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【第2話】 エルフの少女と始まる旅

「怪我はない?」

駆け寄って来たエルフの少女は、フレアを心配そうに見つめる。

「怪我はしてない。池に落ちかけたけどな。」

触れは剣を鞘に納めながら、そう答えた。それを聞いてホッとしたのか、少女はため息をついた。

「それにしても、なんでこんなところに?」

「……いやー、ちょっと道に迷ってな…。」

フレアは咄嗟に言葉を考えた。

「道に迷った……?」

少女はフレアを不審そうに見つめる。

(げっ……?!今なんか、変なことでも言ったか?!)

フレアは内心でビクビクしていると、少女は何かを察したような顔をする。

「もしかして……」

「は、はい…?」

少女は顔を近づける。明らかに、こちらを怪しんでいる。フレアは恐る恐る、少女の声に耳を傾ける。

「地図を持ってないの?」

「………まぁ、そんなところだ。」

「なーんだ。それなら、最初からそう言ってくれればよかったのに。」

フレアは心の中で、安堵の息を溢した。しかし、少女は思い切った行動に出る。少女はフレアの手を掴む。

「へ……?」

「ほら、行くよ。」

「じ、自分で着いて行くから!」

フレアは少女の手を振り払う。その瞬間、少女は露骨に落ち込んだ。

「え…?嫌…だった…?」

「そういうわけじゃなくて……。ほら、初対面だから…。な?」

「それならいいけど…。」

少女は三つ編みにした薄桃色の髪を握りながら、少し小さな声で答えた。

「……わかったよ。他の人がいない間だけだぞ?」

フレアはそう言って、少女に手を差し伸べる。少女はフレアの手を優しく握りしめる。

「それで、どこに行くんだ?」

「もちろん、”西方都市ウェスタニア”よ。」

(ウェスタニア?西方都市?確か、ガキの頃に読んだ本に書いてあったような……。)

「……もしかして、知らない?」

「いや……行ったことがなくて…。名前しか知らないんだ。」

(咄嗟に言い訳を思いついたけど、これで誤魔化せるか……?)

「実は……私も行ったことなくて…。」

「あ……そうなのか?」

「そう。空を飛んで向かってたら、偶然、あなたが戦ってるのを見つけて…。」

「そういうわけか…。ウェスタニアまで、どれぐらいの距離がある?」

「えっと……丸一日かかるかも……。」

フレアは空を見上げる。太陽はちょうど、真上に来ていた。

「今が正午くらいか……。どこかで野宿をする必要があるな。野宿の経験は?」

「ここに来るまでに何度か。」

「なら、いけるな。」

2人は手を繋ぎながら、森の中を歩き進む。

「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はフレア。あんたは?」

「私は”ルミナス・コスモ・ラピスラズリ”。長いから”ルミナス”でいいわ。」

「ルミナスさんで、あってるか?」

「さん付けはいらないよ。長い付き合いになると思うからね。」



 突然、急な豪雨に見舞われた。2人は急いで、近くの洞窟へと転がり込む。

「うわぁ……。ビッショビッショだ…。」

ルミナスはスカートの裾を絞り、染み込んだ雨水を捨てる。

「これは……しばらく止みそうにないな。道中、木の実を集めて正解だったな。」

ルミナスはフレアの胸元で動く、光る何かに気を取られる。

「ん?どうかしたか?」

「ちょっといい?」

「……これのことか?」

フレアはルミナスに、純白のネックレスを見せる。

「綺麗……!」

ネックレスの美しさに、ルミナスは思わず目を奪われる。

「母さんの形見なんだ。まぁ、母さんのことは殆ど憶えてないけど…。って、完全に見入ってるな。」

「……このネックレス……。どこかで見覚えが…。」

「え…?」

ルミナスの予想外の言葉に、フレアは目を丸くする。

「えっと……見間違いじゃないのか?」

「なんだっけなぁ……。」

ルミナスはしばらく記憶を探ったが、ネックレスに関するものはなかった。

「うーん、思い出せない…。でも思い出せないってことは、たぶん、特別なものじゃないんだろうね。」

フレアはネックレスを服の内側にしまい、洞窟の外を見る。雨が弱まり始めていた。

「そろそろ行くぞ。」

「ふん。わはっは。(うん。わかった。)」

ルミナスは木の実を頬張りながら、フレアの横を歩く。



「ん?あれは……」

2人は森の中に小屋を見つける。見るからに、簡易的に作られたものだ。

「人がいたりしないよね?」

「いたとしても、ロクでもないやつだろ。」

フレアは空を見上げる。空は橙色に染まり、日が沈みかけていた。

「今から野宿場所を探すのは危険だ。とりあえず、小屋に寄ろうぜ。」

微かに怯えているルミナスを連れ、フレアは小屋の扉をノックする。すると、中から物音がした。

「すみません。少し待っていただけますか?」

中から青年の声が聞こえた。それと同時に、何かを整理するような音が聞こえてくる。

 少しして、小屋の扉が開かれる。

「おや、旅の方でしたか。どうぞどうぞ、お入りください。」

青年は2人を快く、小屋の中へ招き入れる。

「床ですみませんが、ささっ、お座りください。」

青年は2人を座らせ、コップに注いだお茶を差し出す。

「こちら、”東方都市イェストリア”産の茶葉でお作りしたものです。どうぞ、お飲みください。」

2人は青年に押され、半ば強引にお茶を飲まされる。

「どうですか?ほのかな苦味と、深い香りが良い味を出しているでしょう?」

「言われたら、そう思える、のか?」

ルミナスはこのお茶を知っているのか、すぐに飲み干した。

「おや?そちらのお嬢さんは、もうお飲みになられたのですね。おかわりは必要ですか?」

「いえ、大丈夫よ。」

ルミナスは口を布巾で拭く。

「ところで、あなたは誰?」

「おっと、私としたことが…。申し遅れました、私は”オズエル”と申します。ただのしがない行商人です。失礼ですが、お二人の名前をお伺いしても?」

「俺はフレアだ。」

「ルミナス・コスモ・ラピスラズリよ。」

「行商人が、どうしてこんな所に?」

「少しばかり、商品になりそうな山菜などを探していたのですよ。この付近で採れる山菜は、調合すれば万能薬になるのです。この小屋は、臨時拠点として私が作ったものです。」

「護衛はいないの?」

「お恥ずかしながら、商売があまり上手くいっていないのですよ。ですので、護衛を雇う余裕などありません。その代わり、私自身、けっこう戦えるのですよ。」

フレアはルミナスに小声で聞く。

「なぁ。行商人って普通、戦えるものなのか?」

「私は見たことがないよ。」

「……おや?」

オズエルはフレアが首にかけているネックレスに気づく。

「そちらのネックレス……。少々、拝見させてもらってよろしいですか?」

「……まぁ、お茶をいただいたしな。丁寧に扱ってくれよ?」

フレアはネックレスを外し、オズエルが用意した台の上に置く。

「これはこれは……。なんとも興味深い……!」

オズエルは明らかに興奮している。

「何かわかったのか?」

「はい、もちろんです。このネックレスは非常に貴重な代物です。300年前までは手に入れることは可能でしたが、それ以降は数が激減し、今では殆どの人が見ることすらできません。」

「激減って……このネックレスは何でできてるの?」

「はい。こちらのネックレスのチャーム部分は、ダイヤモンドで作られています。それも、極めて純度が高い天然物です。そして最大の特徴ですが……チェーンの部分を見ていただけますか?」

2人はネックレスのチェーンを観察する。よく見ると、チェーンの隙間に緑色の宝石が埋め込まれていた。

「こいつは……エメラルドか?」

「これはアレキサンドライトという、ダイヤモンドよりも貴重な宝石です。1カラットだけでも、とてつもない価値がありますよ。使われている量からして、このネックレスの価値は、数百億は下らないでしょう。」

「えっと……どれぐらいだ???」

「そうですね……。中央都市キャピトラルの15%とほど、でしょうか。」

「じゅっ……?!」 

フレアは驚いて固まってしまう。

「それはそうと、まさかエルフと出会うことになるとは……。人生で2度目の経験ですね。」

「珍しいのか?」

「はい。なんせエルフは、滅多に都市に訪れないのですから。その上、"エルフの都"は東方大陸の何処かにあるとされています。その何処かとは、人間が立ち入れられない場所とも言われています。それに、ここは西方大陸なので、東方大陸の真反対になります。」

「え…、お前、そんなに移動してたのか?」

「うん…。実はそうなんだ。それにしても、なんで"エルフの都"が東方大陸にあることを知ってるの?知っている人間は、ほとんど存在しないのに。」

「まぁ、私は行商人ですので。世界各地を練り歩いて、偶然、手に入れた情報です。」

「そういうものなのかな……?」

ルミナスは髪をクシで整えながら、オズエルの話に耳を傾ける。

「ところでお嬢さん。確か、"ラピスラズリ"と言いましたか?」

「うん、それがどうしたの?」

「古い本で見た話ですが、"宝石の名を持つエルフは、高貴な身分"であるとされています。」

「ふーん、そうなんだ。」

「おや、違うのですか?」

「違うわよ。私はお嬢様ってわけじゃないし、名のある家の出でもない。」

「まぁ、同じ名を持っているだけかもしれませんしね。私はエルフではないので、あまり追及はしません。」

オズエルはコップを片付けて、荷物を整理する。

「今夜はこの小屋を使ってください。」

「いいのか?」

「はい、今日はもう遅いですしね。それに、あなた方にお願いしたいことがありまして。」

「お願い?」

「中央都市キャピトラルまでの、護衛をお願いしたいのです。」

「金がないんじゃなかったのか?」

「はい、そうです。ですので護衛の間、有益な情報をあなた方に提供するというのはどうでしょう?」

「情報、か…。ルミナスはどう思う?」

「長旅において、情報ほど貴重なものはない。食料や水の次に、必需品と言えるくらいにはね。」

「なら、決まりだな。本当に、有益な情報なんだろうな?」

「はい。行商人として、保証します。」

「そうと決まれば、晩飯の準備をするか。明日は早いぜ。」

3人は各自に分かれ、夕食の準備を始める。



 翌日、フレアは鳥のさえずりで目を覚ます。窓を開け、部屋の中に日差しを入れる。日差しを顔に受け、ルミナスが目を覚ます。

「あ……おはよう…。」

ルミナスは寝ぼけ眼を擦りながら、ゆっくりと体を起こす。

「起きたか。」

「うん……。あれ……?あの行商人は……?」

フレアはオズエルがいないことに気づく。その時、小屋の外からオズエルが戻ってくる。

「お二人とも、おはようございます。少々、山菜を採取に向かっておりました。」

オズエルのバッグには、数種類の山菜が入れられていた。

「こちらの山菜は滅多に取れないものでして…。商品として、高値で売れるのですよ。」


 3人は軽く朝食をとり、支度をして小屋を出る。森の中をひたすら歩き、太陽が真上に到達した時に、森を抜けた。

「やっと抜けたか……。」

「そんなことより、あれ。」

ルミナスは遠くに見える城下町を指差す。

「あれが、”西方都市ウェスタニア”よ。」

「この距離でも、壮観だな。まだまだ離れてるぞ。」

3人は丘を進み、ウェスタニアを目指して歩く。

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