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【書籍化】ダンジョンに閉じ込められて25年。救出されたときには立派な不審者になっていた  作者: 乾茸なめこ


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 ジビエは臭みとの戦いだ。

 人間が美味しく食べられる生き物を、長い年月かけて改良し続けた畜肉と全然違う。

 漫画肉みたいな巨大な肉塊は、野生のモンスターの食べ方としては不向きだ。あれは肉=美味いという方程式が成り立つ、現在の価値観ならではのものだな。


 まずは皮と内臓に近い部分はガンガン切り落とす。筋や太い血管も絶対に許さない。周りに血が滲んだ部分は、容赦なく肉ごと捨てる。

 ここを躊躇うと、全部食えないくらいの臭みが残ってしまう。心を鬼にして、勿体ない精神を殴りつけるべきだ。今回はリザードマンが拾い食いしているが……。


 可食部を薄切りにし、焼酎に漬けていく。ここに塩と砂糖も入れてしまう。

 ほんのりと焼酎に赤色が広がった。まだ血が残っていたか。


 これで臭みを《《抜く》》。

 放置している間に、他の食材の準備だ。

 玉ねぎ、にんじんを薄切りにしていく。本当は葉野菜とキノコも使いたいところだが、ダンジョンでそんなもの食ったら命取りだ。


『面白い匂いだ』


 カルカが上から覗き込んだ。


『まぁ慣れない匂いだろうな。すまんが、俺らの手で作れる分量だと、リザードマンにとっては味見くらいにしかならねえわ。ほとんどは生肉食ってもらおうことになるだろうよ』

『狩りだけでも十分だ。そこまで手をかけてもらって言える文句など持ち合わせていない』


 紳士すぎるな?

 これが力ある種族の余裕なのか?


 鍋でオークの脂肪を溶かし、そこに引き上げたマンティコア肉を放り込んだ。バチバチと激しく油が跳ねる。

 ちょっと距離をとって、油跳ねが落ち着いてからこんがり揚がった肉を取り出した。余分な油はマンティコアの皮にかけて染み込ませる。


 あとは野菜とニンニクを炒め、そこに肉と塩と中華スープの素を入れて、最後に水溶き片栗粉を入れてひと煮たちさせれば完成だ。


『うーん、美味いかわからんが完成だな』


 俺らにとって美味いかもわからねえし、リザードマンにとって美味いかもわからねえ。

 ま、そんなもんだろ。食えりゃ結構。


『熱そうだ』

『ふーふーして食え』


 ふーふーというより、はぁっはぁっといった様子でシェラカップに息を吹きかけるカルカ。形を変えられる唇を持っていないから、ふーふー出来ないんだな。

 ある程度冷ましてから、意を決した様子で口に流し込んだ。


『ふむ……?』


 しばらく目をつむって味わってから、カルカは言い放つ。


『わからん! 味が複雑すぎる! 情報の洪水だな!』


 そりゃそうか。普段からシンプルなもの食ってるんだもんだ。思わず笑ってしまった。


『何もしてないマンティコアもたくさんある。そっちを食ってくれ』

『ああ、頂こう!』


 まだ日も暮れていないが、リザードマンたちが集まってきて宴会の様子になってきた。

 中華あんかけ風のは俺たちで食べる。


「なんか、いまいちだね」


 スイが首を傾げる。

 俺も首を傾げた。臭みもとれたが旨味も抜けたか?

 中華スープのもとが良い味してるな、としか思えない仕上がりだな。


「認めたくないが、食材としてはオークが最強説あるなぁ」


 山里も微妙な表情で食べていた。

 言っちゃあれだが、マンティコアよりリザードマンの方が美味いと思う。もう食うこともないだろうが。

 食事を終えて後片付けをしながら、カルカと焚火を囲む。


『下層に降りるのはいつ頃やるんだ?』

『先遣隊がルートの策定をしている。それが戻り次第だ。10日間も経たずに行くだろう。このタイミングで出会えたのは奇跡だな』

『そうか。ギリギリな出会いだったな。ヴリトラと熊、どっちが強いか見ものだ』

『流石にヴリトラだろう』

「おい!」


 俺とカルカの間に流れるのんびりとした空気を、比嘉ひがの切迫した声が打ち破った。


「どうした?」

「アーサーたちが接近してるぞ!」

「マジかよ」


 全員立ち上がる。

 強化外骨格を脱いでくつろいでいたトウカも、慌てて着込み始めた。


『カルカ。別の人類がヴリトラを狙って潜ってると言ったな。そいつらがこっちに向かっている。敵対的かもしれねえ、備えた方が良い』

『なるほど? 危険な相手か』

『おそらく』


 カルカも槍を持って立ち上がり、空に向けて「オー、オッオッオ!」と繰り返し吠えた。

 小柄なリザードマンたちは一気に湖に飛び込んでいく。残った体格のいいリザードマンたちが、カルカを守るように槍を手に集まってきた。


 臨戦態勢に入ったリザードマンたちは、身じろぎひとつしない。

 完全な静寂の中に、彼らの張りつめた緊張を感じた。


 ぼんやりとリザードマンの群れを眺めると、各々の鱗の色が混ざり合い、迷彩のように見えてきた。もしかすると、群れという団体での隠密性が考えられた体色なのかもしれないな。


「来たな」


 ホログラム表示されたマップを見ている比嘉が言った。


『剣士が単騎で来るぞ! 速い!』


 続けて大音量の翻訳機を通す。

 遠くに薄ぼんやりと発光する人影。それが高速で接近してくる。

 間違いなく戦る気だな。友好的に近寄るなら、最大戦力での高速単騎突撃をやる必要はねえ。


「迎撃用意」


 1対多数で悪いが、ボコらせて貰うぞ。

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