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2.記憶

「お嬢様、晴れましたよ。今日は予定通りお出かけできますよ」

侍女長のマリーに起こされ、サラフィナの意識はゆっくりと浮上していく。


思い出した。全部思い出した。

サラフィナとして生を受ける前、日本で過ごしたもう一つの人生を。

渡辺紗羅(さら)、享年20歳。

東京の一般的な家庭で生まれ、両親と姉の4人家族で平凡に暮らしていた。


つまりこれって、いわゆる異世界転生ってやつ?!

転生したら公爵令嬢でした。しかもふんわりカールの栗色の髪に栗色の瞳、自分で言うのもなんですが、結構かわいいのよ。

これって勝ち組じゃない?前世でどんな徳を積んだのかしら、私。

いや、ちょっと待って。公爵令嬢って勝ち組なの?お買い物すら自由にいけないんだけど。


前世の日本での私は平凡な家庭に育ち、平凡な大学生で、平凡な容姿で、平凡、平凡……、だけど今より圧倒的に自由だったわ!

高校生で韓流スターにはまり、大学生になってからはバイト代をライブやグッズにすべて費やし、両親や姉に呆れられながらも充実した毎日。

おかげで彼氏いない歴20年だったけど。


同じ趣味の友達と深夜までファミレスで語り合ったり、バイト代をためて韓国まで推しに会いに行ったり。自由だったわ~。

今じゃ、屋敷から一歩外に出るのも大騒ぎよ。


そこまで思い出した途端、サラフィナは不安になった。

「昨日までのサラフィナも私?まさか、紗羅がサラフィナの人格を追い出しちゃったりしてないわよね」

心配になりながら、16年間のサラフィナとしての時間を思い出してみる。


領都に帰った時に、祖父母が連れて行ってくれるというピクニックが楽しみすぎて、興奮して熱を出し、結局ベッドから一歩も出られなかったこと。


10歳年の離れた兄がようやく結婚することになり、大好きな兄を取られる気がして婚約者の紅茶に唐辛子をたっぷり入れたこと(一瞬でばれて怒られた)。


久しぶりの帝都ショッピングが楽しくて浮かれすぎ、馬車が落とした馬糞をがっつり踏んづけたこと。


ああ、間違いなくサラフィナも私だわ。

ほっとしつつも、紗羅としての20年間とサラフィナとしての16年間を頭の中でゆっくりと融合していく。誰?事実上36歳とか言った人。正真正銘16歳ですからね!




「殿下、おはようございます。起きてくださーい。今日はお楽しみの合同訓練ですよ」

マークに起こされたレンリッヒもまた、前世の記憶とともに意識を浮上させた。


杉田(れん)、享年25歳。

札幌の大学の理系学部を卒業後、そのまま地元札幌の化学メーカーに就職。大学も職場もヤローだらけで、結果彼女いない歴25年。両親と弟の4人家族。


25歳で死んだのか、早いなー。結婚とは言わなくてもせめて彼女欲しかったなー。

いや、待てよ。転生したら皇太子だった。これってチャンスじゃね?しかも銀髪銀目の眉目秀麗(自分で言うか!)。身長169cm(自称170cm)がちょっと残念だけど、十分イケメン枠だと本人は思っている。


皇太子妃、将来の皇后の座を巡って令嬢たちが火花を散らす図を想像してにやける。火花を散らす理由が本人の魅力に対してじゃないのはちょっと残念だけど、それがどうした!

彼女いない歴25年+17年のレンリッヒ(廉)にとっては、どんな理由であれ自分を巡って女性が火花を散らすなんて憧れでしかない。


そもそも皇太子や皇帝という職業はむしろ外れクジだとレンリッヒは思っている。

皇族というのは今や人気商売。好き勝手いばり散らせるわけではないのだ。

周りの貴族だけでなく皇城で働く使用人にさえ気を遣い、無駄に笑顔を振りまく日常。


兄弟でもいれば皇太子や皇帝の座なんて熨斗(のし)をつけて差し上げるところだが、残念ながら一人っ子。

唯一皇帝の座を押し付けられそうな従兄、ルイポルトは……無理だな。

自由を愛するルイ兄は、頭もよく、人望も厚い。皇帝の座を避けるためなら、その明晰な頭脳を無駄にフル回転させ、全力で逃げるだろう。


窮屈な皇帝の座から逃げられないのだとしたら、せめて令嬢たちからモテたい、と妄想を膨らませるレンリッヒだった。


同じころ、同じ理由で、令嬢たちがレンリッヒの婚約者の座から全力で逃げようとしていることも知らず。皇太子、残念すぎ……。

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