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8.まずは塩唐揚げ

あれから1か月。

家業の手伝いや公務の合間に文献を漁り、調べものをしていたサラフィナとレンリッヒ。


サラフィナは普段、主に領地経営の手伝いをしていた。いつかは大なり小なりいずれかの貴族に嫁ぐことは既定路線だが、領主夫人になる以上、領地経営に携わることになる。


ヴォード公爵家では父アンドリューが帝国の宰相を務めているため、引退した祖父母が領地の経営を行っている。引退したとはいえ、広大なヴォード公爵領の経営は大企業の社長業務レベルだとサラフィナは思っている。夫人である祖母の役目は内助の功と言われるが、実情は経理部長と総務部長の兼任レベルだ。


アンドリューが宰相を辞任して領地経営に専念できるまで、祖父母の悠々自適なリタイア生活はやってこない。高位貴族になればなるほどハードワークである。


そんな祖父母を少しでも助けるべく、また自分の将来にも備え、サラフィナは経理や農地管理の勉強をし、彼らの補佐をしていた。来週からは2か月ほど領地に帰る予定だ。


帝都から領都ヴォードシティへは道路も整備されていて、馬車で半日の距離だ。その地の利ゆえにヴォード公爵領は帝都の食糧庫と呼ばれている。気候も温暖で、新鮮な野菜や果物、卵や乳製品、お肉といった畜農産物が毎日帝都に運ばれてくる。忙しいアンドリューなどは日帰りすることもある近さだ。


そんな距離にもかかわらず豊かな自然が広がる領地が、サラフィナは好きだ。

「2か月も帰る必要はあるのか?長すぎではないか?」

国の仕事があって自分は帰れないアンドリューはぶつぶつ言っているが、気にしない。


「私も一緒に帰ってお父様とお母様をお手伝いできれば良いのだけど」

そういう母レティシアは、ヴォード公爵家における国内外の取引を一手に担っている。しっかり者のレティシアはヴォード公爵家において一番のやり手かもしれない。生産から総合商社まで、ヴォード公爵家は手広いのである。



その日はヴォード公爵邸にレンリッヒが訪ねてくる日だった。

サラフィナとレンリッヒはお茶会後、情報交換を兼ねた手紙のやり取りをしていたが、会うのはお茶会以来だ。


「サラ、久しぶり。元気そうだね」

そういって庭園で咲いた薔薇の花束を手渡すレンリッヒ。


侍従のマークは「せめてブローチくらいは」とうるさかったが、誕生日でもないのに宝石もらっても逆に引かれるって!なんなら皇帝皇后も口を出してくる勢いだったが、全力で拒否させてもらった。日本人の感覚は俺たちにしかわからないさ。


「ありがとうございます。まあ!黄色い薔薇はうちにはないんです。きれいですね!」

そう言って花束に顔を寄せるサラフィナに、こっそりガッツポーズするレンリッヒ。

同行している侍従のマークも音を立てずに拍手している。いちいちうるさい!


案内されたサンルームには秋の日差しが差し込んでいた。

ガラス越しには満開を迎えた色とりどりのコスモスが美しい。

この季節の特等席だ。


二人が席に着くと待ち構えていた侍女たちが給仕を始める。

紅茶やケーキに続いて運ばれてきたのは……唐揚げ?


「はい。本当ならしょうが醤油に漬け込みたかったのですが、まだ醤油は手に入っていないので塩唐揚げです」

「おお!日本式の唐揚げ!この国にもフライドチキンはあるけど、なんか違うんだよなー。これ、サラが作ったの?」

「今手に入る食材でまずは何か作れるかなって思ったんだけど、鶏肉を切り始めたところで料理長が見てられなくなったようで。作り方だけ説明して料理してもらいました」


うめぇ~、とがっつくレンリッヒを見て、サラフィナはほっと息を吐く。

「レンに気に入ってもらえてよかった」

「うまいよ、うまい!俺なんてまだ何も見つけてもないし作れてもないのに」

「それはこれからでしょ」


揚げたてを一気に食べて満足したところで本題に入る。


実は文献を調べ始めてすぐ、二人はそれぞれに同じ答えにたどり着いていたのだ。

「絶対ここでしょ、アズマ国」

「だよな、定番すぎる名前だし。アズマ国、間違いなし!」

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