満喫するんだ! そんで賢者になるんだからな!

 こんなところで、こんな訳わからん女に付き合ってられるかってんだ!


「……」


 なぜだろう。俺の足音が2重に聞こえる気がする。


 振り返るが……誰も居ない。


「ん~……?」


 再び歩き出す。少しすると、また足音が2重に聞こえる。


「……ふんっ!」


 勢いよく振り返る。

 街道横の草が揺れ、ガサッ、と音を鳴らす。


 それを見た瞬間、俺は勢いよく走りだした。


「ま、待て!」


「嫌だ! 待てと言われて待つバカがどこにいるっ!! そもそも、なんで付いてくるんだ!」


 ガチャッガチャッ、と甲冑のぶつかった金属音が響く。


「ぬぅうううっ!!」


 足を何とかして早める。


 動け、俺の足! 早さが! 早さが足りないんだ!!


「あっ……」


 盛大に足がもつれた。

 スローモーションで前に体が投げ出される感覚。


 あぁ……地面に口づけしてばっかりだなぁ……


 ズサァアア、と地面に顔を擦りながら着地した。


「……だ、大丈夫か?」


 顔面スライディングを決めた俺に、心配そうに声をかける甲冑かっちゅう女。


 でも……今は声をかけられるのが辛すぎる……!


「……何も言わないで!」


「だ、だが――」


「何も言わにゃいで!」


 ……もう、何も言いたくない……

 くっそぉおおおおおおっ!!!


 久しぶりに、本気で涙が出てしまい、しばらく動けなかった。



★☆★★☆★



「もう大丈夫か? い、痛いところはないか?」


「その言葉が俺の心をえぐってるって気付いてもらえませんか……?」


「……そ、そうか」


 はぁ……なんでこんな奴に心配されにゃならん……

 情けなくて……あ、また、泣きそう……


「それで……なんでお前に付いて行くかって事だったが」


 あ、そこに行くんですね……

 平然と、そっちに話戻すんですね?


「野盗も片付いたみたいだし、町に戻るというか。それに、な?」


「な?で分かるかっ! なんだよ!」


「い、一応、わ、悪かったと……思ってるから……町まで送ってやろうと……あ、謝らないけどなっ!」


 え? こいつ、意外とチョロ……?

 まじで?


「え? ご、護衛してくれたり?」


「そ、そうだと言ってるだろう!」


「なんだよ! それならそう言ってくれよな! じゃぁ、改めて……俺はモトキって言うんだ」


「お、お前が聞かずに……いや、よそう。私はクリスだ」


 なんだ、良い奴じゃんか。

 誤解も解けたようだし? まぁ、転んで痛い思いはしたが、帳消しだ帳消し!


「よっし! じゃぁ、町に向かおうぜ!」


「うむ! 行こう!」


 俺達は仲良く歩き出した。


 しばらく歩き続け、町の門が見え始めた。


「おぉ~! 結構立派な門があるんだな!」


「……ん? この町はそれなりに大きいところだぞ? 立派な門があって当たり前だろう」


 んぐっ!?

 こういうの常識だったりすんのか!?

 軽い知識って話だったけど、地名も何も分からないんですけどっ!?

 どんな軽い知識っ!?


「へ、へぇ~……悪いね、田舎の出なもんで」


「あ、あぁ、いや。悪く言いたかった訳じゃないんだ。ただ、それを知らずに目指していたのか、と不思議に思っただけだ」


「ま、まぁね?」


 異世界からの転生者って言ったら、どうなるかも分からん!

 この世界の軽い知識さんが仕事してないんでねぇええっ!!


 だんだん腹立ってきたぞっ!!

 あの女神ぃいいっ!! な~にが、軽い知識だっ!! 適当な森に転生して、これか!!


「……な、なんでそんなに顔がこわばってるんだ?」


葛藤かっとうと戦ってるんだ!! ふんっ!!」


「そ、そう?」


 そもそも、通貨とか諸々(もろもろ)が分からない時点で終わっとる!

 詐欺師さぎしの手口だ! 教えてくれたの魔術の使い方だけだしなっ!!


 ……それに、この国の名前すら知らねぇ。

 女神は、この世界が『オピアナ』って言ってたけど……そんな軽い知識、意味あるかっ!


 もう、あの女神の軽い知識は忘れる事にしよう……無かった。そんなもの無かったんだ!


「クリス。これ、町に入るのどうすりゃ良いんだ?」


「どうすりゃって、それは冒険者カードがあればそれを出すのか、何もなければ不審者かチェックされる必要があるが?」


「……え? じゃぁ、俺はこんな長蛇ちょうだの列に並ぶのか」


「そんなに時間はかからない。顔と名前、持ち物を確認されるくらいだからな」


「ほぉ~ん」


「じゃぁ、私は先に中で待っているよ」


「おぉ、また後でな」


 列に並ぶとクリスの言う通り、意外とスルスルと進んでいき、俺の番になる。


「名前、荷物」


「モトキ、荷物なしです!」


 俺はズボンのポケットを裏返し、シャツをめくる。


 何もありません。本当に、なにもありません……


「……荷物、なし? まぁ、ポケットも裏返して何もないみたいだしな……良し、通れ!」


「ありがとうございます!」


 ついに、町『アルディオン』に入れた……!

 長かった! 本当に、長かった! たかだか二日のはずなのに、凄く、感慨かんがい深いよっ!!


「無事に入れたようで良かったな」


「あぁ。それで、冒険者ってどこでなれるのよ?」


 やっぱ、テンプレとくれば冒険者っしょ!

 金を稼げて、賢者を目指す! ふぅっ~!


「あぁ、それならこの道の先だな。付いてくると良いぞ」


「あんがとさん!」


 通りには屋台があり、良い香りがしてくる……


 思えば、昨日から何も食ってないんだなぁ……

 ぐぅう、と腹が鳴る。


「……腹が減ったのか?」


「まぁな。昨日から何も食ってねぇし、見ての通り金も無いからな」


「……ふむ? なら登録が済んだら私が買ってやろう」


「……ありがてぇ、ありがてぇ」


 チョロい……


 通りを進み『冒険者ギルド』と看板の出ている大きな建物に到着する。


「うひょ~! これこれ! こういうのだろ! やっぱ雰囲気あるぅ!」


「……冒険者ギルドを見た事が無いのか?」


「何度も言うが、田舎の出なもんでね」


 さぁ、中はどんな感じか……!

 イベントが待ってる気がするぜ! もう、いざこざはかんべんな!


 そのまま中へ入る。

 ギルド併設の居酒屋。なんともテンプレの期待を裏切らない作りだ。


「おぉ……綺麗なもんだな……そして、やっぱ受付嬢のお姉さんも綺麗だ」


「お前はどこを見て感心してるんだ! ほら、さっさと登録してしまうぞ!」


「お、おう!」


 茶髪の受付嬢の窓口へ向かうと、花が咲く笑顔で声をかけられる。


「本日はどういったご用件でしょうか?」


「あ、冒険者登録をお願いしても?」


「はい! こちらの書類に記入をお願いします」


 さらさらっと記入していく。言葉と文字に関しては女神に感謝出来る。


「では、登録料のお支払いを!」


「なんだって?」


「登録料です。100ギニュをお願いします」


 ギニュの響きは今は置いといて……


 金とんのかよっ!!?

 ねぇよ! 金なんかねぇよ! あるわきゃねぇ! 俺のぽっけにあるわきゃねぇ!


「クリス……」


 情けなく後ろに立つクリスを見やると、肩をすくめられる。


「はぁ……分かっている。食事代すら払えないお前が、金を持っているなどと考えていない」


「……なんだこの、屈辱感」


「この男――モトキの代金は私が代わりに支払おう。後、パーティーも頼みたい」


「え!? ちょ!?」


「見ていて危なっかしいからな。しばらくは私がパーティーとして付いていてやる。それとも嫌なのか?」


「どちらかと言えば嫌だな。なんせ勘違いで俺を捕まえるような奴だ。この先もどういう問題が――」


「なんだとっ! その件は既に水に流したでは無いか! まだ言うのか!」


「はんっ! 金を借りるのは、まぁ、慰謝料いしゃりょう分って事で?」


「ふざけ――」


 受付でバンッと音が鳴る。

 見ると受付嬢が握りしめたこぶしを机に叩きこんでいた。


「お二人とも、申請を行いましたので、さっさと行ってくださいませんか? ギルドでは迷惑ですので。痴話ちわげんかなら、外でおやりください」


 カウンターから身を乗り出し、物凄い剣幕けんまくで告げる、茶髪の姉ちゃん。


「「は、はい……」」


 俺とクリスはその剣幕、目力めぢからに負け、それだけ告げる。

 そしてしずしずと冒険者カードを受け取り、退散するのであった……


「お前のせいで怒られたじゃねぇか!」


「なんだとっ!? 元はと言えばお前が――」


 結局、言い合いは外でやった。

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