334/456
夏、恋をした
この夏に恋をした
物語るような瞳のまつげの先に揺れる緑
そっと視線を落とした先にある波打つ海
重ね合わせた手はじんわりと冷たかった
あの夏に恋をした
高台から眺めた夜空を散りゆく花々の数
おそろいの髪飾りを着けて交わした口吻
頬を流れた涙を浴衣の袖で拭った静寂さ
この夏に恋をした
海に溶けるときが来たら、と口にすれば
そんなに哀しそうな顔をしないでと笑う
瞳の奥に流れる走馬灯と私の知らない恋
あの夏に恋をした
砂浜を歩く白いワンピースは波の色へと
染まってゆくのを見ながら立ち尽くした
最初から交わらない想いだったと知って




