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【第5話】 竜殺しの旅団

 翌日、フレアは朝日を顔に浴びて目を覚ます。

「もう朝かよ……。」

フレアは寝ぼけ眼を擦りながら、洗面台で顔を洗う。ふと、昨夜の出来事を思い出す。

いかづちの勇者……。敵意こそなかったが、とんでもない実力の持ち主だったな。あんな奴が、他に6人もいるのか……。)

そんなことを考えていると、誰かが扉をノックする。扉を開けると、廊下にルミナスが立っていた。髪はかなりボサボサであり、寝起きだということがわかる。

「早いな……。それで、何か用か?」

「手伝って……。」

「……何を?」

「寝癖直すの……手伝って。」

フレアはルミナスを部屋に入れ、鏡の前に座らせる。

「自分で直してくれよ…。」

「仕方ないでしょ……。だって、寝癖直すの苦手だもん…。」

フレアはルミナスの後ろ髪を櫛で梳く。ルミナスはうつらうつらとしながら、睡魔と戦っている。

「こんな事を聞くのもアレだが……お前って何歳だ?」

「うーん……?どうして年齢なんて聞くの?」

「エルフなんだから、相当の年月を生きてるんだろ?それが気になるだけだ。」

「そうだねー……。あまり詳しくは覚えてないけど、200年は生きてるねー……。」

(200年って……俺の2倍じゃねえかよ……!)

「そんなに生きてるなら、知識も豊富なんだろ?」

「そうとは言えないよ……。200年生きてても、髪を直す腕は上達しなかったからね〜。」

 10分ほどかけて、ルミナスの寝癖を直し終える。

「やっとかよ…。」

「ありがとー…。じゃ、眠いから寝るね〜。」

ルミナスはフラフラとしながら、フレアの部屋のベッドに歩み寄る。

「おい、そっちは違うぞ。あと寝るな。また寝癖ができる。」

「うーん…。そだねー……。じゃ、おやすみ〜。」

ルミナスはベッドに頭から倒れる。フレアは呆れて、大きなため息を吐く。



「フレアさん。おはようございます。」

フレアが廊下で一息ついていると、オズエルに話しかけられる。

「お、おう。にしても……お前も早いな。」

「はい。行商人たる者、時間には厳しくないといけません。それはそうと、昨夜、興味深い情報を手に入れたのです。」

「興味深い情報?それは、行商人目線で見たらなのか?」

「まあまあ、まずは内容を。どうやら昨夜、近くの森林地帯で巨大な生物の姿を確認されたようです。正体はおそらく、ドラゴンです。」

「ドラゴン?一体何を根拠に、そう言えるんだ?」

「実は昨夜、この街に竜殺しの旅団(ドラゴンスレイヤー)の人達を見つけたと聞きまして。」

竜殺しの旅団(ドラゴンスレイヤー)?そんなやつ、聞いたことないぞ?」

竜殺しの旅団(ドラゴンスレイヤー)とは、竜狩りを生業とする組織です。彼らが現れたということは、竜が現れたという事を意味します。」

フレアはオズエルの話を聞き、少し考え事をする。そこへ、ルミナスと青年が合流する。

「待った……?」

「かなり待った。それより……」

フレアは青年に詰め寄り、顔を近づける。

「お前は俺達に同行するのか?しないのか?」

青年はため息をつき、面倒臭さそうに口を開く。

「”シーフリー”……。当分の間、世話になる。これでいいか?」

「それでいいんだよ……!」

フレアはシーフリーの態度に呆れながらも、話の話題を変え、オズエルが口にした情報を2人に伝える。

竜殺しの旅団(ドラゴンスレイヤー)か……。確かに、こいつの言うことは一理ある。何度か奴らの名声を耳にしたことはある。なんでも、団員全員が単身での竜の討伐が可能らしい。」

「それは凄いことなのか?」

「当たり前でしょ。そもそも、竜を倒すこと自体が一種の名誉なの。竜はそんじゃそこらの魔物とは、強さの次元が違いすぎるからね。国の精鋭部隊ですら、簡単に返り討ちにするほどよ。」

「そんなに強いのかよ……。」

「でも、基本は竜と戦うことはしない。あなた達が知っているかは知らないけど、この世界には”竜信仰”が存在している。」

フレアは魔界にも”竜信仰”があることを思い出す。”竜を神として崇める”、というものだ。

「その”竜信仰”について、詳しく教えてくれないか?そういうものには、少し疎いんだ。」

「いいわよ。フレアは「竜の終戦記」というお伽話を知ってる?」

「……聞いたことがないな。」

「これは私が産まれるずっと前からあるお伽話で、”竜と人間の関係”を描いてるの。」

(ルミナスが産まれる前って……一体いつの話だよ……?)

ルミナスはお伽話の内容を思い出し、声に出し始める。

「”遠い昔、人々の争いが絶えず行われた時代。竜は全ての生物を戦火から守り、人々に裁きを下した。人々の戦争は竜の乱入により、瞬く間に収まった。それ以降、人々は竜の現れを世界の怒りだと認識した。しかしある時、天より「漆黒の悪夢」が舞い降り、世界の全てを闇に包み込んだ。人々が絶望に染まる時、幾千もの竜が悪夢に立ち向かった。竜達の奮闘により、「悪夢」は世界から姿を消した。それ以降、人々は認識を改め、竜を神として崇拝するようになった。”これが「竜の終戦記」の内容よ。」

フレアは特に反応を見せなかった。なぜなら、魔界の”竜信仰”と殆ど同じ内容だったからである。

(ちょっと待てよ……。内容が同じなんてことあるか?魔界と人間界はまったく違うと思ってたけど、なんで”竜信仰”は同じなんだよ?!)

「へ、へぇー。そうなんだ…。」

「なんか反応薄くない?」

「いやぁ……壮大すぎて頭が追いつかねぇわ。」

「あー、そゆこと?なら仕方ない。」

フレアはふと、シーフリーのほうを見る。シーフリーは少し苛つきながら、時計を睨みつけている。

「とりあえず……飯にしないか?」

「そうですね。どこで食べましょうか?」



 一方その頃、街外れの酒場にて……。

「はぁぁぁ……。俺だって、そろそろ竜と戦いてえよ!」

3名の男女が酒場で飲み食いをしている。彼らの服には、竜の頭部を模った紋章が描かれている。1人の男性は、ジョッキを机にドンっと置いて叫び声をあげた。

「リーダーうっさい!」

リーダーと呼ばれる男、女性に思い切り平手打ちをされ、床に転がった。女性は床に転がったリーダーの胸ぐらを掴み、噛み付くように怒鳴った。

「こんの酔っ払いが!あんたの直感でこの街に来たてみたけど、目撃情報が1つもないじゃねえか!その癖して、なんで酔っ払って大声で叫んでんだ?!大概にしろ、このドアホが!」

「それを言うなら、姐さんも大概ですよ〜?」

その時、1人の青年が口を挟む。その瞬間、女性は鬼の形相で青年ほうを向く。

「あぁんっ?!口出しすんな!ぶっ殺すぞ!」

「やれやれ、本当に困った人だ。そんなんだから、30近いのに独身なんですよ?」

「今は歳は関係ないだろうが!援護射撃しか取り柄がない奴は黙ってろ!」

「それは聞き捨てなりませんね。僕が援護射撃回っているのは、あなた達がいるからですよ?2人が先陣切って戦うので、僕が前衛に出る必要がないんです。ですので、その言い方は是非ともやめていただきたい。それとも、あなたは僕よりも完璧な援護射撃ができるのですか?そうであれば、後衛を変わっていただけると幸いです。」

女性は青年の言葉に顔を真っ赤にしながら、地団駄を踏む。

「こんの生意気がぁ!こんなクソガキに育てた覚えはないぞ!」

「それはそうですよ。だってあなたは、僕の同僚なんですから。」

その時、リーダーがバンっと机を叩く。2人はそれに反応し、思わず固まってしまう。

「2人とも、落ち着け。」

「なんですか急に?酔いすぎて、とうとう頭がおかしくなりましたか?」

その直後、酒場にフレア達が入ってくる。

「いやーまさか、朝食が食える酒場があるとはな……。ルミナス、飲み過ぎるなよ?」

「流石に朝からは飲まないよ。」

「なんで朝から、酒場に来なきゃいけねえんだよ……。」

「それには同感ですが、あまり悪い気はしません。……それより、先客がいますね。」

フレア達は3人の男女を避けるように、少し離れた席に座る。

「……誰だあいつら?」

「間違いありません。彼らが竜殺しの旅団(ドラゴンスレイヤー)です。あの紋章が、何よりの証拠です。」

「あの見るからに飲んだくれの奴らが?」

「信じ難いでしょうが、これは事実です。」

「まさか、こんな形で出会うことになるなんて……。」

 竜殺しの旅団(ドラゴンスレイヤー)の3人は、ヒソヒソと話をしている。

「もしかして、僕達警戒されてる?」

「その可能性が高いな。変なイメージがつく前に、なんとかして話しかけるぞ。」

「でも、誰が行くの?リーダーが行っても、怖いだけじゃない?」

女性の視線が、自然と青年に向いている。

「はいはい、わかりましたよ。一番若い僕なら、彼らも接しやすいでしょうね。おっと、これは皮肉ではないので、勘違いしないように。」

そう言って、青年はフレア達に静かに近づいた。

「おはよう諸君。少々、驚かせてしまったかな?時間が許すなら、お詫びをしたいところなんだ。」

フレア達は突然現れた青年への対応に困り、固まってしまう。

「……あれ?もしかして僕、やらかした?」

「思いっ切りやらかしてんだよ!何が「おはよう諸君」だ!初対面でそんなことを言うアホがどこにいる?!」

女性の怒号が、酒場に響く。青年は反省しているように装い、2人のところへ戻っていく。

(なんだったんだ……???)

フレア達は困惑しながら、メニューに目を通す。酒場の朝食と聞いて内心警戒していたが、ラインナップは至って普通だった。

「この中だと、サンドイッチがダントツで美味そうだな。」

「そうね、サンドイッチが一番美味しそう。」

「同感だ。」

「異論はありません。」

4人の朝食は、満場一致でサンドイッチに決まった。その時、リーダーと呼ばれる男性が4人のテーブルの前に滑り込んでくる。

「ちょっと待て!」

(今度はなんだよ……!)

男性は懐から、何かのソースが入った容器を取り出し机にドンッと置いた。

「こいつを使いな。ここのサンドイッチと、驚くほど合うんだぜ?」

「……使うか?」

「使わない。だって怪しい人から、物を借りちゃダメだから。」

「んなっ?!」

男性は口を大きく開いて驚愕する。そこへ、シーフリーが畳み掛ける。

「つか、あんた誰だよ?不審者であれば、近衛兵に報告してもいいんだぜ?」

「ふ、不審者……?お、俺が?」

「誰の目から見ても、不審者にしか見えねえよ。」

 その様子を、青年と女性は遠くから見ていた。

「あっらら〜。リーダーが介入したせいで、余計に面倒なことになっちゃったねぇ。」

達観している青年とは違い、女性は怒りで額に血管が浮き上がっている。それに気づいた青年は、女性に耳打ちする。

「姐さん。ここはブチ切れるんじゃなくて、リーダーのフォローに行きましょうよ。でないと、姐さんの印象が沸点が低い人になってしまいますよ?まっ、あながち間違ってはいませんけど。」

「お前はいつも、一言余計なんだよ!あとでみっちり説教だ!」

「はいはい…。あの欠伸が出そうになる程、うんざりするような説教ですね。」

「てめぇ……一回ぶっ殺すぞ!」

「おー、怖い怖い。」

青年は女性の怒号を無視して、男性にフォローを入れる。

「いやー、うちのリーダーがすいませんねぇ。こう見えてもリーダーは常識人ですので、大目に見てやってください。」

そう言う青年に対し、シーフリーが一言言い放つ。

「だったら、他人の食事に口出ししねえだろ。」

「あぁ……!確かに、君の言う通りだ。」

青年は手をポンと叩き、シーフリーの言葉に大きく頷く。

「なんで納得してんの?!俺のフォローに来たんじゃないの?!」

「彼の言うことがあまりにも正論だったものでね。つい、納得してしまいましたよ。」

「お前なぁ……。どっちの味方なんだよ……?」

「もちろん、リーダーの味方ですよ?」

男性は青年の態度に呆れてため息をつく。しかし、青年はいつもこの感じだったことを思い出す。

「そういえば、お前はそれがデフォだったな。」

男性は女性を呼び、4人の前に並ぶ。

「ここで会ったのも何かの縁だ。まず、俺らが誰なのか知っているか?」

「えぇ。竜殺しの旅団、またの名をドラゴンスレイヤー。竜狩りを生業とし、世界中を旅する組織ですよね?」

「概ね正解だ。だが、別に世界中を旅するわけではないぞ?」

「そうなのですか?名前に旅団とついているので、てっきりそういう組織かと…。」

「まあ細かいことはどうでもいい。この俺が、竜殺しの旅団(ドラゴンスレイヤー)のリーダー、”ファング”だ。ほら、お前らも名乗れ。」

「はぁ?ちょー面倒なんだけど?そもそも、名乗りをするのは先輩方が優先でしょ。てなわけで、僕は姐さんが名乗るまでは名前は言いませんよ。」

「私は”テル”。このバカが率いる、竜殺しの旅団(ドラゴンスレイヤー)のサブリーダーだ。あと、こいつとは血の繋がりはない。」

「ちょっと姐さん!なんでそんなにスッと言っちゃうかな?!さっき断言しちゃったから、言うしかなくなったじゃないか!」

(いや、さっさと言えよ。)

青年は「やれやれ。」とため息をつき、気だるげに名乗る。

「僕は”クロウ”。竜殺しの旅団(ドラゴンスレイヤー)に入って2年の新米です。僕の実力には、あまり期待しないように。」

「よし、終わったな。さてと、俺達はお暇させてもらうぜ。」

そう言って会計を終え、彼らは風のように去って行った。

「……マジでなんだったんだ???」

「ほんと、なんだったんだろうね。」

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