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消去
欠けたピースを埋めるかのように
傷を刻んだ腕は赤に染まっていく
集めたピースを染め上げていく赤
埋まらない心はゴミ箱に移動した
「今までの記憶を削除しますか」
「はい」迷わずカーソルを動かす
「削除しています」ぐるぐる回る
消えていく一欠片の記憶を掴んだ
初期化された私の前に現れた人間
誰かの名前を叫んでは手を掴まれ
ただそれを呆然と眺めている私に
涙を見せた人間は絶望に変わった
欠けたピースを埋めるかのように
人間の思い出だという話を聞いた
手のひらに残った一欠片の記憶を
ぎゅっと握りしめては頬を伝った




