1話 陰キャだって
初めて書く作品です。お楽しみいただければ幸いです!!
「ハアー、つくづくついてないぜ、この頃。」
俺はベットに仰向けになりながら、深くため息をついた。
俺こと須藤章正はただ今、こよなく愛するスマホゲーム妖魔大戦にてガチャを回したところ、見事に爆死した。
俺は課金を一切せず、無課金でガチャに必要な妖昌石を10000個貯めた。
毎日コツコツとため続け、数ヶ月が経ち、ようやく100連ガチャを引いたというのに、レアキャラが一切でないという不幸に見舞われた。
こうやって一生懸命努力してきたことが一瞬にして無駄になると、人は言葉を失うものだとわかった。
当然悔しい思いをしたので、ネトゲ仲間にLINEでこの事を話すと、
「ダッサ」とか「クソワロタ」とか「ドンマイ」など、
心無い言葉が帰ってきたので少し悲しい気持ちになった。
中には「ザマぁみろって」、いう感じのスタンプを50通送ってきた猛者もいた。
「クッソ、世の中いつもこうだ。」
といいながらスマホを床に強く投げつけた。
スマホはワンバウンドして扉が開いたクローゼットの中に入って行った。
「ハアー、何か面白いことないかなぁー。」
俺はベットに転がりながらおもむろに呟いた。
「あ、待てよ。今日は例の日だ。ずっとやりたくてできなかったアレを試して見よう、デュフ、デュフフ。」
気持ち悪い笑い声を発しながら章正は机に向かった。
そして紙とペンを用意し、何やら幾何学的な図形をスラスラと描いてゆく。
そして、図形の中に漢字をびっしりと書いていく。
そして図形の中央の間隙に特殊な液体状の物質を一滴垂らす。
そして、
「とうとうできたぞ、俺がどんなにこの瞬間を待ちわびたか。8年に1度の《妖鬼召喚》、ぜってえ成功させてやるかんな。」
そういうと章正は一目散に外に駆けて行った。
ここで、少しだけ須藤章正という男について説明しよう。
章正は家の近くの片橋第一高校に通う高校一年生で、陰キャの中の陰キャである。
学校では、クラスの友達とは一切話さないし、休み時間は机で突っ伏して、寝たふりをしている。
昼休みも、弁当は屋上で一人寂しく食べている。
勉学の成績は中の上ぐらいで、パッとしない。
部活はしておらず、学校が終わるとすぐに家に帰ってしまう。
彼の趣味は大きく分けて二つある。
まず、1つ目はもうわかっていると思うが、ゲーム(といっても、格段うまいわけでもなく、ただ単にネトゲ仲間とオンライン対戦するだけのエンジョイ勢なのだが)。
彼は暇さえあれば、ゲームをする。例えどんなに忙しくても、ゲームを1日も欠かさない。
家に早く帰る理由というのは、ゲームに費やす時間を確保するためである。
しかし、彼は飽き性であるため、どんなゲームをやっても、3ヶ月程度でアンインストールしてしまうのである。
しかし、妖魔大戦は違った。
これは売上No.1というわけではなく、むしろアプリストアにあるゲームランキングの最下位に属する感じのゲームなのだが、とにかく神ゲーであった。
なぜ人々はこんなにも面白いゲームをしないのか、章正は気になって仕方がない。
このゲームの設定なのだが、人間と妖鬼というモンスター(?)が共に協力しあい、敵を倒して行くというごくごく普通のバトルゲームであるのだが、他のゲームと違う点がいくつかある。
圧倒的な戦闘描写とグラフィック、さらに濃密なストーリーや、何が出るか一切わからないガチャ、課金システムが一切なく、その全てをプレイヤースキルに委ねている。
しかし、それは一般の人がこのゲームをすれば抱くであろう感想であり、章正が思っていることとは少し違う。
章正はこのゲームに少しばかり、違和感を感じていた。
ストーリーを含め、キャラクター同士のやり取りが、作り込んだ感じではなく、実際に見聞きしたことをそのままゲームにしたような、そんな気がとにかくしたのだ。
気になって章正はこのゲームに出てくる妖鬼について、詳しく調べていく過程が次に挙げる2つ目の章正の趣味に繋がる。
このゲームをして以来、章正はオカルトマニアというか、厳密に言えば妖鬼マニアになった。
妖鬼はインターネットなどで調べれば、〖ばけもの、もののけ、妖怪〗、なんて感じで出てくる。
しかし、もっと深く調べていくと、妖鬼召喚というページを見つけた。
そこには妖鬼召喚について細かく書かれており、章正は少しばかり気持ちが昂ったのを覚えている。
しかし、その召喚の儀式とやらは決まった日にしなければならないらしく、章正はそれを聞いて胡散臭いと感じていた。
そして、しばらくこの事を忘れていたのだが、今日のガチャで爆死し、自暴自棄になり、召喚の儀式を思い出した。
普段なら彼はこんなものを実行しようとはしない性格であるのだが、この時章正はどうにでもなれ!!という気持ちが強かったので、結果はどうなってもいいからとにかくやってみようという感情が沸いた。
以上で章正についての説明はこれにて終わり。
家を飛び出した俺は、最寄りの駅から電車を乗り継ぎ、妖鬼召喚の方法が書いてあるサイトにて記載されていた、指定された地点に向かったのだが、
「本当にここであってんのか?ただの和風の住宅にしか見えないけど。」
俺がたどり着いたのは、閑静な住宅街の一角(というのも、自分が想像していたのは神社の祠的なものであったので、イメージと現実が大きくずれて戸惑ってしまったというのもあるが)というか、どうみても人が住んでそうな木造建築で、築60年ぐらいの普通の家である。
ただ、なんとなく庭や建物が少しばかり大きいとは感じたが、如何せん塀が高いため、全容はわからなかった。
しかしその点を除けば、おじいちゃん、おばあちゃんが住んでるような家と何ら変わりはない。
俺は少し躊躇った。
「困ったなぁ、まさか嘘の情報かこれ?でもなぁ、その割には書いてあることはリアルなんだよなぁ。でも、さすがに勝手に入るのはなぁ、普通に不法侵入だよなぁ…」
俺は考えに考えた結果、せっかく、電車に乗ってここまで来たので家のインターホンを鳴らすことにした。
少しノイズが入った《ピンポーン》が鳴った後、数秒経ってから若い人の声がした。
「はーい、ご用件はなんでしょう?」
雑音が酷く、性別の判断はできないが、取り敢えず俺は質問に答えることにした。
「とっ、突然伺ってすみません、ネットの情報で、ここで妖鬼召喚ができると書いてあったのですが、これは本当なんですか?」
俺は言って後悔した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー、恥ずかし。ドストレートに聞きすぎたァーーーーーーーーーーーー!!!これだと、俺はオカルト好きでガチで夢見てるただのヤバい奴になっちまうじゃんかよー、何やってんのオレー、チクショー、何か相手黙っちゃったし、何なのマジで、ホントに何とかしろよ俺、コノッヤロッ!!」
と心の中で無様に悶絶していた時、インターホンから、意外な返しが来た。
「ああ、8年ぶりだ、妖鬼召喚の用件で訪ねてくる人は…まぁ、立ち話もあれだし、とりあえず上がりなよ。」
そう言って、インターホンが切れた。
それを聞いて、少しばかりホッとしたのは死ぬまで胸に閉まっておくことにしよう。
とりあえず、言われた通りに俺はドアを開け、玄関に入る。
「おじゃましま~す」と軽く言った後、恐る恐る周囲を確認する。
中は外と比べて暗い。
玄関には傘立て、その隣に靴箱があり、その上に水墨画や木彫りの熊や木の枝で作られたオブジェがあり、反対側にはショーケースにびっしりと入った日本人形が置かれていた。
玄関から1本道となる廊下の奥には階段とその横にドアが1つだけという変わった間取りをしているものだ。
しかし、待てども中々家の人が来ないものであるから、段々不安な気持ちになってきた。
こういう時、声をかけるのは少しばかり勇気がいるのだが、こうは言っていられない。
ありったけの勇気をかき集めて、俺は発言する。
「すみませーーん」
しかし、俺が言えたのはそこまで。
それ以降何を言えばいいか、思い付かなかった。
でも、俺はこれしきでは、挫けん。
質がだめなら、量でカバーすればいいのだ。
この後、3回「すみませーーん」と叫んだのだが、あまりにしつこかったのか、さっきインターホンに出たらしき人が奥の扉をバーンと開いて駆け寄ってきた。
近くに来て大学生ぐらいの眼鏡女子だということがわかった。
その女子はイライラした表情をしながら、ズカズカと詰め寄ってきた。
そして、俺に一言
「ウルサァァァイ!!うるさい!!うるさい!!」
と叫んだ。
「いや、あんたの方がうるさいわ!!!」
と思わず、ツッコんでしまった。
「いや、違うし、てゆーか遅いんだよ遅いんだよ、はい大事なことなので2回言いました。入っていいっつってんだから、さっさと来いって、なんだアレカ?なぁ、あなたが俗に言う陰キャですとか言うやつだろぉ?ここまで来る行動力あるのになぜ、そこだけ陰キャナンダァァァァーーーーーーーーーーーー!!!」
女子は物凄い剣幕でまくし立てる。
「すみません、よくわかりません」
「よくわからないってなんだお前?うるさいのはお前の方だ???」
「自分で言ってるのに、なぜ疑問系なんだ?てゆーか陰キャじゃねえし!!」
「黙れ!!」
「唐突な理不尽の極み!!」
「はいーー、そこで極みって、つける奴全員陰キャーはい論破ーー」
「いや、無茶苦茶じゃないすかあんたの言ってること、何もかもが破綻してますよ。」
双方が落ち着くまでかなりの時間を要した。
「とにかく、あんたは妖鬼召喚のためにわざわざここまで来たんだろ?それなら、妖気が貯まるこの時間に早いとこ済ませてしまいな。」
いや、時間かかったのあんたのせいだからな?そこだけは譲らんぞ。
俺が何言っても全部うっせぇわで返ってくるんだもん…。もう疲れたよホントに。
「手順はもう知ってんのかい?」
「はい…、一応サイトにて確認したので……」
「それじゃ、あのドアの奥にサイトにあったあの画像と同じものがある。アタシはさっき、あれの準備をしてたから、少し出てくるのが遅れたけどまあ、何だ。とにかく、ごめんな」
「いえいえ、僕もうるさくしてしまってすみません。」
少しだけやり取りした後、俺は一人で奥の部屋に入った。
ドアの先は窓もない黒い壁で覆われた薄暗い大部屋だった。
中心にサイトにあったあの石の台座とその回りに木の柱が8本、円を描くように置かれていた。
台座は少し高い位置にあり、回りに階段も取り付けられていた。
部屋の壁には灯籠や達筆な字の書かれた掛け軸が規則的に配置されていた。
実に壮観な景色だ。
「よし、始めるか」
俺は持参したあの紙を台座に置き、四隅をさっきの女子に貰った特殊な加工がしてあるという石を置いて留める。
そして、サイトに書いてあったあの言葉をボソボソと呟いた。
「妖鬼よ…我が力に応えたまえ我の身と契りを交わし、貴公の力を得んとす」
うん、わかってるよ。言わなくていいよ。
厨二病だって俺もわかってるから。
言っててすごい恥ずかしかった。
シーーーンって、リアルな文字で出てたよね?
うん。
すると次の瞬間、俺は莫大なエネルギーが俺の体の中に流れてくるのを感じた。
「なっ、何だこれは」
それはとどまることを知らない。
台座に巨大な火柱らしきものが立ち、部屋を明るく照らす。
「うわっ、何だこの身震いするような圧迫感は!!妖鬼って、いうのはホントにいたのか!?」
俺は目の前で起こってることが信じられない。
火柱から何か生命体のようなものが錬成されていく。
少しずつ、生物としての形を帯びていく。
ぼんやりと、そいつの輪郭が見えてきた。
最初はどんな姿か良くわからなかったが、何か某戦隊ヒーローと鬼を足して2で割ったような見た目をしている。
俺は、そいつは俺と繋がりを持った妖鬼だと確信した。
マジかよ俺!!
もしかして、すごいことを成し遂げたのでは?
これは後世に残るかも?
いやいや、まずはこの妖鬼とやらと仲良くならなければ。
まずは、そこからだ!!
うん、まずは、会話。
第一印象が肝心だ。
俺は息をフーッと吐いてから妖鬼?に語りかける。
落ち着けぇ……、落ち着けよ俺……。
「君が俺が召喚した妖……」
「 オイッ!!!!!てめぇかぁ?俺を召喚しやがったのは!!」
「へっ………」
それが俺と相棒の最初の出会いだった。