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自分語りのアロガンス  作者: てんむす
2/4

いつだって油断せずに



 入学式自体は王立学園とそう変わることはなかった。

あっちはキラキラのピカピカで、会場から参列者みな眩しいのが特徴だったが、こっちは古めかしい威厳のある会場でちょっと気の強そうな?意思が強そうな?参列者が並ぶというだけだ。


(まぁ…流石に金のかかり具合に差は感じるけどね)

あっちは無駄金が多いとも言う。ギリギリの生活をしている今、余裕がある金があるなら分けて欲しいものだ。



 式後、新入生が一つの部屋に集められたので、並ぶ顔ぶれをこっそり盗み見る。

感想としては、“癖がありそう”。

この学園の前評判を聞いている影響かもしれないが、一筋縄でいかなさそうな手強い空気を感じる。

ハッ。もしかしてボクもそんなふうに見えてたりして…!?

たはーっ、それはちょっとカッコいいかも。

自分のヤワそうな見た目があまり好きじゃないから、そう見えてたら嬉しいなーなんて。


(王立学園となにが違うんだろうな。気迫?いやそんな鬼のような男ばかりじゃないな…あそこにいる奴なんて優しそうだし)

ボクの斜め前で体を傾けて座っているのは、淡い桃色のふわふわした髪の優しげな目元の青年である。

入学前の予想と違い、誰も彼もが人を今にも殺しそうな巨男でないことに少し安堵する。



 「新入生諸君」

ふと、威厳ある声が響いた。

「改めて、入学おめでとう。一先ず入学式に対してお疲れ様だったと言わせてもらおう。肩が凝る式に諸君がおとなしく参加し、何事もなく終えられた事。一職員として誠に嬉しく思う」

部屋の前方に、色素の薄い長身のエルフが立った。拡声魔法で声が適度に響き渡る。


「私はこの学園の副主任、クライヴ・ハーディだ。主に歴史学や陰謀学などを担当する。ああ、魔法については魔法基礎学や魔法解析学も私が受け持つことになる。何事も基礎なくして発展はない。厳しく指導していくので心するように」


 ぐるっと全体を見渡すように先生の視線が動き、ふと、目がこちらの方向で止まった気がした。


これは・・・目が合ってる?

転校生が物珍しいか。

いや、違う。


ボクじゃない、隣だ。



そろっと右隣の従者を見上げると、ロロートは相変わらずほぼ分からない表情だが僅かに眉を(しか)めているように見えた。

(…同じエルフだから気になったのかな)

あまりエルフらしく見えないが、ロロートもハーディ先生と同じエルフだ。


 不自然にならないようにロロートを見た後あくまで自然に目線を外した先生は、今度はドアの方に視線をやって声をかけた。

「それでは、君たちの担任となる教員を紹介する。こちらへ来てください」

そう言って壇上から少し脇にずれてスペースを開けると、そこにふらりと可愛い男の子と、激しく破れた服を着た男性が近づいてきていた。おい爆撃にでもあったのか、なんだその服は。

破れた袖から見える筋骨隆々な腕から目が離せない。


「タブレ」


突然右から声をかけられ、ハッとする。

目を向けるとロロートがボクの顔を覗き込んでいた。

「うわっ何!近っ!」

「防護しろ」

ロロートは人差し指を口元で立てる。

その言葉と動作を見た瞬間、ボクは咄嗟に防護魔法を前面に展開した。







 目を開けると、白っぽいデスクが眼前に広がっていた。

凄まじい衝撃だった。

前に張った防護魔法のおかげで直撃は免れたが、横から猛烈な音波をくらい一瞬意識が飛びかけデスクに突っ伏したようだ。

かろうじて手の体制をキープできたので魔法は解除されなかったが、正直ギリギリだった。



 「うわぁ〜〜〜、すごい!今年は優秀なルーキーが多いね!カーティスの音魔法に倒れない子が例年と比べて14%多いようだよ。魔法の才能がある子が多そうだね!」

顔をあげると座った状態の生徒がチラホラと見える。だが、大半はデスクに突っ伏しまるで寝ているかのようだ。

「音魔法ではない!!!気合いの一喝である!!!!」

「音波に魔力乗せてるから音魔法の一環じゃないの??僕の記録では、魔力を伴う音は音魔法の一種として考えているんだけど…」

「否!!俺は魔力を込めたことは一度もない。ただそこらの魔素が、俺の気迫に傾倒し近づき寄ってきているだけの事!」

「あはは、僕らにはすごくうるさいけど魔素たちにとっては好ましいってこと?」

「はぁ…どっちでも構いませんよ。うるさくてたまりません。エルフは耳がいいんですからね」

「ム、うるさいか…それはすまなかった」



一体なんなんだ。

死屍累々の教室をものともせず、壇上の3人はおしゃべりを繰り広げている。



「タブレ、大丈夫か」

ロロートが僕の顔を覗き込む。



「うん、ありがと。ロロはよく先生の動きに気づいたね。言われなきゃ間に合わなかった」

「お前は防護魔法の展開が甘い。防護魔法を咄嗟に張るときは全方位展開が常識だ。速さは申し分ないがな」

「ゔっ…」

「俺自身に張った防護魔法のおこぼれでお前の右側には衝撃があまりこなかったが、ソレがなければ左右から衝撃を受けていた。お前もあの倒れている奴らの仲間入りだったぞ」

ぐぅの音も出ない。正論オブ正論。

情けなくて何も言い返せず、視線をそらすと小さくため息が聞こえた。

ーーーぐっ…これでもだいぶ成長したと思ってたんだけど…



 そこへ、場違いなくらい明るい声がボクに向かってまっすぐ届いた。



「ねねね、もしかしてケッコー魔法使える系??



そっちのガタイのいいおにーさんはエルフだから、まあわかるんだけど〜。

君ももしかして、同じくらい魔法が得意だったりする?だったらすごいなーって!俺は家系魔法でマモったけど、他のは全然だからさー」

後ろを振り返った青年がにこやかに喋りかけてくる。

説教の空気が霧散する気配を察知したボクは、これ幸いと前のめりになった。

「ううん、ロロートほどではないけど基礎魔法は使えるよ。ボク基礎学は学んでるんだ」

「えーっ凄くない!?もう基礎学学んでるの?自己流?それとも家族から教えてもらったとか?」

「え、えーと。ボク王立学園から転校してきたんだ。去年一年あっちで過ごしてるから、その時に…」



 途端に教室中から視線が集中した。


ヴ。

音魔法に耐えた人数とはいえ、ざっと見ても10人以上。

視線が痛い。


いやでも遅かれ早かれ転校自体はバレることだし、隠すことでもないし隠せることでもないし・・・



 転校発言に目を丸くしていたチャラそうな男の子は、パチパチと瞬きを数回した後、にかっと笑った。

「ウケる〜王立学園から転校とか、いーかーにーも”訳あり”って感じ〜!ま、でもでもここにくる人はみんな大体訳アリだからさ♪あんま気にせず仲良くしよーよ!俺、ニーディ・オーヴァリー。ニーディって呼んで♪」

右手を差し出し、爽やかに自己紹介をされた。

ーー気遣ってくれたのかもしれない。


「ありがとう…転校なんてレアケースだって知ってるし、そう言ってもらえると嬉しいよ。ボクはタブレ。こっちは従者のロロート。よろしくね」

「ひゃ〜従者なんているの!?タブレくん王立学園出身説の信憑性マシマシ〜!よろしくね!王立学園の話とか、また聞かせてほしーなー♪」

僕の手を軽く握り愛想よく挨拶するニーディくんに、ロロートもすっと頭を下げたのが見えた。

「こちらこそ、どうぞ主人共々よろしく」



コホンコホンッ

ハーディ先生が咳払いをする。

Attention(注目)!今ここに起きている者たちは魔法発展学を受けることを許可された。生活魔法を中心とした魔法基礎学は全生徒の必修だが、発展学の方は『家系(かけい)魔法』や各種魔法の組み合わせ技などの実践形式が多く、いわば知識の応用。専門的な分野になるのでもちろん危険度は高いが、希望次第で履修可能なので各自覚えておくように」

「ごめんね、みんなビックリしちゃったかな。これ、魔法発展学を履修可能かどうかの簡易テストなんだ。もちろん今倒れてる子たちも、授業を受ける中で適性が判明すれば発展学の履修を許可されるよ。あくまで簡易テストだからね」

小さい子どものような可愛い男の子がニコニコと笑う。



(魔法発展学・・・!!)

望んでいた学問の名前に思わず眉が動く。

 この授業こそが王立学園とデヴェロカレッジの大きな違いの一つである。王立学園では魔法基礎学がメインで、魔法発展学は最上級生でかつ()()()()()()しか学ぶことができなかった。

しかしこの学園では、ある一定の魔法が使えるようになれば比較的容易に発展学への門が開かれるのだ。

ボクの目的である”家業を取り返し、家督を継ぐ”ためには魔法の熟達が必要不可欠、というのがボクとロロートの一致した意見だ。

嬉しい・・・とりあえず発展学への切符はゲットしたってことだ!



 「質問だが」

発展学へ思いを馳せていると、後方から鋭い声が飛んだ。


「こんな野蛮な方法を毎年行っているのか。魔力を込めた音波を突然ぶつけて、対応できた者と持ち前の魔力で耐えられた者だけを選別するなんて」

 

 声の迫力に、ボクもニーディくんも思わず振り返った。

その迫力に違わぬ鋭い眼光より先に目に入る、巨大な剣。

背負った剣の装飾と紅い目が不穏に煌めいていた。


「うわ、ヤッバ。スタン・ヴィセントじゃん…本当に入学してたんだ。ってことはもしかして、同期ー?やばすぎのやばなんですけど」

「ニーディくん、知ってるの?」

「えーっ褐色肌で紅目の魔法剣の持ち主なんて俺らの世代じゃ有名じゃない?人呼んで、ーーー」

「おい赤毛、ペラペラとうるせえ口だな」

「おっと」

焦った顔でテヘヘと苦笑したニーディくんは(この話は後でね)と(ささや)いてウインクひとつ、前を向いた。



「スタンくんだったかな。わ〜噂には聞いていたけど、とっても素晴らしい魔力だね。体全体をくまなく覆っているのが確認できるよ。

えっとさっきの質問だけど、答えはYesだね。方法はまあ毎年変わるけど、やっていることはあんまり変わらない。あんまり気に入らなかったかな?教員の間ではとっても好評なんだけどなぁ」

手間が省けて最高だってみんな言ってくれるんだけどなー、なんてにこやかに呟くこの可愛い先生は、どうやら常に少し浮いているようだ。ゆらゆらと壇上で動く姿がまるで風船のようだ。


「ハッ流石、力を磨くに相応しいデヴェロカレッジでは教師も暴力を振るうのに容赦が無いとみえる。幼気(いたいけ)な新入生である俺には想像もつかず、教師陣の決断の思い切りの良さには恐れ入る」

「暴力的とはなんだ!!あれは俺の気合いの一喝だと言っているだろう!!」

「チッ…うるせえな…音波で袖も常識も一緒に吹っ飛ばしたのか?まずは服を着替えてから新入生にご挨拶いただきたいモンだなぁ?野生のゴリラの世界だというなら受け入れてやるけどよ、お生憎様こちとら人間様なんだよ」



あ゛ーーー!!!!!

注意警報発令、注意警報発令!!

ボクの中の『これぞ悪、これぞデヴェロ』が具現化して後ろに鎮座している!!

絶対この人と関わるのやめよう!!

っていうか皮肉に皮肉しか重なってないんだが!?オブラートに包む気はないのか!

スタン・ヴィセントの名前を要注意人物のイエローカードとして心に刻む。



「ストップ、ストーップ!!もう、せっかく今年は入学式で何も問題が起きなかったのに、こんなところで問題なんて起こさないでよ!」

去年は散々だったから、今年は何事もなくてよかったってハーディ先生も言ってたでしょ〜とプンプン怒る先生がピリッとした空気をぶち壊していく。


 「さぁ、それより。さっさとみんなを起こそう」

先生はゆらゆらと上空に浮き上がり全体を見下ろすと、指をパチンと鳴らした。

途端に机上で倒れていた周囲の生徒たちが起き上がり始める。


「みんな起きたかな?改めまして、初めまして。隣のムキムキくんはカーティス・ビガー先生、僕はトーマ・ベルナルド。気軽にトーマ先生って呼んでね。」

うん、スキャン完了!全員問題なしだね!と言うトーマ先生は、一体なんの魔法を使ったのだろうか。

「君たちには今簡易魔法テストを受けてもらったんだ。ちょっとびっくりしたかもしれないけどもう終わったから安心してね」


目を覚ました生徒たちがザワザワとざわつくなか、教師陣は意に介した様子が全くない。

何の為のテストだったのか、彼らに説明する気はない…のか?




「ああ、スタンくん。さっきの続きだけどね」

ざわつく教室で声が届くように拡声魔法で整えられた音声がいやに真っ直ぐ届く。



「例年、魔法発展学は希望者が多くてね。落ちても落ちても、履修テストをしたがるシツコイ…いや粘り強い子が多いんだよね。

才能ない生徒に一人一人時間を割いて対面して能力を何度も測るなんて馬鹿げてる。時間が勿体無いでしょ?」

僕たちも忙しいんだよね、という呟きまで真っ直ぐ聞こえる。



ーーーここでは、学びたければ、各担当教員のお眼鏡に叶うこと。

その手順を踏まずにさっさと力量を測って合格をもらえたんだから、どんな方法でも有難いと思わない?



そういって壇上にふわりと降り立ったトーマ先生の顔は、これ以上なく悪名高いデヴェロカレッジの教師の笑みだった。


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