朝食までの一騒動
朝起きると、廊下からドタバタと忙しない足音が聞こえる。
ここら辺は本館から少し離れた所にあるため、いつもはメイド達がドタバタしているのが聞こえるというのはないのだが…
ひとまず着替えて、廊下に出るとジヴァが廊下を掃除していた。
「おはよう、ジヴァ。こんな朝から廊下の掃除をしてどうしたの?」
「あ、おはようございます。女王。すみません、すぐにお湯をご用意します!」
慌てて走っていこうとするジヴァを引き止める。
「まって、急ぎじゃないわ!それより、これはジヴァの仕事じゃないでしょう?何故廊下を掃除しているの?」
「あー…それが……実は」
ジヴァは言いにくそうに切り出す。
「なんですって!?」
ジヴァに聞いた話は衝撃な内容であった。
なんと朝、私の部屋の前を通りかかったジヴァは床がテカテカになっているのに気付き、触ってみたところオイルがぶちまけられていたらしい。
それに気付かず扉を開け廊下を歩いていたら滑って転ぶだけではなく、最悪の場合頭を打っていたかもしれない。
そんなことをするのは…白雪姫の側についているメイド達くらいしかいないだろう。
今は何もしないわ……でも覚えとけよ?絶対に地獄を見せてやるわ!
心の中で悪態をつき、ジヴァに笑みを向ける。
「朝からありがとう…今度からここら辺にはカーペットでも敷きましょう。そうすれば掃除せず捨てるだけで済むから」
「承知しました…あ、今日は10時からロナウド様から紹介していただいたデザイナー様がいらっしゃいます。」
「そう、では軽く身だしなみを整えて軽く朝食を食べて出迎えましょう。あら…?そう言えばユイは?」
ジヴァとユイは私の専属メイドであるため、基本2人セットでいることが多いのだがユイの姿が見当たらないことに気がつく。
「ユイなら床を汚したメイドの後ろ姿を見たと言って、そのメイドを血祭…ゴホン。探しに行きましたよ!」
今、ジヴァの口から血祭りという物資な単語が聞こえたような?
気のせい…よね?きっと。
「そう、ほどほどにしておくように言っておいてちょうだい。私は今日は食堂で朝食を食べるわ。掃除が終わったら髪結いと化粧をお願い」
今日は2人とも手が離せないみたいなので、ジヴァにそう言い残すと食堂へと向かう。
食堂に行くとメイド達がザワザワとしているのが聞こえてくる。
「なんでここにいるの?」とか「いつも部屋で食べてるんだから部屋で食べればいいのに」とか。
聞こえてるよ〜、メイドさ〜ん。
グリムヒルデの記憶では辺境伯の屋敷のメイドはこんなヒソヒソ話してなかった。
ここの王城のメイド達は教育がされてないんじゃない?
メイド達を取り仕切っているメイド長はハイジに出てくるロッテンマイヤーさんな見た目で、礼儀には厳しそうな感じだったけどな?
これは後で鏡にメイド長について聞いてみないといけないわね。
頭の中で算段を立てて朝食を待つ。
しばらくすると1人のメイドが朝食をワゴンで運んで来た。
そのメイドは美しい所作でお辞儀をするとパンの置かれた皿をドンッと置いた。
その弾みでパンが床にコロコロ転がる。
「申し訳ごさいません」
とメイドは謝りながら次々に朝食を置いてゆく。
床に落ちたパンを拾おうともせず、メイドはワゴンを押して立ち去ろうとする。
そんなこと、させる訳ないじゃない。売られた喧嘩は買うわよ。
「待ちなさい、そこのあなた。そうあなたよ」
メイドはだるそうにこちらを見る。
メイド2人を地下牢送りにしたけど、噂は出回っていないようね?
知っていたらこんな事、しないはずだもの。
それとも肝が据わっているだけかしら?
「あなたは床で食事をするの?それとも若く見えるけど老眼なのかしら?ご愁傷さまね。」
クスクスとメイドを挑発するように笑う。
メイドは顔を真っ赤にさせ鬼の形相になる。
おー、怖い怖い。
「床にパンが落ちてるのが見えない?しかも置き方が雑だわ。王家のメイドに向いてないんじゃない?」
まさかこの私に反撃されるとは思っていなかったのだろう。
プルプルと肩が震えている。
それは怯えか、それとも怒りから来る震えか、きっと後者ね。
「この王城のシェフはとても良い人よ、そして自分の料理に誇りを持っている。そんな人が自分の料理を雑に扱われたと知ったら…どう思うかしら?」
メイドの顔からさっきの赤い顔が嘘みたいに血の気がサーっと引いていく。
このメイドは食堂の担当をしているメイド、つまり食堂を統べるシェフ長を敵に回せば…どうなるかしら?
仕事がしにくくなるでしょうねぇ?
目が合ったメイドにシェフを呼んでくるように指示を出す。
「そこのあなた、突っ立ってるあなたよ。シェフを呼んできてちょうだい。この食堂を担当してるメイドの教育はどのようにしてるのか聞きたいわ」
「か、かかかかしこまりましたっ!」
目のあったメイドはバタバタと走ってシェフ長の所に行ってしまった。
淑女であるべき貴族のメイドが王城で走るなんて…そんなに焦らなくてもいいのに。ふふふっ…
10時にお客様が来るけど…今は何時かしら?
食堂の時計を確認すると針は9時を指していた。
今からご飯を食べて身支度を整えるとギリギリかもしれないわねぇ。
お腹が鳴ったら恥ずかしいわ、スープだけでもシェフ長が来る前に飲んでおきましょう。
こういう時、いちいちスプーンで掬ってお上品に飲まなきゃいけないことに煩わしさを感じる。
誰にも見られてなかったら器から直接飲めるのに!!
しばらくするとこの前の強面の大柄のシェフ長が食堂に来た。
「忙しいのにまたまた、ごめんなさいね?」
「いえ、女王様。なにか不備でもございましたでしょうか?」
シェフ長に成り行きを説明するとシェフはにっこり笑った。
その笑みはドス黒さを感じさせる。
「そのメイドは床でご飯を食べる文化みたいですね…そのメイドには今度から床でご飯食べれるようにしておきましょう」
「そう…ではあなたにまかせるわ」
メイドを見ると涙目でオロオロとしている。
シェフ長がこのメイドを罰するなら、これ以上手を下すのはやめておきましょうか。
このシェフ長ならそれ相応の罰を与えてくれそうだし。
私はほうれん草とコーン、ベーコンのバター炒めを口に入れると咀嚼し、「美味しいわね」とシェフ長に微笑む。
シェフ長はコック帽を脱ぐと頭をペコリと下げて、涙目のメイドを連れて厨房に戻って行った。
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