3:怪しい奴め!お前は誰だ!
自己紹介した後、速攻で村から追い出された。
厳密には金も仕事もないと伝えたら、村では無理と伝えられ……
今はもう少し歩いた先にあるという町を目指していた。
「はぁ……女神様も、もう少し場所を考えて転生してくれりゃ良いのに」
めっちゃ疲れてきた。
魔力を直前に使ってたのもあって、すんげぇしんどい!
「あぁ~、だるい……ちょっと休むか……」
その辺で寝てたって、別に誰に迷惑もかからないだろうしな。
ちょっくら、街道横で休ませてもらいますよっと。
木に寄りかかり、疲れをとるために休息を挟む。
「お休み、異世界」
★☆★★☆★
ひんやりした空気が頬を撫でた事で目が覚めた。
「……」
寝ぼけ眼で辺りを見れば――
まっくら!!? え、そんなに寝てたの!?
昼くらいに村を出たのに、真っ暗だよ!?
しかも微妙に肌寒いし!!
「野宿、って安全なのかな……?」
異世界初日だから、正直分からん!
というか、村から少し歩けばって話だったけど、どのくらいのもう少しなんだ!? 聞くの忘れた!
「……休んだおかげで疲れはとれたし、歩くか。魔力も戻ったみたいだし、明かりでも出すか」
想像が大事って言ってたしな。
「出来れば明るくて、少し上半身が温かい感じに……」
ぽわぁ、と辺りが温かく、そして明るくなる。
「おぉ……これは良い……! どのくらい維持できるか分からないけど、良いぞ!」
暗い街道の中、俺の進む先は少し明るく照らされる。
胸も温かい。
これで町までもう少しってなれば良いんだがな。
だが、回りが暗くて怖い。
正直、怖すぎる。
こういう時って変なの出たり――
「おい、お前ッ! 金目のモノをおいていきな!」
「で、でたああああ!!! テンプレ的な野盗! 夜だから夜盗か!?」
「意味わかんねぇ事を言ってんじゃねぇ! 金目のモン――」
「さ、さいなら!!」
「て、てめぇ! 待て!!」
ひぃいい!!? 追いかけてくるうう!?
なんでこんな事ばっかり、テンプレなんだよ!!
こういう時は、なんか誰かが助けてくれたり、そういうテンプレあるだろ!?
来いよ! 早く来て!!?
「お、おい!! そこの者!! 止まれ!!」
暗闇の中、街道先に光が見え、誰か女性が声をかけてきた。
助かったぁあああ!!
「す、すみません!!! 助けてください!!」
「あ、怪しい奴め!! 止まれ!! お前は誰だ!! 胸だけ光り輝く変質者めっ!!」
「はっ!?」
そっち!? そっちで呼ばれたの!?
そんで変質者!? 野盗に追われて止まれ!?
無理に決まってんだろ!!?
「む、無理!! 後ろに野盗が! 野盗がいるんですぅうう!!!」
近付くと相手の全体が見えてきた。
甲冑姿の女性。
「止まれ!! 止まれと……止まらんかぁあああ!!!」
いきなり俺の前に突っ込んできた!?
「ふもっふ!!?」
ショルダータックル……
そんなのってないよ……
「ふんっ!! 変質者め! 貴様のような奴を素通りさせる訳がないだろうが!」
「う、後ろに……ごほっ……や、野盗……」
「野盗など見当たらんっ! この場には、胸だけ光らせた変質者しかいない!」
な、なんで……なんでこんな事ばっかり……!!
呪われてんのかよ!!
「もう、やだ……ぐふっ」
緊張の糸が切れ、目の前が真っ暗になった。
★☆★★☆★
朝日に照らされ、眩しさから目を覚ます。
「あぁ、変な夢を見た……」
そう言った後に、俺の手足が拘束されている事に気付く。
「……え? はっ!? えっ!?」
「……気付いたか、変質者。これから貴様を『アルディオン』まで連行する。逃げようと思うな? 余計な動きをすれば、斬る」
え、えぇ……なにこの、目を覚ましたら犯罪者って……またですかっ? またなんですの!?
「あの、誤解だからね? 魔術使って、胸が光ってたのは申し訳ないけど、止まらなかったのはマジで野盗が――」
「聞きたくもない! 貴様のような変質者は口を開けば『誤解だ』、『やってない』と言うと決まっているからな!」
「本当に、それでも俺はやってないんだよぉおおッ!!」
「そらみろ! 同じ事を言う! 犯罪者はみんな言うんだ!」
そりゃ、やってなくてもやってても言うだろうよぉおおっ!!
「どうした? なにか問題でもあったのか! その男は?」
知らない甲冑の男が後ろの道から来たっ!
この人に誤解だと伝えて助けてもらおう!!
「た、頼む! この女に言ってやってくれ! 野盗が出て逃げてきただけで、変質者でもなんでもねぇって!」
「な、なんだ? 野盗なら俺等の隊で捕まえたが……なぁ、アンタ、こいつも野盗の仲間なのか?」
甲冑女の方を向いて甲冑男が話し出す。
そ、そいつじゃ埒があかねえんだ! 頼む、俺に! 俺にきけぇえええ!!
「お、俺に聞いてくれ! マジで頼む!! この女に、野盗に襲われて逃げてる最中に捕まったんだ! 変質者だなんだってのは誤解なんだ! 助けてくれ!」
本当に、助けてっ!!
「き、貴様! 変質者の分際でっ! む、胸だけ光らせて走ってきたではないか! 結局、野盗なんかいなかった癖に!」
「だから、その野盗が捕まったって話をしてんだろうっ! 俺は逃げてたんだよ! マジで!!」
「……あ~、嬢ちゃん。野盗は商隊護衛の俺達が捕まえた。んで、そいつが胸を光らせてたのは分からんが、せめて拘束は解いてやったらどうだ……?」
聞いたか、この甲冑女! 俺は無罪だ、冤罪だ!
「だ、だが、変質――」
「寒かったから上半身をあっためて、暗かったから光らせてただけだっての!! そんな意図はねぇええ!!」
俺の叫びが辺りに響いた。
そして、残念そうな頭でもしてんのか?って感じで俺を見ながら男が言う。
「……そういう事だってよ。じゃ、じゃぁな?」
ささっと街道に戻ると後ろから来た商隊に混じり、過ぎ去ってしまった。
「……なぁ、そろそろ解いてくれないか」
「……分かった」
お互いにそれだけの会話。
しかし、胸中は違うだろう。
なんせこいつは誤認逮捕って奴をしたんだからな!
ははは、ざまぁみろ!!
「はっ、無実の俺を良く捕まえられたもんだ! えぇ、甲冑女!」
俺は強気に出るぜ?
なんせ、無実だからなぁっ?
「……っく!」
顔を真っ赤にして耐える女に、俺は続けて口を開く。
「あ~ぁ、まったく。体も痛いし、傷ついたし。こりゃぁ、詫びの一つでもあっても良いよなぁ? 普通、ごめんなさいと詫びくらいあるよなぁ?」
「ご、ごめんなさ――」
「土下座だよなぁ? 額を土に付けてさぁ? やっぱり、誠意って大事だもんな~」
「ふ、ふふふ……」
「ふ?」
「ふざけるなっ!!! この、貴様のような者に頭など下げようと思った私がバカだった!! もう一度、縄で縛ってやる!!」
「ひっ!!?」
「待てっ!! 逃げるな、外道っ!! 性根を叩きなおしてやる!!」
「や、やめろ!!? このバカ女!! お前が悪いんだろうが!!」
「なんだとぉっ!!! お前なんか! お前なんか~~~っ!!!」
しばらく、俺達はぐるぐると追いかけまわり、言葉の応酬をする羽目になった。