【第7話】 恐怖!洞窟に潜む巨大蜘蛛?!
今回はパロディ回です。こんな感じのものを、これからもちょくちょく挟みます。
「に、逃げた……?」
白銀のスカイドラゴンは凄まじい速度で飛び去り、すぐに見えなくなってしまった。その事態に、フレア達は驚くことさえできなかった。その状態から真っ先に自我を取り戻したのは、クロウだった。
「とりあえず、脅威は去ったってことですよね?一応、一件落着なのでは?」
「いいや、この件は相当複雑だ。スカイドラゴンが飛び去った方向は、おそらく中央大陸方面だ。ここから中央大陸までの間に、スカイドラゴンが好むような高い場所はない。」
「つまり、またどこかに現れる可能性があるのか。」
「おっ、理解が早いな。」
ファングはフレアの両肩に手を置く。
「お前は中々、素質がある人間だ。率直に聞くが、竜殺しの旅団に入団する気はないか?」
ファングがそんな提案をした直後、強烈な平手打ちがファングを襲う。
「お前はアホか?!今は団の資材不足が著しいというのに、人を増やしてどうする?!団を解散させる気か?!」
「おっと、悪い悪い。そのことを忘れていたな。期待させて悪かったな。こいつの言う通り、今は新人を入団をさえるのが厳しいんだ。」
「いや、入団するとは一言も……」
フレアが言い切る前に、ファングは「それじゃ!」と言い残し、2人を連れて嵐のように走り去って行った。
「マジでなんだったんだ……。」
シーフリーは呆れて、倒木に腰掛けてため息をつく。
「お三方、これからどうしますか?」
「俺は行き先は決めない。」
「私は……なんでもいいかな。」
そのとき3人の視線が、自然とフレアに向けられる。
「……ん?もしかして、俺が決める感じ?」
「そうね。任せたよ。」
「じゃあ……あのスカイドラゴンを追うぞ。」
フレアの出した答えに、3人は異議を見せなかった。フレアは逆に困惑する。
「まぁ、なんか気になるからね。追ってみるのはありだと思うよ。」
「同感です。」
「俺は面白ければなんでもいい。」
フレアは3人の返答に、思わずフッと息を笑い声を溢す。
(これが……人間なのか…。魔族とは、まるで違うな。)
「なら、早速行こうぜ!」
4人はスカイドラゴンを追って、果てしない長い旅の第一歩を踏み出した。
「まぁ、第一歩を踏み出したところまでは良かったんだ。でもなぁ……」
フレア達は、断崖絶壁に生えた木に掴まり、渓谷に落下するのを免れていた。
「まさか、谷があるとは思わないじゃん?」
「そうね。」
「そうだな。」
「そうですね。」
その時、木の根元から嫌な音が聞こえてくる。
「えーとぉ……これってマズイやつ?」
「絶対絶滅、それに限る。」
「ルミナスさん?!急に怖いこと言わないで!」
「お前も急にさん付けになるなよ……。」
「大丈夫です。私がパラシュートを持っています。」
オズエルは得意げに、懐からパラシュートを取り出す。その直後、木が根元から折れ、4人の体が宙に放り出される。オズエルは咄嗟にパラシュートを展開し、3人はオズエルにしがみ付く。
「あ……」
突然、オズエルは何かを思い出したかのように声を出す。フレアは妙に嫌な予感がした。
「そういえばこのパラシュート、1人用でした。」
「そこはせめて、3人用であってくれよぉ!」
1人用のパラシュートが4人の重さに耐えられるはずがなく、4人は谷底へと落下していった。
*
フレア達は谷底に池があったお陰で、落下死せずに済んだ。
「痛すぎるだろ……。水に落下すれば、ノーダメージじゃねえのかよ……?」
「あの高さか落ちれば、水は石のように硬くなる。無傷だっただけ我慢しろ。」
「それ、どこかで聞き覚えがあるセリフね。」
「セリフ……?」
ルミナスとシーフリーは、互いに不思議そうに首を傾げた。
「一先ず、服を乾かしましょう。」
「それなら俺に任せろ。」
フレアは指先に小さな火を作り、全員の服を乾かして回る。
「魔法って、こんなピンポイントな使い方ができるものなの?」
「俺の技量は、魔法とも言えるほどに洗練されているからな。」
「ごめん。ちょっと何言ってるかわからない。」
「わかれよ。お前魔法使いだろ?」
「魔法使いでも、わからないことの1つや2つはあるよ?私は1000年以上生きてるエルフじゃないからね?」
「まずエルフって、1000年も生きるものなの?」
ルミナスは服を乾かしてもらっている間、過去のエルフの最高寿命を思い出した。
「確か、3000年以上生きた人が最も長いかな。」
「さ、3000?」
フレアは想像ができないほどの桁の大きさに、理解が追いつかなかった。その時、ルミナスが急に声をあげた。
「ちょっと……?!焦げてる焦げてる!」
「え?あ、やべっ!」
フレアは急いで火を消し、ルミナスの服の袖に燃え移った炎を鎮火する。
「ったく、何してんだよ…。」
フレアは全員の服を乾かし終え、谷底から脱出する方法を探していた。崖をよじ登ろうとも考えたが、掴める場所が少なく、転落の危険があった。
「こういうところには、ちゃんと道が抜け道があるのがお約束じゃないのか?」
「なんだよ、お約束って…。」
その時、ルミナスは足を止める。それに気づいたフレアはルミナスに声をかける。
「どうした?何かあったか?」
「あれって……」
ルミナスが指差した先には、洞穴のようなものが開いていた。中は真っ暗で、何も見えなかった。
「……ここを進むのか?」
「もしかしたら、地上に繋がってるかもしれないからね。」
「もしかしたらという言葉ほど、信用できないものはないぞ?」
「まあまあ、先に進みましょう。」
フレアは指先に火を灯し、先頭に立って洞穴へ入っていく。
洞穴に入った瞬間、外との気温の変化を肌で感じた。
「少し寒いな。それに……腐敗臭?みたいなものもするな。」
「そうね。何かあるのかしら?」
しばらく進むと、4人は分かれ道にぶつかった。
「これは……どうする?」
「二手に分かれましょう。私とシーフリーさんは、左の道を進みます。」
「じゃあ、俺とルミナスは右か。」
フレアはオズエルが持っていたランタンに火を灯し、20分後に戻ってくるという約束をして二手に分かれて進む。
フレアとルミナスは、壁に沿いながら洞窟の奥に進んでいく。
「なんか……ジメジメしてない?」
「確かにそうだな。近くに川でもあるのか?」
その時、フレアはネバネバした何かを踏んだ。足を上げてみると、粘着性の高い糸のようなものを踏んでいた。
「なぁ……これはなんだ?」
「たぶんだけど……大蜘蛛の糸じゃない?」
フレアは足についた糸を焼き払い、ルミナスと共に急いで先に進む。その途中、カサカサと気味の悪い音が聞こえてきた。
「ねぇ、なんか鳥肌が……。」
その時、ルミナスの脚に何かが纏わり付く。恐る恐る視線を下すと、脚に数匹の子蜘蛛がしがみ付いていた。その瞬間、ルミナスは恐怖のあまり泡を吹いて気絶した。
「ルミナスさん?!1人で気絶しないで?!」
フレアが揺さぶったことで、ルミナスは意識を取り戻した。ルミナスは顔を青ざめさせ、思わずフレアに抱きついた。
「あ、あ、あ、あれ……。あれなんとかしてっ!」
ルミナスは自身の脚にしがみ付く数匹の子蜘蛛を指差しながら、恐怖で震えていた。フレアは子蜘蛛を炎でルミナスから引き剥がし、炎で焼き払った。
「虫……マジ無理……。もう帰りたい……。」
ルミナスはその場にしゃがみ込み、ガクガクと震えていた。
「はぁ……なら、さっきの場所に戻っててくれ。俺は先は見てくる。」
そう言って、フレアは1人で先に進んだ。
「ちょっと?!それフラグだから!戻ってきて!」
ルミナスが立ち上がったその時、彼女の背後から糸の塊が飛んでくる。咄嗟に避けようとしたが、狭い洞窟内で避けられはずもなく、糸に体を縛られてしまった。
「嘘でしょ?!」
ルミナスは必死に解こうとしたが、もがくほど糸が体に絡まってくる。その時、彼女の目の前に大蜘蛛が姿を現した。
(あっ、終わった……。)
「……ん?今、誰かの悲鳴が聞こえてきたような……。気のせいか?」
フレアは洞窟に張り巡らされた蜘蛛の巣を払いながら、先へと進んでいく。すると、何やら広い空間に辿り着いた。そこには巨大な蜘蛛の巣が張られている。フレアは蜘蛛の巣に飛び降り、近くに敵がいないか確認した。その時、無数の子蜘蛛がぞろぞろとフレアのもとへ集まってきた。
「どんだけいるんだよ?!」
フレアは剣を抜き、子蜘蛛を1匹ずつ仕留めていく。幸いにも、子蜘蛛の体は非常に脆かった。
「これで全部か?」
その時、蜘蛛の巣が僅かに揺れたことにフレアは気づく。振り返ると、そこには大蜘蛛の姿があった。
「こいつ……?!どこから出てきた……?!」
急に出てきた大蜘蛛に驚くフレアであったが、あることに気づく。フレアは大蜘蛛の背中にいる、糸で拘束されたルミナスの姿を捉えたのだ。
「なんで捕まってんだよ?!」
ルミナスはピクピクと動いてはいるが、完全に放心状態であった。大蜘蛛はお尻から糸を網のように放ち、フレアを捕えようとする。フレアは剣に炎を灯し、大蜘蛛が放った糸を断ち切る。
「てめぇを……燃やし尽くす!」
フレアは大蜘蛛の背中に剣を刺し、大蜘蛛が怯んだ隙にルミナスを救出する。大蜘蛛がこちらに鉤爪を振り下ろそうとした時、フレアは剣に灯した炎を解き放つ。炎は大蜘蛛を内側から包み込み、大蜘蛛は炎に焼かれて力尽きた。死体から剣を抜き、付着した血を払ってからルミナスの拘束を解く。
「なんか……ネバネバしてるな。」
「う……うぅ……、あれ?」
ルミナスは自身の体から糸が解かれていることに気づき、一安心したかのようにため息をついた。同時に、フレアの後ろにある大蜘蛛の死体に驚いた。
「もしかしなくとも、倒しちゃったの?」
「お前があいつの背中にいたからな。それより、蜘蛛の糸に縛られた気分はどうだ?」
「え……別に私は、そういう癖じゃないよ……?」
ルミナスは体を腕で隠すように覆い、少し引き気味に言い返す。フレアは少し意地悪そうな顔をし、執拗に彼女に尋ねる。その時、どこからか2人の声が聞こえてきた。上を見上げると、少し高いところにある穴から2人がこちらを見下ろしていた。
「なんか爆音みたいなものが聞こえた気がするが、気のせいか?」
「気のせいだ。それより、道はあったか?」
「こちらには、再び分かれ道がありました。」
「わかった。すぐにそっちに向かう。」
フレアはルミナスを背負い、来た道を戻り始める。
フレアとルミナスは、オズエルとシーフリーが見つけた分かれ道で合流する。
「やっと来たか…。右の道はさっきの場所に繋がっている。左はまだ調べていない。」
「じゃあ、行くか。悪いが、今俺は先頭には立てない。」
「まぁ、見りゃわかる。」
フレアはルミナスを背負いながら、苦笑いを浮かべた。
シーフリーを先頭に、4人は左の道を進み続ける。特に道に変化はなく、ひたすらに一本道が続いている。景色に飽き飽きしてきた時、洞窟の出口らしきところから光が差し込んできた。フレア達はペースを上げ、ようやく洞窟から外に出た。
「やっと出れたぜ……。」
シーフリーは大きく伸びをし、ほぐす様に体を動かした。その時、2人はルミナスの姿に思わず飛び跳ねた。しかし、オズエルだけは違った。
「おまっ、糸まみれじゃねえか?!」
「そりゃそうでしょ……。」
ルミナスは手足や頭を動かすが、糸は粘着性が高いためなかなか離れない。オズエルは糸を一本取り、状態を調べ始める。
「これは……乾燥させれば、良質な素材になりそうですね。休憩できる場所を見つけたら、全員で回収しましょう。」
「待って、それまでこの状態なの?」
「少しの辛抱だ。」
「そんなぁ……!」