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03 ねえ、お兄ちゃん、何を買おっか? これにする?


 ここはどういった店なんだ?

 来栖尚央は得体のしれない空間に入った感覚に陥る。


 尚央は、二人の女の子と一緒に、店に入ったのだ。が、そこはコンビニのような作りの建物であり、広い店にしてはあっさりしたものしか販売していない印象だった。


「ねえ、お兄ちゃん。何を買おっか」

「いや、まだ少ししか見てないし。ゆっくりと見てからな」


 尚央は妹の問いかけに冷静に対応した。

 それにしても、コンビニみたいな感じなのに、スーパーのように広いとは……。

 意味不明であり、ここの店主は何を考えて、このような作りにしたのだろうか?


「ね、お兄ちゃん。これなんか、どうかな?」

「なに?」


 妹が見せてきた商品は、ケースの箱みたいなものだった。


「……って、それ、妹には早いだろッ、いいから、そういうのは」


 尚央は変な気持ちになりながらも拒絶したのだ。

 なんで、男の俺が恥ずかしがってんだよ。

 尚央の調子が狂ってしまう。


「もう、そろそろいいじゃない」


 妹は不満そうにブツブツと話している。妹が見せてきたのは、大人の男女が使用する、ゴムみたいなモノが入った小型の箱だった。


 そもそも、妹相手に欲情なんて……。

 尚央は何とか冷静を保とうと必死だった。

 本当に妹を性的な目で見てしまいそうで怖い。


「ねえ、お兄ちゃん。だったら何を買うの?」

「何って、まだ、少ししか見てないだろ。もう少し店屋の奥に行ってみようか」


 尚央はそう言い切り、先へと進む。

 が、一緒に店内にいた鈴ちゃんは、とある棚の前でジーっと見て考え込んでいた。

 何をそこまで真剣に見ているのだろうか?


「どうしたのお兄ちゃん」

「いや、鈴ちゃんだっけか。一応、迷わないようにさ。ちょっと話しかけてくるだけだから。まあ、一緒に行動しようよ」

「そうだね。ねえ、お兄ちゃん? 私の友達の事好きになったの?」


 妹から黒い視線を向けられた。


「いや、まさか。そもそも、なんの繋がりもないのに、そういう関係にはならないさ」


 尚央は言い切った。

 彼女の元に近づいていき、隣に立つのだ。


「えっとさ、鈴ちゃんは何か買おうとしてるのかな?」

「え? な、なんですか、急に⁉」


 鈴は、恥じらう顔を見せ、手に持っていたものを、サッと背後に隠す。

 そして、気まずそうに、尚央の顔をチラチラと見てくる。


「そ、そんな驚くこと?」

「は、はい。私は一人でゆっくりと見たい派なので」

「そうなのか?」

「はい」

「でも、迷子になったら、危ないと思うんだけど」

「そうですけど。わ、私は一人で大丈夫なので」


 なぜか、彼女から可愛らしく睨まれてしまう。


「本当に大丈夫なのか?」

「は、はい……」


 彼女は強気な口調になっていた。

 そんなに見られたくないモノなのだろうか?

 疑問を抱きつつ、鈴と距離をとったのだ。


 まあ、何を買うかは個人の自由である。

 余計に口出しする必要性はないと思った。


「鈴ちゃん、私。お兄ちゃんと少し別のところにいるから。何かあったら、この店の入り口近くの待合室コーナーで待っててね」

「うん」


 鈴は気まずそうに、軽く頷くだけだった。


「じゃ、行こっか、お兄ちゃん。あと、手を繋がない?」

「なんで?」

「いいじゃん。一応、今日デートの日なんだよ。一緒に繋ごッ」

「まあ、いいけどさ」


 しょうがないな。

 と、思いつつ、手を見せ、妹の手を軽く握った。

 妹は元気よく、そして尚央は引っ張られる形で店内を歩きだしたのだ。






「というか、妹は何を買いたいんだ?」

「それは、決まってます」

「なに?」

「エプロンですね」

「そういうのって、家にないのか?」

「ありますけど。一応、今日買おうと思ってたんです」

「そうか。でも、どんなエプロンでも、別にいいような気がするけど?」

「そんなことはないです。その日によって、色々と変えたいんですッ」

「そんなものなのか?」

「はい」


 妹はハッキリと告げる。


 そして今、エプロンが売っている棚のところまでやってきていた。

 そこには、多くのエプロンがハンガーのようなもので飾られてあったのだ。

 コンビニのような雰囲気のある店だが、もはや、なんでも揃っているところに驚きだった。


「ねえ、お兄ちゃん、どんなエプロンがいい?」


 妹はハンガーにかかっている、エプロンを手にとり、自分の体に当て大きさなどを確認していた。

 そんなにエプロンに思い入れもこだわりもない尚央からしたら、正直どうでもよいと感じる。


「ねえ、どうかな? このピンクの方? それとも、キャラがついてる方かな?」

「えっとだな……」


 来栖尚央は考え込む。

 一応、そういう風な仕草を見せたのだ。

 やはり、この妹は何気に心が黒くなったりする。


 表面的には悩んでいるふりをした方がいいだろう。

 ピンク色エプロンか、キャラデザエプロンか。

 悩んでしまう。


 本当に、この妹が、本当の妹であれば、多分……ピンク色エプロンを好むはず。だが、それは安易な考え方だ。

 今、視界に入っている妹は、妹であって、妹ではないもの。

 予想するに、多分、キャラデザエプロンを選んだ方がいいだろう。


「ねえ、お兄ちゃん、そろそろ決めてよ。唸ってばかりいないでさ」

「え、ごめん……だったら、キャラデザエプロンにしなよ」

「えー、このエプロン?」


 妹は不満げに、尚央を疑うような眼差しで見てくるのだ。

 え、なんで?

 まさか、ピンク色の方がいいのか?


「もう、どうしてわからないの」

「ご、ごめん……」


 最初っから、ピンク色の方がよかったか。

 今更、そう思っても遅いのだ。


「じゃあ、私、このピンク色エプロンにするね♡」

「ああ」


 尚央は簡単に頷いた。

 まさか、ピンク色エプロンを選ぶなんて。


 この妹は、本当の妹なのか?

 いや、そんなはずは……。

 今一緒にいる妹は、普段から妹とかけ離れているのだ。


 たまたま、趣味嗜好が被っただけなのかもしれない。

 尚央はそう思い込むことにした。


「というか、お兄ちゃんは何も買わなくてもいいの?」

「買うって、別にそんなに欲しいものはなかったしさ」


 先ほど、店内をあっさりと回って歩いていた。

 これと言って、絶対に欲しいと思えるものなど何もないのだ。

 余計に買い物をしても無駄になり、しまいには捨てるだけになってしまうだろう。


「だったら、私がお兄ちゃん用に何か買ってあげるね」

「買うって何を?」

「それは、いいものだよ」


 妹は笑みを見せる。


「いいよ。そんなにお金なんてないだろ」

「あるもん。結構」

「でも……中学生の妹には」

「なに、中学? 違うよ。私、まだ小学生だよ、お兄ちゃん」

「え? ……しょ、小学生⁉」


 な、なんでだ?

 妹は中学一年生だったはず。

 なぜ、目の前にいる妹は小学生なんだ?

 尚央はよくわからなくなった。


「ねえ、どうしたの、お兄ちゃん」

「いや、なんでもない。嘘だよ、冗談、冗談だって」


 冗談ということにしておいた。

 いや、まさか。そんなことはない。


 確かに、妹は中学生だった。

 それはハッキリと覚えている。

 この頃、仲が悪かったとしても忘れるわけがない。


 でも、本当に小学生ならば、視界に映っている子は、妹ではないということになる。

 やはり、偽りの妹なのだと感じた。


 ここは、夢なんだ。

 痛みを感じるが、ここは偽りの世界。

 いずれ、時が来れば目覚める。

 尚央はようやく自分の考えに確信を持てるようになったのだ。






「ねえ、買ってあげるから」

「いいよ、小学生の妹に、支払わせるわけにはいかないしさ」


 来栖尚央は頑なに拒んだ。


「いいから、こっち来てッ」


 妹からの強引な導き。

 そして、とある場所にコーナーに到着する。


「ここは……服か?」

「そうだよ」

「なんでまた。家にあるよ」

「そうだけど。お兄ちゃんってば、服装がダサいの。だから、今ここで買うの」

「いいよ、買わなくてもさ」

「んんー」


 妹は唸っている。

 まじまじと、尚央を見やっているのだ。


「だから、お兄ちゃんは私の恋人なんだし、服くらいしっかりとしてよね」

「俺は別に、これが普通だと思ってるけど」

「そう? いつも、黒色の服装ばかりだし。デザインもなんか時代遅れだし」


 た、確かに。

 尚央は自分の着ている服装を改めてみると、そのダサさを痛感してしまう。

 似たり寄ったりの服しかないためか、少し服の生地が傷んでいる。


「私ね、もう少しカッコいいお兄ちゃんにしたいのッ」


 妹はハッキリとした口調で言い切るのだ。


「だから、これを着て。あっちの方に試着室みたいな場所があるから、早く」


 妹から強引にハンガーから外された服を押し付けられてしまう。

 尚央はしぶしぶと、試着室に入り、カーテンを閉めたのだ。


 こんな感じでいいのか?

 尚央は、試着室の鏡に映る自分を見た。

 確かに、妹が選んでくれた服は、ハッキリとしたデザインであり、今風の新鮮さを感じられる派手さがある。


「お兄ちゃん、着た?」


 カーテンの先から妹の声が聞こえてきた。

 待っていてくれているのだろう。


「ああ、ちょっと待ってて」


 そういいつつ、鏡を見て、襟首などを整えるのだった。

 尚央はカーテンを開け、妹と対面し、着た感じの状態を見せる。


「んッ、いいんじゃないかな? これで少しは雰囲気が良くなったと思うよ、お兄ちゃん♡」


 妹は評価してくれた。

 そもそも、本当の妹がここまで嬉しそうに話しかけてくることなんてない。

 本当の妹ではない妹の笑顔を見ながら、自分の服装をもう一度確認するのだった。


「それで、本当のこれを、妹が購入してくれるのか?」

「うん、記念にね」

「そっか」

「あと、今日はセール日だし」

「セール?」

「うん、兄セールね」

「あ、兄セール? なんだ、それ」


 尚央は意味不明なセール名に困惑しつつも、一旦、試着室を後にするのだった。


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