『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品集
邪竜殺しの英雄 彼女が欲しいので噂のベランダの令嬢を救出に向かう
俺はコード=ブレイカー、邪竜殺しの英雄だ。
莫大な報奨金を手にしたので一生金には困ることは無いし、勇者の称号を与えられ名誉も得た。
だが――――彼女が居ない。
おかしいだろ? 普通美女とセットだろ? なんなら王女さまとイチャラブ案件じゃないのか?
共に邪竜を滅ぼしたパーティメンバーは全員ガチムチのオッサンだ。
まあ……危ないもんな、そりゃそうだよ、美少女神官とか魔法使いとか普通居ないって。
というわけで悪名高い城塞都市インフェルノプリズンへやってきた。
なんかヤベエ名前の都市だけど、ここへ来たのは理由がある。
なんでも街のシンボルでもある塔、インフェルノタワーに囚われの令嬢がいるらしいのだ。
星が綺麗な夜、塔の上部に備え付けられたベランダに姿を現す――――深窓の令嬢ならぬベランダの令嬢。噂では銀髪の美少女らしい。
颯爽と参上し救い出せばハッピーエンド確定だろう。何よりロマンを感じる。
さっそく街で情報収集したところ、塔のセキュリティはかなりのモノだという。今までに侵入に成功した者は誰一人居ないとも。
ふふ、面白い、邪竜を倒したこの俺を止められるものなら止めてみな!!
おりしも今宵は満天の星空、これはもう運命としか思えない。
音も無く衛兵を昏倒させ、魔力に反応して襲い掛かってくるゴーレムやガーゴイルを粉砕する。
垂直に近い塔も俺の身体能力の前には無力だ。壁に指を突き刺してグイグイ登ってゆく。
「よし、着いたぞ」
ベランダへ到着した俺は物陰に隠れて気配を消す。
助けるにしてもある程度状況を把握してからだ。誘拐犯になりたいわけじゃない。
十五分ほど待っていると、噂の令嬢がやってきた。
下半身丸出しで。
まあ……それは良いよ、囚われの身だからストレスもある。開放的になりたい気持ちはわからないでもない。夜風も心地良いよね。
でも――――女装した男かあ……もうこの時点で令嬢じゃないよね。控えめに言って変態?
俺の師匠なら性転換の魔法も使えるけど――――
中年のおっさんなんだよなあ……
若返りの魔法を併用する手もあるけど――――
『ウハハ、愚民どもめギリギリまで搾り取ってやるわ!!』
性格も最悪なんだよなあ……
浄化魔法で人格は多少矯正可能だけど――――
いや待て、それもはや別人だから。
俺ヤバいな、そこまでして彼女欲しいのか……自分自身にドン引きだよ。
翌朝、街の広場には女装した悪徳領主が下半身丸出しで吊るされており、犯人は見つからなかった。