16/406
一冊の本
ご主人様
僕はここにいるよ
たまにはこっちを
向いてほしいな
本棚の奥に
僕は仕舞われた
毎日僕を開いて
毎日文字を書いて
なんで見向きも
しなくなったの
忘れたのかな
思い出してよ
ほこりを被って
暗くて狭い場所
ずっと立っている
ご主人様はどこ
寂しいな
悲しいな
手にとってよ
もう一度開いてよ
諦めている
もう二度と
思い出さないんだ
そんなものだった
目の前にあった
本が退けられた
久しぶりに見た
薄暗い部屋を
手でほこりを払う
ご主人様の顔は
濡れていて
おかえりご主人様