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4.皇城へ

そしてお茶会当日。

着飾ったサラフィナは馬車で皇城までやってきた。いや、皇城と公爵邸って目と鼻の先よ。むしろお互いの敷地内のほうが広いくらい。歩いて10分なのに馬車って……、やっぱり貴族ってめんどくさい。と思いつつ、目いっぱいおしゃれした本日の装いにちょっぴり浮き立つサラフィナだった。


皇太子の婚約者に選ばれたくなければわざとダサい格好をする、というのは小説の定番だけど、それはそれ。せっかくの機会なんだから思いっきりおめかししたいのよ。


こんなにたくさんのドレス、いつ着るの?と不思議になるほどずらっと並んだサラフィナのクローゼット。それに加えて、母が若いころに着ていたドレスも、どれも現役でかわいい。サラフィナは悩みに悩んで、結果母のおさがりのオレンジのドレスを選んだ。サラフィナの栗色の髪に似合って最高にかわいい、と自画自賛している。


ドレスを新調する気満々だった父ががっかりしていたのはスルーである。もったいないし、何より着たかったのよ、これ!


控室に通されると、二人の侯爵令嬢はすでに到着していた。


ハートフィールド侯爵令嬢のリリアナは白と紺の切り替えが多い、すっきりとした大人のデザインのドレス。できる女って感じ!20歳になったら自分もこんな大人ドレスが似合うようになるのかしら?と憧れを抱くサラフィナであった。


ウースター侯爵令嬢のマーガレットはリリアナの一つ年下19歳。グリーンを基調としたドレスに草花をふんだんにあしらった刺繡が、広がるように咲き乱れている。森の女神のようだわ、これも素敵!と目をキラキラさせるサラフィナ。


「ごきげんよう、サラフィナ様。そのドレス、明るいオレンジがサラフィナ様の美しさを引き立てていてとても素敵ですわ」

年長のリリアナが最初に声をかけた。


「ありがとうございます。リリアナ様のドレスも洗練されていて、美しいリリアナ様によくお似合いです。うらやましいくらいです」

貴族同士のめんどくさいやりとりではあるが、本心からそう思うので苦痛ではない。


「ご無沙汰しています、サラフィナ様。そのドレス、太陽のようで、かわいらしいサラフィナ様によくお似合いね」

「お久しぶりです、マーガレット様。マーガレット様こそ森の女神と見間違いましたわ。本当にお美しい」


一通りのあいさつを交わしたところで、ノックされ、侍従長が入室してくる。

「両陛下がお待ちでございます。ご案内いたします」


侍従長に案内された部屋では皇帝夫妻とレンリッヒ皇太子が立ち上がって出迎えてくれた。

「三人ともよく来た」

「ようこそいらっしゃい。今日は皆に会えるのを楽しみにしていたのよ」

「いや、母上はお茶会に参加しないからね?」


三者三様の言葉をかけられ、令嬢3人はそろって皇帝夫妻の前のソファに座る。


「今日は内々の催し故、緊張せずともよい。三人とも楽にしてくれ」

皇帝ユアンからそう声をかけられ、「このメンバーで緊張しなかったら逆にどこで緊張するというんだろう……?」と心の中でツッコむサラフィナだった。


「リリアナのドレス、スタイリッシュでとても素敵ね。知的なあなたの魅力を引き立てているわ」

皇后キャサリンの言葉にリリアナの笑顔がこぼれる。

「おほめにあずかり光栄です。前衛的ですがとても才能のあるデザイナーがおりまして。その才能をねたまれてなかなか表舞台に出てこられなかったところを、最近当家で引き立てているところです」

おお!かっこいいドレスの裏には同じくらいかっこいい事情が!


「マーガレットもとても似合っているわ。繊細な刺繍が素晴らしいわね」

「ありがとうございます。この刺繡は孤児院出身の子たちが時間をかけて作成してくれたものです。彼女たちも喜ぶと思います」

おお!こちらにもかっこいい事情!


「サラフィナのドレスも、かわいらしいあなたにぴったり。周りのみんなの気持ちを明るくしてくれそうだわ」

……ううっ、私にはかっこいい裏事情がないよ~、と焦るサラフィナ。


「これは母が若いころに着ていたドレスでして……」

うつむきがちに答えるサラフィナに、キャサリンは感心したように言葉を続ける。


「物を大切にするのはとても良い心がけよ」

「といいますか、母のクローゼットで見つけて、どうしても着たくておねだりしたんです」

そう答えるとキャサリンが悶絶した。

「もう!こんなにかわいい娘から自分の若いころのドレスが着たいなんて言われたら、私なら昇天してしまうわ!」


私も娘からドレスをねだられたいわ~、この中の誰かがうちのお嫁さんになってくれないかしら、そうつぶやくキャサリンに対し、そっと目をそらす3令嬢だった。


おっとりとしてどこか天然の入ったこの皇后をサラフィナはどちらかというと好きだ。天然だからこそプレッシャーの多い皇后という立場も無理なくこなせているとも言われている。とはいえ、彼女を好きか嫌いかと、将来同じ立場につきたいかどうかは別の話である。


「キャシー、あまり彼女たちを引き留めてはいけないよ。レン、案内を。ご令嬢方、今日は庭園での開催と聞いている。秋の薔薇がちょうど見ごろだ。ゆっくり楽しんでくれ」


「ああ!私も参加したかったわ!今度はレン抜きで4人で会いましょうよ」

いやもうそれ、目的わかんねーし、とため息をつきながらレンリッヒは立ち上がった。


「薔薇も美しいけど、城の専属パティシエが張り切っていたからね。スイーツにも期待してよ、お嬢様方」

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