3話 神宮寺礼子
言い忘れたけど、カクヨムでも連載してます
神宮寺礼子は平安時代の神官の家系に生まれた。
神官といっても、礼子の家は特別で、主に妖鬼召喚を生業としている特殊な家系だった。
妖鬼召喚には、有名な貴族や武士、歌人など様々な人が訪れた。
しかし、多くの人は召喚それ自体には成功しても、お互いの価値観や相性の違いなどもあり、両方ともすぐに死んでしまうなんてことは度々あった。
そんなこともあり、礼子は妖鬼が大嫌いだった。
その家は代々、奈倉家という貴族と結婚し、血縁関係を結んでいた。
その理由というのは、妖鬼召喚に関係する。
平安時代は、現代と比べ、スピリチュアルなもの--すなわち、姓名判断とか祟りとか呪い、神様とか、とにかく、そういうものが当たり前のものとして信じられていた。
そのため、その時代のエネルギー的なもの、すなわち波動が妖鬼の世界の次元と著しく近くなり、互いがローリスクで容易く2つの世界を行き来することができ、妖鬼召喚も現代よりたくさんの人が普通に行っていた。
勘違いしないでほしいのは、章正みたいに遊び半分で召喚していたのではなく、一族の命運を賭けたり、権力争い、武士の代わりに妖鬼同士で戦わせるために召喚していた。
一生に一度あるかどうかわからない重要な儀式である。
当時、男尊女卑の傾向が強い社会だったが、妖鬼さえ強ければ一部の地方では、女性でも権力を握れた。
ただ、それは本当にごく一部の地域に限る話で、実際は妖鬼が強くても、女性であったら世の中のあたりは強かったし、貴族間で忖度が行われるのは頻繁にあった。
特に奈倉家では、神より選ばれし男児のみ強い妖鬼を持っていなければならないというガチガチの選民思想的なものであったから、常に強い妖鬼を欲していた。
強い妖鬼は、妖気の量(循環エネルギー量)が多く、オーラ(放出エネルギー量)の色が濃く、知的機能がある。
それを召喚するためには、より妖鬼の世界の次元に近づかなければならない。
ここで、妖鬼の世界と地球が同じ次元に近づくには、他方がもう片方に合わせなければならない。
どういう事かと言うと、例えば、地球が存在する次元が3次元の世界だとすると、妖鬼の住む世界は3.25次元にある。
妖気召喚をするには、片方に合わせるーーすなわち、お互いの世界の次元を同じにしなければならない。
この次元の差を埋めるには、地球の次元を上げるのが手っ取り早い。
どうやるかというと、シンプルなことに地球の妖気量を増やせばいいわけだ。
それも個人単位で。
昔は日本だけでなく、世界中で神話や宗教が蔓延していた時代だ。
そういう力の働きで、昔は地球の妖気量が妖鬼の世界とほぼ同等であり、召喚自体も現代より簡単だったし、条件が揃えば、向こうの世界にも行けたりした。
(ただし、2度と帰れはしないが)
妖鬼召喚については、自分と同じ妖気量の妖鬼が召喚される仕組みになっている。
(現代人には、ほとんど妖気がないが、稀に多くの妖気を持っている人もいる。妖気は主に先天的なもので、生まれた時点で決まる。実は後天的に妖気を増やす方法もあるのだが、今話すのはやめておこう。)
奈倉家は妖気を多く持つ神宮寺家を貴族まで昇格させ、妖気召喚の儀式を取り計らうよう任命した。
そして、代々両家は結婚し、大量の妖気を内包した子供を作り、政治の権力を握ろうと考えた。
子の妖気は主に親のそれに依存する。
だから、親の妖気量が多いと子もそうなる確率が非常に高くなるというわけだ。
奈倉家はそういう手法で、名門の貴族に格式を上げていった。
そんなある日のこと神宮寺礼子は自身の妖気量を測る為に、とある屋敷に父親と兄と共に出掛けた。
この家のしきたりで、ある一定の年齢になったら、妖気量を測定するのだ。
この儀式の後、妖気が特に多い子供を奈倉家に嫁がせたり、養子に出したりするのだ。
そして、驚くことに礼子は規格外の妖気量を保持していた。
その事は、瞬く間に日本中の貴族に伝わり、彼らは何とかして彼女を自分のものにしようとした。
しかし、まだ彼女は肝心の妖鬼を召喚していなかったので、彼女の両親はそれまで待ってくれと時間稼ぎをしてくれた。
しかし、その命令を無視して無理矢理連れ去ろうとする貴族が使いを寄越したりしてきたが、奈倉家が必死になって守ってくれた。
彼らが礼子を守るのは彼女のためではなく、自分達の利益の為だということを彼女は、痛い程理解していた。
いや、1人だけ理解してくれる人がいたのかもしれない。
それが誰だったのか、800年以上経った今ではすっかり忘れてしまった。
そして、待ちに待った妖鬼召喚の日、事件は起きた。
彼女は、その莫大な妖気量故にとてつもない妖鬼を召喚してしまった。
体長が200m以上の巨大な亀型の妖鬼と蛇型の妖鬼が、合体したような感じだった。
その姿は古の《玄武》の姿にそっくりだったという。
まだ幼い彼女はそんな、妖鬼を制御できる訳がない。
妖鬼は、破壊の限りを尽くした。
神宮寺家と奈倉家、それにその屋敷の周りの街も玄武似の妖鬼に破壊された。
神宮寺家と奈倉家の妖鬼使いの精鋭部隊によって、礼子と妖鬼を強制契約させることに成功し、被害の拡大を防いだ。
その時、無理矢理契約したはずみで、礼子は寿命が1万年になり、20歳以降不老になった。
(なぜ、20歳になってから不老になったかは、またの機会に話すとしよう。)
しかし、それでも死者が300人以上も出てしまうという異常事態になった。
その大事件は瞬く間に全国に伝わり、すぐさま朝廷に報告され、礼子は帝に京まで呼び出されることとなった。
かつて、礼子を必死に手に入れようとしていた貴族は、彼女に対して恐れおののいていた。
世間の人々の憎しみも礼子1人に集約されつつあった。
そのせいで、奈倉家と神宮寺家は災いを世にもたらしたとして、御家取り潰しとなった。
そして、礼子は妖鬼を暴走させ、街を1つ壊滅させた罪に問われ、死刑にされそうになったが、まだ幼いため、流石にかわいそうだという意見が多く、その事も踏まえ、島流しの刑で済んだ。
日本本土から遠く離れた無人島に礼子は流され、彼女はそこで数百年間過ごした。
そこで、自己流に妖鬼を使いこなせるように修行し、サバイバル生活をおくるうちに彼女は体術が物凄く強くなった。
そして、妖鬼を完璧に制御できるようになり、体力も体術も飛躍的に伸びたので、彼女は島を出て、日本本土に戻った。
しかし、当然彼女の家はなく、時代も変わり、彼女の常識は何にも通用しない。
それでも、礼子は必死に生き延びた。
場所を転々とし、時には妖鬼召喚を執り行い、何とか現代まで生きてきた。
そして、2024年現在、彼女は昔格安で購入した民家に住み続けながら、家で細々と内職をし、暮らしていた。
最近、家の掃除をしていたら、召喚の儀式を執り行う台座が埃を被っているのを見て、結構長い間使われてないと感じた。
礼子は、もう現代に妖気を持つ人間は存在しないんだと思った。
そして、台座を掃除しながら最後に来た人のことを思い出していた。
「最後に来たあの子は、とんでもなかったね…………。妖気量はひょっとすると、全盛期の私よりも多いかもしれない。だから、あの子が彼を選んだのかもね………。」
掃除も大体終わり一息ついていたところにインターホンが鳴った。
「おや、来客なんて久しぶりだね。誰がきたんだろう。」
インターホンを覗くと、そこには陰キャっぽくて根暗で、気の弱そうな男子が立っていた。
一応彼に妖気があるのか、チェックして、なかったら追い返してやろうと考えた。
しかし、意外なことに彼は今までに見たことのない妖気を持っていた。
長生きしている彼女でさえも、それが何なのか全くわからなかった。
面白そうなので、彼に妖鬼を召喚させて、何が出てくるか見てみよう。
そういう気持ちが強く、礼子は彼を家にあげた。
そして、出てきた妖鬼を見て、やはり彼らは異端だと気付いた。
何が違うのかはよくわからないが、とにかく、これまでの妖鬼とは全く違う雰囲気だというのは理解できた。
しかし、彼らの相性は非常に悪い。
章正とかいう男と妖鬼の性格が全く合ってない。
みんなが思っているよりも、性格の一致というのは、双方にとって非常に有用なものである。
それは、戦闘や妖気量にも関係してくるので、お互いの性格の一致は大きなアドバンテージになる。
(まあ、その辺の話はまた今度にします。物語を進めます。)
時は現在に戻る………。
あまりにも2人の先行きが不安だったので、礼子はこっそり尾行することにした。
そして、やっぱり、問題が起こっていたので少しばかり助けてあげることにした。
章正は血を流して気絶している。
まだ、命に関わるような怪我は負っていないみたいなので、安心した。
周りに乗客がいるから、まずはそっから、片付けるか。
「タージャ、周りの人間を避難させて」
「ハッ………。」
巨大な亀の妖鬼が咆哮すると、人間の周りに妖気で練った水の塊が出現した。
それは回転しだし、段々渦巻きの形になって人々を飲み込んで行く。
人々は何が起きたかわからず、一番奥の車両に移動させられていった。
「おい、何モンだぁ、てメェは。俺らの戦いの邪魔をするんじゃねぇよ。」
「戦いねぇ……。あたしから見ればただの一方的ないじめにしか見えないけどねぇ」
「ふん、それはお前が後から来たからだ。俺はコイツに2発殴られた、だから殴り返した。筋は通っているだろう。」
「どうせ、あんたには《《ノーダメージ》》なんだろうに……酷なもんだね。」
「何言ってんのかわかんねぇが、とどのつまり、あんたも敵ってこった。そいつに味方するなら、容赦はしない。」
「そうかい、なら来な。すぐに決着をつけて、あげるよ。」
「舐めんのも大概にしろよ。そこまでいうなら本気で相手してやるよ。」
章正の妖鬼は手に全エネルギーを集中させた。
「鬼針!!!」
そう言うと、両手にエネルギーを纏ったメリケンサック状の物質が生成された。
「謝るなら今のうちだぜぇ。」
二ヤっと笑いをうかべる。
そして、すぐさま亀の妖鬼に殴りかかろうとしたが………。
「グリージャ、やりな。」
章正の妖鬼の後ろから蛇の妖鬼が出現した。
「なっ…、何だと!!妖鬼は1体のはずじゃぁ……。」
「残念だったね。あたしは特殊なのさ。コイツらは2体で1体なのさ。」
蛇の妖鬼が妖力を溜めたブレスを吐いた。
それは章正の妖鬼にかかり、その瞬間妖鬼は床に倒れ悶え苦しんだ。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!何だこれは………。毒……か?」
妖鬼はのたうち回り続ける。
「タージャ、とどめだ。」
そう言って、礼子は指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、章正と彼の妖鬼は水の空間に閉じ込められた。
章正はしっかり保護されているが、彼の妖鬼は水の中で、水圧に押し潰されそうになっていた。
「ゴボッ、ゴボボボ」
「さて、そろそろ片をつけるか」
礼子は2人を閉じ込めた水の空間に手を触れて、妖気を流した。
礼子は2人を閉じ込めた空間を縮小させ、章正の妖鬼は擬似的に封印し、章正は水の空間から脱出させ、保護した。
「ふぅー、とりあえず動けなくはしたけど……。まだまだ問題は山積みだねぇ。」
礼子は少しだけ、立ち尽くして考えて…………。
「今日はもう遅いし、あたしの家に泊めるか……。」
めんどくさくなったので、そうすることにした。