バレた
最初に襲われて以降、僕達が前に進むごとに度々蜘蛛が襲ってくるようになった。そしてそれは前に進むごとに数が増えていく。多分巣に近づいている証拠なんだろう。
数が増えていく、とはいってもこっちには超強い二人が居る。そんな二人はどちらも特に怪我をしたりピンチになる訳でもなくばったばったと相手を返り討ち。途中から蜘蛛達が可哀想に思えてくるくらいだった。
そうして僕達は進み続け、遂に蜘蛛達の巣へと辿り着いた。
「うわあ……」
木を切り倒して作ったらしい、ポッカリと森の中に空いた大きな空き地のような場所。巣があるのはその上だ。
空き地を塞ぐように木と木の間に張られた網目状の糸。良く物置とか山の中で見る小さな蜘蛛の巣が、とんでもサイズで僕達の頭上に広がっていた。
「これは……」
「大きいな」
流石に驚いた様子のアイスさんと、特に何も感じてなさそうなレイさん。二人の反応を横目に見ながら僕は感動に近い何かを感じていた。
こんな光景、村に住んでただけじゃ絶対見れなかった。探索者になって良かったなあなんて、気楽な言葉が頭に浮かぶ。
でも、これを作ったのは僕達の討伐相手。これから始まるのは戦いだ。それを示すようにアイスさんはもう真剣な表情に戻っていた。
「あれが親蜘蛛だろう」
レイさんが言ってるのは僕達から見て巣の奥の方に居る一際大きな蜘蛛の事だ。外側の木を柱に糸を固めて作ったベッドのようになっている場所。そこに親蜘蛛はどっしりと構え、網目の隙間から僕達を見下ろしていた。
「ここまで来ても自分が動く気はないのを見るに、何かしら動けない理由があると見るべきか」
「おい」
「分かっている。サンゴ、決して私の後ろから離れるな」
「はっ、はい!」
そのやり取りと同時に二人が身構えたのは当然だった。親蜘蛛を中心にうぞうぞと湧いて来たとんでもない量の蜘蛛たちがこちらに向かい始めたから。
「片っ端から数を減らせ。抜けて来たのは私が対応する」
「言われなくともそのつもりだ」
戦いが始まった。レイさんは掌からさっき見せたような炎をひたすら蜘蛛へと飛ばしていく。
巣の上に居たヤツ、飛びかかって来たヤツ、地上に降りてからこっちに向かおうとするヤツ。そのどれもが炎に包まれ、次々と動かなくなっていく。
それでも全てがそうなっているワケじゃない。炎の雨を掻い潜って距離を詰めて来るヤツも少なからず居る。そんなやっとの思いで僕らの元に辿り着いた子蜘蛛も待ち構えていたアイスさんが剣をサッと振れば瞬く間にカチコチ。
そんな感じで結構な速度で相手が減っていく。でも巣の上にはまだまだ居るようだった。
「ちっ、うじゃうじゃと。巣ごとまとめて燃やせないのか」
「折を見て巣にも向けてはいるが……糸に耐性でもあるのか効きが悪い。迎撃の分まで火力を回せばそれなりに燃やせそうではあるが」
「ならこのまま行く。先に親以外を殺しきるぞ」
ただ、会話出来るくらいには余裕があるみたいだ。炎と氷が蜘蛛達をメタメタにしていく光景。それを目の前にしても親蜘蛛は動こうとしていない。二人の後ろで縮こまっているだけの僕にはそれが良く見えた。
「……ん?」
だからだろうか。動かない親蜘蛛の後ろから白い線のようなモノが見えたのは。流石にここからじゃ遠いから目を凝らしてみる。すると確かにそれはあった。
白い線は上へ上へと伸びている、と思いきや空の途中で大きく弧を描いて下に落ちている。その先は……。
……アレ、こっちに来てない?そう思った瞬間、肩に誰かから触られたような感触がした。
「あ」
目を向けるとそこにあったのは白い線……というか糸だった。そうやって疑問が解決した瞬間、僕は物凄い勢いで引っ張り上げられていた。
「おわああああ!!」
身体が上へ。強制的に持ち上がっていく中、変な声と一緒に咄嗟に手が出た。伸ばした先に居たのはアイスさん。
「!?――くっ……!」
僕の状態に気づいたアイスさんは驚いた様子ながらも、僕の手を掴もうと手を伸ばしてくれた。ただ届かない。遅れてこっちに気づいたレイさんの横顔が視界に入った直後、僕は宙を舞っていた。
そうして理解する。ああ、あの親蜘蛛は僕を狙って糸を放っていたのだと。言ってしまえば村一番の弓使いのような腕前で。しかもあの二人に気づかれないように大きく空を経由して狙うオマケ付き。僕を狙ったのはアレかな、一番弱そうだったからかな。まあ合ってるんだけど。
そんな感じで、魚みたいに釣り上げられる初めての体験をしている最中でも僕は割と冷静だった。つい最近とんでもないジャンプを経験していたからかもしれない。
そのまま僕は網目を超えて巣の上に。全体が大きい分、一つ一つの網目も大きいから巣に引っかかりはしなかったみたいだ。
そして、そこからの景色は凄かった。巣の上に群がる蜘蛛達。僕を引っ張り上げてる親蜘蛛。気持ち悪いというより一周回って壮観だった。
ただ、そんな観光気分もすぐに終わる。一つは……。
「――サンゴっっ!!」
下からレイさんが凄い勢いで助けにきてくれたからだ。ジャンプで僕の居る高さまで追いついて来たレイさんは僕の釣られっぷりに驚いたのかあんまり見た事の無い表情。僕はそんなレイさんに脇に抱えられて確保される。間もなくして肩の糸が切れる感触がした。
「……焦ったぞ。大丈夫か」
その後、落下する僕達が着地したのは糸の上だった。一本一本が太い分足を置けるだけのスペースはあるらしい。
「全然平気です。糸も服にくっ付いてただけなんで、どこも痛めてません」
「そうか。……油断していた。私の失態だ」
「いやいやそんな。僕がボケっとしてたのが悪いんです。あの、ところでそれは」
申し訳なさそうなレイさん。その手先には赤い刃のようなものが伸びており、それを見て僕はとても嫌な予感がした。
「ん、ああ。これは血で作った刃だ。さっき糸を切ったのがこれ――あ」
「ああ……」
レイさんも気づいたらしい。僕は恐る恐る、抱えられたままバレてないことを祈って下を覗き……それが無駄だと悟った。
「――あああああああっっ!!」
しっかりと血の刃を見てしまったと思われるアイスさんが、剣を構えそれまでの冷静さを全て捨てたような声でこちらへと跳んでいた。レイさんは冷静にそれに対応して刃を構える。
次の瞬間、ガギン、と。硬いモノがぶつかり合う音が響いた。
「殺してやる……吸血鬼ィ!!!」
レイさんに突撃を受け止められた際に見えたアイスさんの顔は、なんでそんな表情が出来るのか思うくらい、酷く怒りに満ちていた。




