【第6話】 白銀のスカイドラゴン
フレア達は食事を終え、例の巨大生物が確認された森へと来ていた。森の中には、確かに巨大生物のものと思われる痕跡が残されていた。
「すげぇ爪痕だな……。これは……相当な大きさじゃないか?」
「爪痕の大きさからして、10メートル以上はありますね。この特徴からして、竜種で間違いないでしょう。」
「マジで竜がいるのかよ……。」
シーフリーは木にもたれ掛かった直後、木がメキメキと音を立てて倒れた。
「おわぅ?!」
シーフリーは変な声を出しながら、木と一緒に地面に転倒する。
「何してんだよ……。」
「うるせえな!この木が急に倒れるからだよ!」
オズエルは木を真剣に観察し、あることに気づいた。
「この木……何者かによって一部が欠損していますね。そのせいで、非常に脆くなっていたと思われます。……おや?」
オズエルは木の近くに落ちていた、1枚の銀色の鱗を手に取る。ルミナスはオズエルの後ろから銀色の鱗を覗き見る。
「この鱗……竜のものじゃない?」
「おそらくそうでしょう。ですが、竜の種類がわかりません。」
「竜って、何種類もいるのか?」
フレアの問い掛けに対して、ルミナスは呆れたようにポカンとする。その時、何かの生物の咆哮が聞こえてくる。
「あっちだ!」
4人は咆哮がした場所へ急いで向かう。
「やれやれ……まさか、レッドドラゴンが生息しているとはな…。」
ファングは大剣を構え、目の前の巨大な竜と睨み合う。レッドドラゴンは鼻から蒸気を出し、口から炎が微かに溢れている。
「リーダー。こいつは相当気が立っている。放置すれば、近隣の街に被害が出る可能性が高い。」
「あぁもちろんだ。俺達竜殺しの旅団の名において、レッドドラゴンを討伐する!」
「じゃあ僕はいつも通り、援護射撃に回るんで。」
レッドドラゴンは前脚を振り上げ、ファングとテル目掛けて振り下ろす。ファングは大剣を盾にし、レッドドラゴンの前脚を受け止める。その隙にテルが剣で斬りつけるが、レッドドラゴンの頑丈な鱗に防がれてしまう。
(鱗が硬いな……かなり良質な個体と見た!)
レッドドラゴンが炎を吐き出そうとした時、数本の矢がレッドドラゴンの角に命中する。
「お前の相手は僕だ!」
クロウは弓矢を構え、数本の矢を一度に放つ。放たれた矢はレッドドラゴンの注意を確実に逸らした。力が緩んだ瞬間、ファングはレッドドラゴンの前脚を振り払い、頭部目掛けて大剣を振る。大剣は真横から直撃し、レッドドラゴンの態勢を大きく崩す。テルは剣を両手に持ち、レッドドラゴンの喉を掻っ切る。
「……決まったな。」
レッドドラゴンは口から血を吐きながら、振動を起こしながら地面に横たわった。
「よし、討伐完了。」
「お二人共、ご苦労さまでーす。」
クロウは手を叩きながら、2人のもとに歩み寄る。
「討伐して早々申し訳ないのですが、ちょっと厄介なことが判明しましてね。」
「厄介なこと?」
「まあ詳しいことは、この人達が教えてくれますよ。」
クロウは木に向かって矢を放つ。その直後、木の上からフレアが落ちてくる。
「ん?あいつは確か……今朝酒場で見たやつか?」
「私に聞かずとも、自分の頭でわかるでしょ。」
クロウは尻餅をついたフレアに手を差し伸べる。
「まったく……。一体いつからそこにいたのかは知らないが、何が目的だ?」
フレアはクロウの手を借りながら立ち上がる。それと同時に、木の上から他の3人が飛び降りてくる。
「いやいや、なんで1本の木に4人も隠れてたの?!」
驚くクロウを他所に、フレアは例の銀色の鱗をクロウに見せる。
「それより、この鱗の主の正体がわかるか?」
「これは……銀の鱗?いや……白銀?」
クロウは2人を呼び、2人にも鱗を見せる。2人は鱗を見るや否や、興味津々に観察し始める。
「この大きさ、硬さ、そして質感……。おそらく、”スカイドラゴン”のものだな。」
「やっぱりか。となると、これは非常事態という認識で間違いないですか?」
「スカイドラゴン?非常事態?ちょっと、わかるように説明してくれないか?」
クロウはフレアに鱗を返すと、説明を始める。
「まず君達は、スカイドラゴンを知っているかい?」
「名前だけは、辛うじて知ってるよ。」
ルミナスはそう答えたが、他の3人は首を横に振った。
「まっ、知らなくても不思議じゃない。なんせスカイドラゴンは、標高の高い場所を縄張りとしているからね。どうやらエルフのお嬢ちゃんは、もう非常事態の理由に気付いてるようだね。」
「マジで?」
「うん。多分だけど、スカイドラゴンが本来の生息域を離れてるってことでしょ?」
「正解。エルフなだけあって、知識が豊富だね。」
クロウは指を鳴らし、ルミナスを賞賛する。
「君の言う通り、スカイドラゴンは本来の生息域から離れてしまっている。このせいで、2つほど問題ができている。1つは、環境に大きな異常ができてしまっている。この地帯からすれば、スカイドラゴンは外来種のような存在だ。そのせいで、生態系に大きな異常が起きてしまっている。さっき戦ったレッドドラゴンは気性が荒れていた。おそらく、スカイドラゴンと何かあったからだと予想できる。
クロウが説明をしている間、ファングとテルはレッドドラゴンの死体を調べ始める。
「もう1つは、スカイドラゴンを追い出した強大な存在がいるってことだ。」
「縄張り争いで負けたとかはないのか?」
「それはない。この鱗からわかることは、竜の種類だけじゃない。竜の強さもわかるんだ。」
「竜の強さ?」
「そ。同じ種類の竜でも、鱗の色によって強さが変わるんだ。その白銀の鱗を持つスカイドラゴンは、非常に強力な、所謂歴戦の猛者だ。簡単に言えば、超強いスカイドラゴンってことさ。」
「そんなやつなのか……?!それが棲家を追いやられた可能性があるって、一体何と戦ったんだ?!」
「そう、そこなんだよね。白銀のスカイドラゴンよりも強い生物なんて、魔物でも見たことがない。」
その時、ファング達がこちらに向かって走ってくる。
「急にどうしたんですか?」
「先程レッドドラゴンを調べてみたが、テルが付けたもの以外の外傷らしきものは見当たらなかった。」
「それ、本気で言ってますか?」
「事実よ。おそらくレッドドラゴンは、スカイドラゴンの気配を察知して、警戒していた可能性が高い。」
「気配だけで他の竜を脅かすほどか……。もしやこのスカイドラゴンは、とんでもないバケモノの可能性が?」
その時、どこからか別の竜の咆哮が聞こえてくる。
「なんだ?!」
「今の声は……」
ファングは何かに気づき、フレア達を後退させる。その直後、上空から前方の地面に何かが勢いよく降り立つ。砂埃でハッキリとは見えないが、竜がレッドドラゴンを両足で掴んで飛び去るのが見えた。
「まさか………追うぞ!」
ファングを先頭に、フレア達は竜を追いかける。
竜を追いかけた先は、かなり開けた場所だった。木々は凄まじい力によって薙ぎ倒されてしまっている。地面には、何かの骨が無数に転がっている。
「なんだよ……これ…。」
ファングは骨を1つ拾い上げ、形などを観察する。
「ふむ…。おそらくこれは、レッドドラゴンの肋骨の一部だな。探せば、頭骨なども見つかるかもしれない。」
「え?これ全部……レッドドラゴンの骨なの?」
「あぁ。おそらく、スカイドラゴンが狩った奴らだろう。」
「竜が竜を食べるの?!」
大きな声で驚くルミナスに、フレアは首を傾げた。
「竜も生物だから、それぐらいするんじゃないのか?」
「竜は竜は食べないって聞いたけど……。」
「それは違うね。竜は同種の竜は食わないけど、別種の竜は普通に食らうよ。」
「そうなんだ……。」
クロウは辺りの骨の量を見て、少し表情を曇らせる。
「それにしても……相当な数を食ってるな。ざっと見積もって、20体くらいか?」
「道理で、さっきのレッドドラゴンは気が立っていたわけだ。こんなに同胞を食われていれば、警戒するのも当然か。」
その時、ファングは足を止めて身を縮める。少し離れたところに、竜と先程倒したレッドドラゴンの姿がある。竜の体は白銀の鱗で覆われている。
「間違いない。スカイドラゴンだ。」
「鱗も同じだ。まさか本当に、白銀の鱗の個体がいたとは……。」
「リーダー。どうやって戦うつもり?まともに戦って、やり合えるとは思えないんだけど?」
「それよりさ……スカイドラゴンはどこに行ったの?」
クロウの言葉に辺りの空気が凍りつく。
「散れ!」
テルが叫んだ直後、その場の全員は四方八方に散らばる。その刹那、上空からスカイドラゴンが地上に勢いよく降り立つ。衝撃で木々が折れ、砂煙が巻き起こる。
「逃げ場はねえな…。よし、やるぞ!」
ファングとテルは武器を手に、スカイドラゴンへと斬り掛かる。クロウは無数の矢を放ち、スカイドラゴンの気を2人から逸らす。しかし、スカイドラゴンは翼は大きく広げ、風圧で2人を吹き飛ばす。
「ぐっ……?!」
ファングは大剣を地面に突き立ててなんとか持ち堪えも、スカイドラゴンは尻尾を振り回し、木々と一緒にファングとテルを薙ぎ払う。
「くそっ……!」
テルはスカイドラゴンの体に剣を振り下ろすが、白銀の鱗には傷一つ付けられなかった。スカイドラゴンは翼を振り上げ、テル目掛けて力強く振り下ろす。その時、ルミナスの魔法がスカイドラゴンの体の一部を凍らせる。その部位へ向けて、フレアは炎を纏わせた剣をぶつける。氷が一気に砕け、スカイドラゴンに確かなダメージを与える。しかし、スカイドラゴンは怯むことなく反撃に移る。その時ルミナスは、翼に魔力が集まっていることに気づく。それが何かはわからなかったが、間違いなく嫌な予感がした。
「逃げて!」
ルミナスは大声でフレア達に警告する。その声を聞き、フレア達はスカイドラゴンから離れる。そこへ、シーフリーが倒木を投げて物陰を作る。フレア達は即急に倒木の後ろに身を隠す。
「あいつ……何をする気だ?」
スカイドラゴンは体を大きく震えさせる。その時、スカイドラゴンの翼が変形を始める。鱗と甲殻が伸び、翼が異質な姿へと変わってしまう。
「何あれ?!」
驚くフレア達には目もくれず、スカイドラゴンは変形した翼を地面に勢いよき叩きつける。その直後、大きな振動と共に、翼に集まった魔力が大爆発を起こした。爆風は木々をへし折り、フレア達を容赦なく吹き飛ばした。
「なんだ……この怪物は……?」
ファングは大剣で体を支えながら、ゆっくりと立ち上がる。スカイドラゴンは翼を元に戻し、先頭に立つフレアに近づく。フレアは息を切らしながらも、鋭い目つきで剣を構えている。スカイドラゴンはフレアの様子を伺う。その際、スカイドラゴンは翼を折り畳んでいた。その後スカイドラゴンは、何事もなかったかのようにどこかへ飛び去ってしまった。