5.お茶会~始まり
本日3話更新します!
薔薇だけでなく色とりどりの秋の花が華やかに咲き乱れる皇城の庭園。
9月に入ったばかりで残暑は厳しいが、吹き抜ける風は涼しい。
白い大理石で作られた東屋にはすでにガーデンパーティーのセッティングが終了していた。
美しく整えられた庭園を口々にほめながら令嬢たちは席に着くと、テーブルには宝石のようにきらめくスイーツが並んでいた。
うわっ!どうしよう、選べない……。小さめとはいえ、3,4個が限界よね。ああ、どれにしよう……。厳しい選択を迫られるサラフィナの隣でつぶやきが聞こえた。
「これ、全種類食べられるおなかと、食べても太らない体質だったらよかったのに……」
マーガレット様!全力で賛成です!
「気に入ってもらえたのなら嬉しいよ。お土産に持って帰ってもらうこともできるからね」
というレンリッヒの言葉に
「今夜は夕食抜いて、スイーツだけにしようかしら」
というリリアナの言葉。あれ?リリアナ様?素敵な大人の女性で、遠い憧れの存在だと思ったのだけど、一転お隣のお姉ちゃんになりましたよ?
いずれにしても、肩ひじを張らない気楽なお茶会になりそうだ。
皇太子主催の正式なお茶会でお気楽なのもどうかと思うけど。
レンリッヒの合図で給仕の女性たちが動き出し、お茶会がスタートする。
香り高い紅茶が淹れられ、続いて各々がリクエストしたスイーツがサーブされる。
レンリッヒの前にはサンドイッチとチキン……、っておい!お茶会の意味分かってる?
「あはは、ごめんよ。俺、メインでステーキ食べた後、デザートはハムやソーセージなんだよね」
うん、フツーに男子高校生だった。
「改めまして、本日はお招きいただきありがとうございます」
一番年下だが身分的には一番上のサラフィナが、代表してあいさつをする。
「俺も今日は楽しみにしてた。みんなも気軽に楽しんでいってくれると嬉しいな」
レンリッヒの言葉にリリアナが首をかしげる。
「先ほどから思っていたのですが、殿下はご自分を俺って呼んでいらっしゃいますの?」
「ああ、侍従長からはお小言を言われたし、親父にも嫌な顔をされたけどな」
親父?親父って皇帝陛下のこと?キョトンとするサラフィナの横でマーガレットが肩を震わせていた。
「親父って、親父って……、陛下が親父……」
マーガレット様?ちょっとは我慢しましょうよ。
「一応本人の前では「父上」って呼んでるから、この件は内緒で」
「分かる気がします。私も公爵令嬢とか言われても、四六時中優雅な話し方をしているわけではありませんもの。ドレスだって時々だから楽しいのであって、毎日はちょっと……」
しみじみつぶやくサラフィナの言葉にうなずく侯爵令嬢と皇太子。
おお!これは高位貴族被害者の会結成か?とちょっとうれしくなるサラフィナだった。
「侯爵家でも気疲れするのに、皇族の皆様の苦労は察して余りありますわ」
と同意するリリアナ。わかってくれるか!ありがとう!と感激するレンリッヒに令嬢たちの非情な言葉が降り注ぐ。
「「「ですから、皇太子妃とか皇后とか、無理ですから!」」」
まじかー!あれ?これ、結局モテないやつ?哀れ、レンリッヒ。
「それでも今日のお茶会をうらやましがるご令嬢も多くいらっしゃいましたよ。ゴードン伯爵令嬢からは「伯爵家からも皇太子妃にはなれるのに、私が招待されないなんて」って言われましたもの」
というリリアナの情報に、4人は思わず空を仰いだ。
ゴードン伯爵家か~。あの家は伯爵も令嬢も、権力に目がないというか、なんというか……。
自分が未来の皇后になるのは遠慮したいけど、あの無駄にいばりちらす伯爵令嬢が将来の皇后になったら最悪だわ~。
同じように「あの女が嫁とか勘弁してくれ~」と思うレンリッヒの心の声に反応したかのように4人は目を合わせる。うん、それは阻止しよう。この中の誰かが皇太子妃になってくれ。
お互いにけん制しあいながらも、比較的価値観の合う4人は、皇城お抱えパティシエ自慢のスイーツ(若干1名はがっつり系)を楽しみながら、会話に花を咲かせた。
「リリアナは今どんなことをしてるの?」
レンリッヒの問いに、リリアナは背筋を伸ばして答える。
「わたくしは今、家業の貿易のお手伝いをさせていただいています」
「ふわぁ、貿易!かっこいいですね!」
サラフィナの本心からの称賛に、リリアナは満足げにほほ笑んだ。
「まだまだ見習いですが、自分には天職だと思っているのです。父も将来は私に貿易部門を任せてもいいと言ってくれていて、女性の仕事に理解のある嫁ぎ先か、いっそずっと独身でもよいと思っていますの」
18歳で言語能力の魔力を得たリリアナは5か国語を操り、ハートフィールド侯爵家で展開している貿易事業にその才能を発揮している才媛だ。
うん、俺の嫁に来る気ないね、全然。レンリッヒは軽く脱力しつつも、まあ、俺の人生、こんなもんさ、と自嘲する。
「マーガレットは?」
「私は帝都より領地の牧場で過ごすほうが肌に合っていまして。1年の大半を馬や牛のお世話をして過ごしています」
ウースター侯爵領は牧畜が盛んで、侯爵家の面々も領民と一緒になって牧場で汗を流すことは有名な話だ。彼女の魔力は一般的な水。常に屋敷で過ごす貴族令嬢なら水の魔力は必要のないものだが、気軽に遠乗りに出るマーガレットは水の魔力をとても重宝しており、気に入っていた。どこでも馬にお水をあげられ、水を持ち歩く必要がない。
今日は美しいドレスを着ているマーガレットだが、かっこいい乗馬姿が容易に想像できる。しかしこちらも皇太子妃になる気はさらさらないようだ。
「二人ともすごいね。応援するよ。サラフィナは?」
「私ですか?私は……、料理をしたいと思っています。まだ厨房に入る権利を両親と交渉している段階ですけど」
「あら、公爵令嬢が料理だなんて珍しいですわね」
と話すリリアナに、サラフィナは言葉を選びながら答える。
「探している食材がありまして。見つかるかどうかわからないのですけど、それが見つかったら試したい料理があるのです」
公爵家でも見つからない食材って何かしら?見つかっていないのに探してるって、なんだかロマンですわね、とリリアナとマーガレットが首をかしげる先で、レンリッヒがぽつりとつぶやいた。
「探してる食材……。俺も味噌と醤油だけは見つけたいかな」
その言葉にサラフィナの目がきらりと光った。
「殿下、もしかして……」
「え?サラフィナ、君も……?」