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プロローグ

第2話までは毎日更新です。それ以降の更新は不定期ですのでご了承くださいませ…


 そこは世界の裏側だった。


 陽の光に照らされる高層ビルや、規則的に不規則なリズムで点滅を繰り返す信号機。路上に横たわる飲みさしのペットボトル。


 そんな「現実」をそのまま形にしたような現実を、僕はどうしても信用することができない。今、この瞬間。



「ねぇ……何で逃げるの? 君も選ばれたんじゃないの。君が、望んだんじゃないの」



 僕は今、追われている。


 そして多分、命を狙われている。この、世界の裏側で。


【死鎌】(デスサイズ)───彼に、導きを」


 僕を追う " それ " は大きな鎌を取り出した。


 二対で一を成す、深緑の炎を纏った黒い大鎌だ。


「止めてくれ! 僕に戦う意思はない」


 敵対する意がないことを口にしたところで、この理不尽から開放されることは無かった。


 助けを求め叫んでも、誰も助けには来てくれない。この、 " 誰もいない世界 " ───



 「第六次元戦線」では。



「私は君を知っている。そして、君も私を知っている……だから殺すわ」


 振り下ろされた大鎌を、僕はすんでのところで回避する。そしてまた、西か東か、はたまた北か南かも定かではない場所へ向かい走り出す。


 周りを見渡しても、僕と " 奴 " 以外の人間を視認することはできなかった。いや、もしかしたらこの世界に存在する人間は僕だけなのかもしれない。


 あんな見ず知らずの人間を斬り殺そうとするような生物、少なくとも僕は人間だとは思いたくない。きっと殺人マシンか何かなんだ。


「どこへ行こうと、逃さない。私は勝って、世界を手に入れるわ」


 後ろから、またあの忌々しい声が聞こえてくる。


 『勝つ』?


 『世界を手に入れる』?


 そんなの僕には関係ない。僕はただ、生きていたいだけだ。


「これで、終わりよ」


 そしてあっという間に追い詰められた。彼女は天高く跳躍したかと思うと、気が付けば僕の眼前で得物を構えそして言った。終わりだと。


「何だよ……第六次元戦線って。何だよ、勝つとか負けるとかって。何で君は、そんな簡単に人を殺そうと思えるんだよ!」


 激情のまま叫んでみても、彼女の口角はピクリともしなかった。フードに隠れ口元しか見えない彼女の顔は、出逢ったそのときから何も変わってなどいなかった。


「私からすれば、あなたの方がおかしく見えるわ。何でこの世界にいてここまで感情的になれるのか……さすが『イレギュラー』ってとこね」


 この世界のルールから考えて、どうやら僕は相当な " 規格外 " らしい。そう、教わった。


 ───この世界に存在できる3つの条件。


 1つは、子供であること。これは肉体的なことを指すのではなく、精神的なことを指す。


 2つ目は、「生」に執着していないこと。要は、生きることになんの希望も見出していないこと。自殺志願者でも、よくいる「死んだように生きている人間」でも当てはまる項目だ。


 そして最後に3つ目。これが一番訳のわからない条件だ。たしかに、条件としてはらしいっちゃらしいけど、いかんせんこれだけが条件としてはっきりとした定義を持っていない。運命とか、確率とか、多分そんな話。


 それは、「選ばれたかどうか」だ。


 誰に選ばれればいいのか、どうすれば選ばれるのか、なぜ選ばれたのか。それを知る者はただ一人───



『この戦争に、勝利した者ただ一人だ』



 この世界に「時間」という概念があるのかどうかはわからないけど、僕は体感約30分前の出来事を呼び起こし、そして体感約30分前に聞いたセリフを復唱する。


「招かれざる客人……『七番目の歯車』であるあなたには、あまりにも未知が多すぎる。そして、その未知はいずれ私の脅威となる───個人的なしがらみも含めて、ここであなたを殺してみせる」


 本日二度目の殺人予告。彼女の持つ大鎌は炎に包まれ、その輪郭は徐々に大きく。そして、ひどく歪な物へと姿を変える。



 我は歯車……そして我こそが根源を統べる見えざる支配者。その衝突は歪を生み出し、そして形を世に記す。幾千もの理を創り、そして万をも超える影を屠る。



 我ここに理の柱となることを誓おう。そして何度でもこの身に刻もう。



 そう、第六次元の歯車たる聖痕を……



 彼女の放つその呪文のようなものに、僕は聞き覚えがあった。


 それは、この右も左もわからない見知った空間におけるたった一つの羅針盤。この世界に召喚され、唯一与えられたプレゼントだ。


 差出人はわからない。それもまた、この戦争とやらに勝利すれば明らかになることなのだろう。



「『死鎌・制約解除』」

 


 深緑の炎が、渦となって迫りくる。


 あと一秒も猶予は無い。今、この瞬間、僕は予告通り殺されるのだ。


「ッ───」


 僕は息を殺した。歯を食い縛った。まぶたを固く閉ざした。そして、死を覚悟した……。


 僕たちが存在すべき「第三次元」よりも、さらに三段階次元を進めたその先。



 『第六次元』での出来事だった。

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