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【短編版】スキル【庭いじり】持ち令嬢、一人で王城の庭を整備していたのに島流しにあう~未開の島で大量に草むしりしてたらスキルが大進化! 簡単開拓始めます。王城では、植物魔の暴走と害虫発生に困ってるらしい



「え、島流しですか私」


それは、唐突に下った重すぎる刑罰であった。


勤務中、珍しく王城の執務室エリアに呼び出されたと思えば、これだ。


わけがわからなくて、私はしばし固まる。

思い当たることなど、何一つないのだ。せいぜい、勤務中にお菓子を食べたくらいだが、そんなことで島流しになるわけもない。


その役人は、腕組みをして続けた。


「マーガレット・モーア。お前には、国を裏から操ろうとした嫌疑がかけられている。理由は分かるな?」

「いえ、全くわかりません。というか、なにをしたにしても重すぎません? 私ただの女官ですけど? 権力闘争とか全く関わってませんよ」


貴族の身分を持つとはいえ、私は男爵家出身の女官にすぎないのだ。

島流しなんて、もっと重罪を犯した上の身分の方々にのみ課される刑だろう。


「しらばっくれても無駄だ。

 お前はスキルにより王女様に取り入り、傀儡しようとした疑惑がある」


えぇ……。いや、全然違うんですけど?


私のスキルは、【庭いじり】。


名前のとおり、草木の世話に関するもので、水やり程度の水属性魔法ができたり、根っこから草をむしったり、植物の状態を確認したりできる。


ただ、それだけのものだ。


そのため、庭仕事としてしか活用していなかった。

というか、そもそも悪用できるほど大層なものでもない。


「仕事としてお任せいただいた庭の整備に利用していただけで、取り入ろうとなんてしてません」


私はきっぱりと主張するのだが、その役人はあくまで通達を告げるためだけによこされたのだろう。

聞く耳をもってはくれない。


「マーガレット、残念だがこれは決定事項だ。残念だが、もう言質はとれているのだ」

「それは、ヴィオラ王女からですか」


「誰からとは言えぬが、王女様ではない。王女様はむしろ、お前の無罪を望まれた。だからお前の刑は減刑されているのだ」

「減じられて島流しですか!?」


「流刑地は、未開拓地だ。その地の開拓を、お前と同じく罪が疑われて流刑になった侯爵に任せている。その者の屋敷で、使用人として働くのだ。

 これ以上、いう事はない。とにかく然るべき身分の方から、排除するように話があった。それだけのことだ」


その役人はそう残すと、部屋の外に控えさせていた衛兵を呼びつける。

そのあとは、そのまま拘束されて、王城の外へと連れていかれることとなった。


……どうやら、私は陰謀にはめられてしまったらしい。

ただの女官なのに。




首謀者のあたりは、大方ついていた。

公爵令嬢である、ベリンダ・ステラだ。


女官たちは、各権力者たちの名のもとで王城に勤務していることが多い。

そのため、なかば派閥と化しており、その争いは日々こまごまと繰り広げられている。服の色まで異なるのだ。


そんななか、私はどこにも属していなかった。

理由は単純。女同士の争いだとか嫌がらせだとかが、はっきり言って面倒くさかったためだ。


「庭いじりだけが取り柄の草女のくせに生意気な」

「早くクビになればいいのに」


なんて言われても、気にしない。


誰かに媚びることもなく、ただ目の前の仕事をしていたのだけれど……


「あなたは誰に対しても変わらなくて、いいわね」


それを王女様に気に入られて、ひいきされるようになった。

最近では、一緒に庭いじりをすることも多く、お茶に誘ってもらうこともあった。



たぶんベリンダ令嬢は、それをよく思わなかったのだろう。


公爵令嬢と、女官兼男爵令嬢。

うん、私が今更なにを言っても、もうダメだね、これ。






――そうして、マーガレットが王宮を追放されてひと月ほど。


王宮内の各種事務は、ひどい滞りを見せていた。


「な、なんで、こんなに毎日問題が起きるの!」


と悲鳴をあげるのは、ベリンダ公爵令嬢の派閥に属する一人の女官だ。

マーガレットがいなくなって以降、王城の庭整備を担当している。


が、その庭はいまや荒れ放題になっていた。

つる植物魔・オルテンシアが急激な成長を見せて、暴走したのだ。


植物魔は、有事の際の防御策にもなるとして、5年ほど前に導入された。


普段はおとなしいが……、扱いを一つ間違えれば、とんでもないことになる。実際、一部の植物魔は暴走し、次々と栄養を求めるように急成長を遂げていた。


その勢いは、いよいよ庭を覆いつくすほどとなり、制御できていない。



もともとは、マーガレットが彼らの世話を一手に引き受けていた。

彼女は【庭いじり】スキルにより、植物魔一体一体の特徴を把握して、細やかな手入れをしていたのだ。


そのため、暴走などすることなく、彼らの状態は安定していた。


が、そのマーガレットはもういない。

突然の追放処分であったから、引継ぎなどもなされていなかったから、もう手の付けようがない。




似たような状況は、また城内の別箇所にある庭でも起きていた。


「ひぃっ!? なに、この大量の虫は!! いったいいどこから発生してるの!」


王城内は、かなりの敷地面積がある。

そうなれば、すべてを綺麗に保ち切るのはかなり難しい。


害虫などが発生することもままあったのだけれど、その駆除ができないのだ。


おかげで美しい花が並ぶはずの花壇は、羽虫により真っ黒になり、肝心の花が枯れている。


「きゃあ、気持ち悪い、無理!!」

「ちょっと、こっちにこないでよ。あんたらの派閥の問題でしょ」

「いいや、あなたたちにも責任は――」


こんなどうでもいい争いを、猛威を振るう害虫を前に繰り広げる。


これも、マーガレットがいたときは、おおごとにならなかった。

早い段階でその兆候に気付いて、対処を実行していたためだ。


これも【庭いじり】を使ったことにより、対処方法を引き出していたのだから、もうどうしようもない。



これらの問題を前にして、女官らは思うのだ。


「マーガレットさえいれば」、と。








王城で起きたこれらの問題は、やがて貴族らの中でも大きな議題となる。

そしてその責任は、ベリンダ令嬢へとのしかかっていた。


追放後、マーガレットの評価が勝手に上がるのとは反対に、それを実行したベリンダには批判が集まりだしていたのだ。


『マーガレットが王女を操ろうとしていた』という嘘も、『権力を握りたかった』という本音も、一部の人間には感づかれ始めていた。



そんななか、ベリンダは自ら王城へと赴く。

失地を回復するため、自ら問題の解決に乗り出たのだ。


「べ、ベリンダ様!!」

「まったく、どいつもこいつも使えない……!! 虫とか草とか、しょうもない。そんなことでわたくしの手をわずらわせないで」


ベリンダは、何人かの魔法使いを伴ってきていた。


彼女は彼らに命じて、植物魔、害虫ともども焼き払わせる。


「ふんっ、なーんだ。これくらいすぐ終わるわよ」


最初はそれで片がついたと思われたのだが、しかし。


その害虫は魔素を食べて育つ性質があり、燃え尽きるどころか増殖。


一方の植物魔は、焼かれた怒りから荒れ狂う。

残った根から急成長したうえに制御が全く効かず、挙句には人を襲うまでになった。


そのときは、女官一人の被害であったが……これでもし王族の者が襲われていたら、大ごとだ。



やがて、ベリンダはこれらの失態について糾弾されることになるのだった。







そしてその頃。


追放された側のマーガレットはといえば…………


「よーし、じゃあ今日も畑の整備頑張りますね!」


むしろ生き生きとしていた。

青空の下、広大な更地を前に、鍬を肩に抱えてこう意気込む。




離島へと流されて、約ひと月。


マーガレットは、開拓の中心人物になっていた。

本来なら、リカルド・アレッシ侯爵の元で使用人として勤めるという話だったが……



「本当に助かるよ、マーガレットくん。いかんせん、僕はこういうのが苦手でね」


その彼が、なんともまぁ開拓使向きではなかった。

もともとは文化人で、歌や楽器を好んでいたというリカルドさん。


政治的争いに巻き込まれて、島流しに合って、突然に開拓を押し付けられたらしい。



そのためか、島へ来た時は開拓などほとんど進んでいなかった。

屋敷と、彼の部下数名が掘り起こした小さな畑が一つあっただけ。


残りは、雑草が生え放題の広大な草地が広がっていた。


私は、そこを【庭いじり】スキルで掘り起こしたのだ。


まさにぴったりのスキルだった。

一気に土地が広がるものだから調子づいた私は大量に草むしりを行い、土地を整備すると、食用に使えそうな一部の野草を畑に植える。


そんなふうにしていたらなんと……!


スキル【庭いじり】が、【開墾】へと進化した。



これがなかなか、すごいスキルだった。

前は単に、草むしりをする程度のスキルであり、特別なことはできなかった。


「じゃあ、風よけよろしくね、トレちゃん」

『あぁ、任せておくといい』


が、【開墾】スキルに目覚めた途端に、植物魔と会話ができるようになった。



それだけじゃない。


広範囲に水撒きをできるようになっていたり、植物それぞれに適した育て方が、スキルを使えば一瞬で分かるようになった。


おかげで開拓がどんどんとはかどる。



そうして昼過ぎまで作業をして屋敷に戻ったら……


「マーガレットくん。よく動いただろう? たんと食べるといい」


料理が趣味だと言うリカルドさんにより、料理が振る舞われる。

今回は、近くに生えていた香草と、釣った魚の切り身を使った蒸し料理だった。


「どうかな、ちゃんと味が美味しいといいのだけれど」

「もう最高ですよ、リカルドさん!」


そのクオリティはかなりの高水準だ。

やや線が細いながら、驚くほど整った彼の顔を見ながらも食事は至高だ。


眼福、かつ満腹だ。



正直、最高の職場環境だった。

人によっては身体がきついかもしれないが、もともと太陽のもとで動くのが好きな私には、ぴったりだと言える。


なにせこの離島には、面倒くさい派閥争いも、女同士の妙な争いもないのだ。



島流しにされると聞いた時はどうなることかと思ったが、ここまで幸せな生活ができるとは考えもしなかった。


島流し、万歳だ。






さて、そんな折。

その王女様から、マーガレットあてに一通の手紙が届く。


そこに記されていたのは、


「王城の女官や役人たちが私を離島から連れ戻そうとしてる?」


まさかの事実だった。

どうやら私がいなくなってから、王城の庭が大変なことになっているらしい。植物魔が暴れたとか、害虫が出たとか、花が枯れただとか。


その対処のため、私を呼び戻そうとする声が大きくなっているようだ。



……正直、もう戻りたくはなかった。こんなに最高の居場所はそう見つからないだろう。


が、王女様の命令ならば仕方ない。

彼女のためならば、と思いながら読み進めていたら話の方向性が変わった。


『親愛なるマーガレット。あなたのことだから、その島のことが気に入っているのでしょう? あなたのことは友人だと思っておりましたから、よく分かっています。

戻ってくる必要はありませんよ。ただ、対処法を返事にしたためて私にお送りくださればそれで結構です。後は、うまくやっておきます  ヴィオラより』



あぁ、なんてありがたい人なんだろう、王女様は。

何でも分かっているうえ、気も利くなんて。



私は、遠くにいる彼女に思いを馳せ手紙をしたためる。



それから、彼女のくれた機会に感謝しながら、【開墾】スキルにより、いっそう開拓に励んでいくのだった。



この島がマーガレットとその旦那となったリカルドの手により、人と自然が共存し、豊かな恵みを生み出す豊潤な大地へと化すのは、少し先の話だ。







みなさま、たくさんお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 庭いじり好きなので羨ましい話でした。 料理上手な旦那様に優しい王女様も良いですね!
[一言] 続きはどこで読めますか!(骸骨)
[気になる点] 王女様からの手紙以降のどーなった話!
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