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望まれた発見

作者: 雉白書屋

 宇宙空間を進む、とある宇宙船。その船の乗組員たちは新たな発見を求め、航行を続けていた。

 資源や新種の生物など、国に利益をもたらすような新たな発見を必ずこの手に持ち帰る。そう志を一つにしていた。

 しかし、それらしい惑星を見つけては調査を重ねたが、空振り続きだった。そして、食料や帰りの分の燃料を計算した結果、そろそろ引き返さなければならないことがわかり、船内に暗いムードが漂いはじめた時のことだった。


『船長! コックピットに来てください! 外、船外カメラが!』


「わかった。すぐに行く」


 耳の通信機から聞こえた部下の慌ただしい声に、ダイニングルームで食事をしようとしていた船長は椅子から立ち上がり、コックピットに向かった。


「船長、これは、あの、船長……?」


「……あ、ああ。すぐに回収しろ。早く、それから丁寧にな」


 映像を確認した船長が戸惑いを見せるのも無理はない。頭部、胴体、四肢。船外カメラからモニターに映し出されたのは間違いなく、人型の生命体。そう、宇宙人の姿であった。

 急いで宇宙船に引っかかっていた宇宙人を回収し、隔離室に運び込んだ。宇宙空間の温度は約マイナス二百度。ゆえに宇宙人の身体は完全に凍りついていたが、未知の病原菌を警戒し、防護服を着用して解剖作業に入ろうとしていた。しかし……


「あ……あぁぁぁぁぁぁぁあああぁ……」


「うおっ!」

「うあ!」

「きゃあ!」

「生きているのか……これは……」


 息を吹き返した宇宙人に、その場にいた全員が驚き、息を呑んだ。しかし、さらに驚くべきことに宇宙人はしばらくすると体温が彼ら乗組員たちの値に近づき、肌に色味が戻ってきたようだった。その後、おそるおそる調べたところ、警戒していた病原菌も見つからず、宇宙人は至って健康と言えた。


「……いや、あり得ないだろう。回収してからまだそんなに時間が経っていないんだぞ」


 船長は別室に移動させた宇宙人の様子をドアの小窓から覗き、そう言った。


「で、ですが、船長も見たでしょう、あの変化を……」


「ああ、すっかり元通りというわけだ。いや、元の状態を知らないがな」


「怪我などが治っていくあの様子は不気味でしたね……」


「ああ、まるで形状記憶素材のようだった。それで、どうなんだ?」


「はい、今ひたすらに装置に話をしてもらい、言語を記録しています。このデータを分析し、翻訳装置を介して話を聞けるようにするために」


「ああ、しかし、もう口がきけるようになっているとは……。まあ、協力的で助かるが……」


「あ、今、終わったようです。各乗組員の端末にデータを転送します。これで話せるはずです」


「よし、入ろう。私が話す。後ろにいてくれ。くれぐれも怯えさせるなよ」


「はい。まあ、大丈夫だと思いますが……」

「図太そうだしな」

「こっちが怖いですよ……」


 船長と数名の乗組員が宇宙人のいる部屋に入る。

 すると、宇宙人は満面の笑みを浮かべて両手を広げ、歓迎するような仕草をした。


「我々が歓迎されている気分だな。まあ、いいが……えー、どうも、よろしく。私はこの宇宙船の船長だ」


「おっぉぉ、ああぁありがとうございます……拾っていただいて……」


「ああ、いいんだ。驚かされたがな。それで、あなたはなぜ宇宙空間を漂っていたんだ? それもなぜ死なずに、一体あなたは……」


 と、船長は念願だった新たな発見を前に、興奮を抑えようと言葉を区切り、咳払いした。宇宙人は答えた。

 

「話せば長いような短いような……まず、私は不老不死なんです」


「不老……不死……そんなまさか、まあ確かに実際に体の損傷が治るところを目の当たりにしたわけだが……」


「ええ、信じられませんよね。ですが、何も生まれたときからこのような体だったというわけでも、私だけでもないのです。まあ、私より何世代下は、産まれた直後にその類の手術を受け、また生まれる前から遺伝子情報をいじられていますが……」


「え、え、ということは、どうやらかなり科学が発達した星の方のようだ……」


「ええ、不老と言いますが、それも自由自在。単純に年齢を変えるだけではなく、容姿も整形手術でどうとでもでき、病気も飢えもなく死なないのです」


「すごい……まさに」


「欲望を詰め込んだ箱、ですかね」


「まあ、希望や英知の結晶と言おうとしたんだが……ははは……」


「ふふ、ふふふふふ」


「とにかく、話は信じよう。目の当たりにしたのだから。だが……なぜ、そんな素晴らしい星出身のあなたが宇宙空間を漂っていたのか気になります。乗っていた宇宙船が事故に遭ったのでしょうか?」


 望んでいた素晴らしい発見が目の前にある。しかし、話が話だけに、船長は何か裏があるのではないかと勘ぐった。

 この宇宙人は追放された罪人で、死ぬことも許されず、永遠に宇宙を漂い続け……といった悪い想像が頭に浮かんだ。


「……私だけではないのです」


「え?」


「不老不死と言っても、技術が確立された当初はここまでのものではなかったのです。ええ、死ぬこともあった。だって、そうでしょう? 不死なんていっても、ミンチもされたり、燃やされて消し炭になってしまえばそれまでです。それでも私たちは老いない、怪我が治るという十分すぎる肉体を手に入れました……でも、欲望は止まらず、そして争い合うこともやめはしなかった。強く強く、今より良くと。しかし、心は疲弊していき、やがて、星の終わりが迫ると、我々はそれを受け入れ、ともに散ることにしました。……でもね、ふふふふふっ。不老不死、これはね、病ですよ。死ねない病。ああ、あなた方を見つけたとき、嬉しかったなぁ……。地球が、故郷がボロボロに砕け散って、それでも死ねずにいて、みんなずっと待ってたんですよ。漂い続けて、いつかいつか、と……へへへ……へはははははははは!」


『せ、船長! 船の周りに! 船長!』


 宇宙人の話に圧倒され、黙る船長にコックピットから既視感のある声で通信が入った。

 話の全容を聞かされた船長は、それでもまだ決めかねていた。目の前にあるもの、そして船の中に入ろうと纏わりつくそれらは災いか恵み、どちらなのだろうかと……。

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