このお味噌汁、しょっぱくないですか?
第3回小説家になろうラジオ大賞に応募した作品です。テーマは「お味噌汁」。
ひだまりのねこ様に依頼し、本作のイラストを描いていただきました。
後書きに挿入しています。
ひだまりのねこ様、ありがとうございました。
A駅から歩いて7分。
1階にショボい100円ショップが入った雑居ビルの脇の入口から臙脂色に塗られたエレベーターに乗り三階のボタンを押す。
ガタガタと音のするエレベーターは狭く暗く形容しがたい臭いがする事から、その雑居ビルが半世紀近くも年を経ているのがなんとなくわかる。
こんな場所で提供されるのが何物にも代えがたい素晴らしい味噌汁だ、と私が言ったら貴方は信じるだろうか?
私も最初は懐疑的だった。しかしすっかりこの店の虜になった私は、今や最低でも週に2回はここの味噌汁を飲まずにはいられない。
建物の外装とは裏腹に明るく清潔な雰囲気の店内に入り、いつものメニューを注文する。
今日はABCの3パターンだ。迷ったが王道のAを選んだ。
「お待たせしました」
運ばれてきた味噌汁はなんの変哲もない、お椀に入ったただの味噌汁である。
茶色い液体に申し訳程度のワカメが漂う、業務用インスタントをお湯で溶いただけの味噌汁。原価は10円か20円であろう。
私は期待に胸を踊らせてそれをひとくち飲む。
「……すみません」
「はいっ」
「このお味噌汁、しょっぱくないですか?」
私が味噌汁を運んできたルナちゃんにそう言うと、彼女はにっこりと返答した。
「はいご主人様! 今、甘~くしますねっ!」
ルナちゃんはツインテールの髪の毛を揺らしてその可愛らしい顔を私だけに向け、美しく白い指先をハートの形にして胸の前に持ってきた。
「甘~くなぁれっ♡、萌ッえ萌ッえ♡ぎゅーん♡♡♡」
その両手で象ったハートを必殺技のビームのように味噌汁に、いや、味噌汁の向こう側にいる私に撃った。
「ぐはっ」
ビームに撃ち抜かれた私は口の中に蜂蜜をたっぷりと垂らされた様な気持ちになり、そのまま味噌汁を一気に飲む。
「甘い! 甘いよルナちゃん!! おかわりをBパターンで頼む!」
「ありがとうございます♡ オーダー"萌えお味噌汁・Bパターン"入りましたぁ」
ここはメイド喫茶【さんふらわぁ】。
ある時、味噌汁がしょっぱいと言ったお客に対して、メイドさんが機転を利かせて「甘くしますね」と対応したのが始まりで、このやり取り込みで一杯400円のメニューが売られるようになった。
他のフードメニューでも勿論ビームは撃ってもらえるが、おかわりできるほど複数は食べられないし単価も高い。
しかし味噌汁なら値段も量もお手軽だ。店側もインスタントにお湯を注ぐだけ、とこちらもお手軽だ。
まさにWin-Winなのである。




