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 地下24層、地下25層での戦闘は非常に安定したものだった。

 スイとヒルネの遠距離攻撃攻撃、俺とトウカが前衛を引き受け、スイとヒルネがカバーする。相手に遠距離攻撃をするモンスターがいれば、ヒルネが遊撃にあたる。


「退屈になるくらい問題ねぇな」


 あくびをし、口元を手でこする。

 そろそろひげが伸びてきたな。指先で押せば、硬い毛がぽきっと倒れるような感触がした。


「そろそろ、そうも言ってられなくなるけどね」


 スイが細剣で指した先には、謎物質で出来た黒い建物。ダンジョンの階層をまたぐ階段だ。


「なんか変じゃねえか?」


 普段よく目にするものは2種類。浅い階層ならば、普通に建物の階段のように見えるが、色合いだけ謎物質になっているもの。深い階層ならば、地上にあるのと同様に、豆腐みたいに真四角な建物にぽっかりと入り口が空いているもの。


 ところが、今目の前にあるのはねじくれた石柱に囲まれ、地面に直接下り階段がぽっかりと口をひらいている。


「こういう禍々《まがまが》しいデザインの階段は、ボス階段って言われておりますね」


「ほー、ボスね」


「めっちゃ強いから、普段はこういう階段避けてるんだけど……今回の私たちの探索は、ボス階段の情報収集の依頼を受けてるんですよねー」


 なるほど、そういう依頼もあるのか。

 俺が深層に潜ったときはこんな階段は使わなかった。広いダンジョンには無数に階段がある。そのうちの幾つかが、こんな感じのボス階段になっているのだろう。


「階段でボスが待ち構えてんのか?」


「そんなシュールな感じじゃないよ。上からガソリン流せば解決するじゃない。階段の先が扉になってて、ボスがいる広い部屋に繋がっているの。ここで言うなら25.5階層ってところかな」


「なるほど、ゲームみたいだな」


 反応がイマイチなのは時代の違いなのか、この子たちがそういうゲームをしないだけか。おじさん定期的に寂しい思いするんだが?


「関東ダンジョン25階層、環境は屋外アンデッド。この条件でのボス戦は私たちが初になります。気を引き締めていきましょう」


 流石に深層のドラゴンより強いってことは無さそうだが、未経験のものは正しく恐れた方が良さそうだな。

 初見殺しじみた一発芸を持っているモンスターも珍しくない。ボスとくれば、何がっても不思議じゃないだろう。慎重にいかないとな。


 こういうときだけは、盾なんかが欲しくなる。木製でいいから、コボルトのでも奪ってくれば良かった。

 ――なんて思っていると、トウカがドローンに吊るしたコンテナからタワーシールドを取り出した。焼き菓子の八ツ橋みたいな形をした、長方形のでっかい盾だ。ずるい。

 なんとスイまで小ぶりな盾を取り出す。こちらは小さめのヒーターシールドだ。将棋の駒をひっくり返したような形。某姫様の伝説のゲームで、緑衣の勇者が持っているような盾だな。


 盾無し組は、俺とヒルネだけのようだ。親近感を込めてじっと見つめると、「な、なんですかぁ」と涙目になって後ずさった。なんでや。


 ボスがどんなものか不明な以上は、いつもみたいにゴリゴリのインファイトはするべきじゃない。腰のベルトに手斧を差し込み、手には槍を持つことにした。


 槍は良いぞ。人類がマンモスを倒せたのは、槍を発明していたからだ。

 原初の人類が、絶対に素手では倒せない強敵を打倒した、最古のジャイアントキリングの立役者なのだ。


 ボス部屋の扉は、軽自動車くらいなら余裕で通れそうな大きさの、両開きのものだった。階段と同じ謎素材で出来ており、俺たちが近づくと自動的に開いた。

 異様な空間だな。直径50メートルくらいの半球状の部屋。壁に床、その全てがなめらかな白い石で出来ている。妙な明るさに違和感を覚えじっくり見てみれば、建材の石自体がぼんやりと発光しているようだ。


「ボス、いないな」


「中央辺りまで行くと出てくるんだって」


「誰かの配信で見たのか?」


「うん」


 言葉短めにスイとやり取りする。

 ちらりとドローンを振り返れば、コメントが読めないくらいに遠ざかっている。どうやら強敵との戦いに合わせて、被弾しないよう離れて撮影するようだ。そんな判断が出来るくらいのAIを積んでいるとしたら、凄いことだな。


「先に支援魔法バフをかけます」


 トウカがメイスを掲げた。


『ティガ リ アイ テティー マロシ リ アウ テ イア マイ トゥ』


 橙色の光が俺たちの胸元に飛び込んできて、小さな光の玉を形作った。じわりと染み込み、溶け込んでいく。


 何が、という訳じゃないが、なんとなく力が湧いてくるような感覚。拳を強く握りしめたときに、「なんか今日力入るな」と思うような、そんな感覚が全身に広がる。


「体を少しだけ頑健にし、高揚、鎮痛、出血の抑制などの効果もあります。力が強くなる人もいるみたいです。気休め程度ですが」


「十分すげえわ。大人になるとな、体調が万全だな~って感じる日が少しずつ減るんだよ。これ、ちゃんと老化したやつらにかけてやれば、泣いて喜ぶぞ」


「ふふ、そうですか」


 冗談だと思ったのか、トウカは笑っている。

 俺はたまたま若さを残した状態で老化が止まっているが、冒険者のときにいたオッサン連中なんかは、毎日肩が痛いだの疲れが取れないだの目がかすむだの言ってたからな。


 力がみなぎった勢いそのままにボス戦広場の中央まで進むと、突如地面が揺れた。

 震度4くらいか? 足を踏ん張って耐える。

 俺たちの目の前に、地面と同じ材質の箱がせり上がってきた。サイズは一辺4メートルの立方体ってところか。


 ズン。


 重たい音。

 出所は明らか。箱の表面に大きな亀裂が入っている。パラパラと零れ落ちる、砕けた石材。


「こりゃまた、でっけえプレゼントだな」


 軽口を叩いたその瞬間、石材が爆ぜるのが見えた。

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