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怒れる悪役

どうもこんにちは!

白雪姫の物語に出てくる悪役ことクイーン・グリムヒルデと申します。


前回のあらすじは!優しそうなメイドを発見して人材を捕まえた!


これでミントティーの中に毒を仕込まれたり、ベットの中に針仕込まれたりもしない!

ドアをバンっとわざと強く閉められたり、おぼんをドンっと置かれたりしてビクビクしなくても済む!


こんにちは!新しい世界!私の安寧秩序は保たれる!精神衛生も大変よろしい!

言葉がおかしいって?小さいことは気にしない!


あ、そうそう。ベットメイキングは危ないのでやる気のなさそうなメイドさん(チュチュさんというらしい)に頼んでおいた。


鏡が言うにベットに針を仕込んだのがチュチュというメイドらしいので、刺さっても自業自得だ。

鏡は監視カメラなの?盗聴器なの?って言うくらい王城の中の噂やらなんやらを教えてくれる。


私はそんな優しい性格はしてない。

悪役ではないけど、善人でもない。

人間、善と悪を分けられるほど単純ではない。


自分に悪意を持っている人に対して優しくできるほどの余裕なんてないし、出来た人間でもないのだから。


「おはようございます、女王様。お湯をお持ち致しました、失礼致します。」


ジヴァがお湯の入った洗面器を持って入ってくる。

洗面器からはホカホカと湯気が出ている。


「ありがとう、ジヴァ」


ありがてぇ…洗面器に入ってた氷水とは雲泥の差だ。

ジヴァを専属メイドにした日から私の生活は薔薇色に変わった!


ご飯もホカホカ!お風呂も温かい!

ジヴァが専属メイドになってから格段に嫌がらせが減った。

ジヴァには感謝しても感謝しきれない。


「朝食はいつも通り部屋にお運び致しますね」


「えぇ、お願い」


いやぁ〜、平和だわぁぁ!


「それでは失礼致します…」


うん?なんかジヴァ、顔色悪いような……?


『気付いたか、グリムヒルデよ。』


「うわぁ!?びっくりした!いきなり話しかけないでよ!びっくりするじゃん!」


『鏡の私が、お主に話しかける以外でできることがあると思うか?まぁ、魔法でならそよ風を起こすとかならできるが……それはどうでもいい。それよりも気付いたか、お主の専属メイドの様子がおかしいことに。』


確かに…なんか顔色が悪かったというか真っ白だったような?


「顔色が悪かったけど…体調が悪いのかしら?何か知ってる?鏡」


『お前の専属メイドになってから、他のメイド達からのいじめにあってるみたいだ。その理由がお前のご飯に毒を仕込む手伝いをさせようとしたら断られたからみたいだな』


「なっ!そんな!!」


『余計な仕事を押し付けたり、ご飯の中に虫を入れられたり、ベットを水浸しにされたりしているな…それのせいで寝不足気味のようだ』


私のせいだ。

私の専属メイドにしたから、彼女を巻き込んでしまった。

どうしよう、今からでも彼女を普通のメイドに戻す?


このいじめの理由がムカつく!

毒を仕込む手伝いをしろだなんて頼んで断られたら虐めるってなによ!?


他のメイドに憤りを感じていると控えめに扉がノックされる。


「グリムヒルデ様…失礼致します。朝食の準備が整いました!」


朝食を乗せたワゴンを転がして来たジヴァの顔は、化粧で誤魔化してはいるがよく見ると目の下に隈がある。


「ジヴァ…あなた…」


「はい?いかがしましたか?あ、ミントティー召し上がりますか?」


ジヴァが甲斐甲斐しく朝食を並べてくれる。

そんなジヴァが立ちくらみを起こしたのか、フラッと体が揺れる。


ジヴァが持っていたティーカップがカーペットの上に落ちる。


「…ジヴァ!大丈夫!?怪我してない?」


「すみません、グリムヒルデ様!粗相を…私は大丈夫です。申し訳ございません。すぐに片付けます!」


平謝りするジヴァの手を握る。

ジヴァのメイド服から手首が出る、その手首には痣があった。

この痣…もしかして……


「ジヴァ、ごめんなさい…私のせいだわ」


自分の浅はかな考えのせいで、ジヴァをこんな目に…

自分が情けなくて仕方がない。


「え、グリムヒルデ様!?いかがなさいましたか?……あ…」


手首をサッと隠すジヴァ、やっぱり……

許さない…私の王城での唯一の味方であるジヴァを虐めるだなんて。


私は善人じゃない、そして自分の大事な人を傷つけられて黙ってられるほど大人しい性格でもない。


知ってる?グリム童話の悪役は…自分の大切な物を守るために悪役になるのよ。


「ねぇ、ジヴァ。あなたは私の何かしら?」


「え……?わ、私は…グリムヒルデ様の専属メイドです…」


「えぇ、そうよね。女王である私の専属メイド。その専属メイドを一介のメイドがどういった了見で虐めているのか知りたいわ」


「そ、それは……」


「いい?女王の専属メイドのあなたを軽んじるということは、女王である私のことも軽んじていると言うことよ。それは王家も侮辱するということよ。王家を侮辱している不届き者は誰か話して…」


ワンピースのエプロンをギュッと握ったジヴァを見つめる。

ジヴァはしばらく黙っていたが、観念したかのようにポツリポツリと今までの事を話し出した。


ミントティーの中に腹下しの薬を仕込め、ドレスに針を刺せ、髪の毛を梳かす時に数本抜いてしまえ、朝の洗顔する水は氷水にしろ、転んでしまうように雨の日に歩きずらいヒールを勧めろ、お茶の中に塩を砂糖と偽って入れろetc…


従わなければ除け者にする。

その気になるように仕向けると脅されたと。


でも全部断った。

みんなが田舎者の男爵令嬢だってバカにする中、グリムヒルデ様だけは私の事を褒めてくれた。

微笑みかけてくれた。


それが私にとってどれほど嬉しくて意味のあったことか。

そんなグリムヒルデ様を裏切るようなことをするなんて無理だと。


初めのうちは諭すように話しかけられていたが、業を煮やしたのか実力行使に出てきたという。


私のことを極悪非道などと噂しておきながら、自分達がやっていることのほうがよっぽど酷いことに気づかないのだろうか?


許さない!絶対に許さないっ!


私の中で何かが熱く燃えているのが分かる。

それは私か、それともグリムヒルデの心が燃えているのか。

どっちも燃えているのかわからなかった。


「ありがとう、ジヴァ。辛い思いをさせてしまったわね…しばらく休んでいいわ。疲れているでしょう?」


「いえ、グリムヒルデ様っ!「しばらく休みなさい!」」


言い募ろうとするジヴァの言葉を遮り、強く言うと諦めたようにジヴァは「わかりました…」と小さく言うと俯いたまま部屋を退出した。


「鏡よ、鏡…今までジヴァに嫌がらせをしたメイドを全員調べて。あとこの嫌がらせには無関係で図々しい性格をしてそうなメイドを1人。」


『なんだ?反撃するのか?お主が今まで何もしないのを歯がゆく思っていたからなぁ。…いいだろう!しばし待て。…こういうのはワクワクするなぁ…』


そんなに私に嫌がらせしたいの?いいわ、させてあげる。

でも私…もう黙ってやられるほど、優しくはできないわ。

やられたらやられた分だけ、完膚なきまでに叩きのめしてあげる。


泣いても喚いても許してやるもんか!

私は何をされたってかまわない、でも無関係なジヴァを巻き込んだのなら…それ相応の落とし前というのをつけてもらわないと…ね?


悪役だからだろうか、血が騒ぐ感覚がする。


「さぁ、はじめましょうか?」


私はミントティーを1口飲むと、誰に向けるでもなくうっとりと微笑んだ。

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