表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して婚約破棄、国外追放されて平民謳歌中、かつての師を拾った  作者: 水瀬
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/57

24.訪問者

 牢獄生活を始めて一週間経った。

 今日も魔力を腕輪に注いだのを確認したらフランツ王子は去っていった。


「……はぁ」


 陛下はいつ帰ってくるのだろう。

 このままフランツ王子の好きにさせられるのも腹が立つ。

 なんとかできないものなのか。どうせならこの首輪を破壊してフランツ王子に一矢報いたい。

 だけどチャンスは一度きり。見極めないといけない。


「大丈夫か?」


 そう考えていると、看守が声をかけてきた。初めてだったから少し驚いた。


「……大丈夫よ」


 でもここで弱気になっているのは見せたくない。見せるのなら看守が離れている時だ。


「疲れてそうだな、ほら、これを食べろ」

 

 そう言って渡してきたのは柔らかいパンと水が載ったトレーだった。


「……まだ食事の時間じゃないけど?」


 時計があるため確認するとまだ時間がある。なのになぜだろう。


「顔色が悪い。倒れられたら困るからな。ほら、時間になったら次の食事も渡すから食べろ」

「……ありがとう」


 顔色が悪い、か。そんなに悪く見えるのか。

 確かに先日ブリジットを怒らせた罰とかで食事量を半分に減らされてたし、環境も悪いし疲労が溜まっている感覚はあるけど。


「……貴方、名前は? いつもの人と違うのね」


 看守の顔を見るといつもの看守と違った。初めて見た顔だ。


「俺はサム。いつもの奴は昨日から腹壊しててな。代わりが俺さ」

「そう……ありがとう、サム」


 そしてサムという看守は手を振って離れていった。

 渡されたトレーを持って机に置いて食べる。


「……ん?」


 水を飲もうとコップを持つと下に小さく折り曲げられた正方形の紙があった。


「これは……?」


 ゆっくりと紙を開いていくとそれは小さく書かれた手紙だった。


“──シルヴィア・エレイン嬢。貴女を助けに来ました”


 ドクン、と心臓が脈打った。

 私を助けに? 私がここで閉じ込められているのを知っているの? でも、誰が?

 手紙の続きを読んでいく。


“手短に伝えます。陛下はこのことを知らず、また現在帰国途中で数日かかります。そのため本日の夜中に貴女の救出を考えております。時刻は午前零時、待機してください。読み終えれば手紙はサムという看守に渡してください。私の忠実な仲間なのでご安心ください。では、よろしくお願いします”


 上質な紙にきれいな字で書かれた内容に急速に頭が動いて回転する。

 今日の夜中に救出とは、私の存在を認知していて救出準備を進めていたってこと?

 急な出来事で少し混乱するけど、救出されるのなら助かる。

 ただ……この首輪をどうするか。

 この首輪があればフランツ王子は遠距離からでも結界を張ることを命令することができる。


 誰が救出してくれるかわからないけど、この首輪も頼んでみよう。


「ところでこの人は……」


 サムという看守と知り合いで、彼と通じることができ、陛下のスケジュールを知っている人となると……。


「……陛下の、近しい人」


 何人か思い浮かぶ。その中に、この手紙の持ち主がいるかはわからないけど。


「……とりあえず、待とうか」


 下手にここで行動したら水の泡だ。大人しくして油断させとかないと。




 ***




 時計の針が小さな牢獄に響き渡る。

 誰かははっきりとしていないから緊張する。でもこれはチャンスだ。見逃したくない。

 月の光で時計を確認する。零時になる。

 そして零時に針が動いて間もなくギィッ、と牢獄に繋がる廊下のドアが小さく響いた。

 コツコツと僅かに複数の足音が響く。

 そしてその足音は、私の牢の前で立ち止まる。


「──起きていますでしょうか、エレイン嬢」


 小さく、囁くように話す声の持ち主はまだ少し声が高い少年の声で、あぁ、この人かと瞬時に理解した。

 ドアに振り向いて立ち上がると外側からガチャガチャッと音がする。

 そしてドアを握って開けてくれた。


「よかった、起きていてくれて」


 ほっとした声で小さく話すと、私は膝を曲げた。


「お久しぶりでございます──スレイン王子殿下。助けてくださり、ありがとうございます」


 そして私はスレイン王子にお礼を言う。


 スレイン・クリスタ第二王子殿下。フランツ王子の異母弟で第二王位継承者。

 まさかスレイン王子が助けにきてくれたとは……。

 スレイン王子の左右には護衛の騎士が二人いる。


「お久しぶりです、エレイン嬢。申し訳ございませんが、至急ここから出ましょう。義兄上の手の者がまたやって来るかもしれません」

「わかりました。ただ、これを……」


 首輪について話すと、スレイン王子は応じてくれる。


「サムから話を聞き事情はわかっています。避難先には奴隷解除をできる者を待機させてます。急ぎましょう」

「! はい!」


 そしてスレイン王子の後ろをついて早歩きで歩いてくれる。私が体力を落としていることに配慮してのことらしい。ありがたい。

 どうやら私の推測通り、半地下牢で階段を上がる必要があるらしい。


「スレイン殿下はどうして私がここにいると……?」


 早歩きしながらスレイン王子に尋ねてみる。

 スレイン王子は私の方を一瞥して話していく。


「腕輪を持っていますね? 本当は選定の儀で選ばれた令嬢に渡されるはずでした。それがなくなっていたのです。義兄上たちが、腕輪を盗んだのでしょう」

「はっ?」


 なんてことだ。あの王子、聖遺物まで盗んだの?


「今の結界師が体調を崩したのです。陛下から不在時でも体調を崩したら早めに代替わりするように言われていたんです。それで、一度聖遺物を保管していたのです。急なことでしたから、警備が万全だったとは言えなかったのでしょう。そして新しい結界師に渡そうとしたら腕輪はなくなっていたんです」

「そうだったんですか……」


 隙をみて腕輪を奪ったってことか……。王族のすることではないな。


「腕輪はなくなっている。なのに結界は展開されていておかしいと思い、原因を探しながら義兄上の周りを監視するように秘密裏に命じました。義兄上は王位に拘っていたので何かしたのかと考えたので」

「……それで、私を見つけたんですね」


 私がそう呟くとスレイン王子がこくりと頷く。


「エレイン嬢が囚われていて、結界師として結界を張っていることを知った時は驚きました。すぐに救出を考えましたが、どうやら奴隷として使役されているとわかったので解除できる者を手配するのに時間がかかり……申し訳ありません」

「いえ……! ありがとうございます、この首輪は私もどうしたらいいのか手を焼いていたので……」


 スレイン王子にそう告げる。実際、どうしたらいいか悩んでいた。

 魔力封じの手錠と違い、魔力を殆んど結界に使っているため、多く残っていなかったからスレイン王子の助けがあって本当によかった。

 まだ十五歳だけど、しっかりしていると思う。

 

「奴隷解除をしたあとは保護します。陛下が戻り次第、義兄上がした所業について話してほしいんです。証拠は既に持っていますが、エレイン嬢の話もあればより効果的ですから」

「勿論です」


 証拠も集めてたのか。まだ学生なのに限られた時間の中で調査していたんだ。

 スレイン王子は、王妃教育で王宮に通っている時、数回見て話したことがある。

 その時は大人しい子だという印象しか残らなかったけど、もしかして隠していたのかもしれない。

 母親と自分の身を守るために。


「…………」


 スレイン王子が国王になれば、きっとよくなる。

 助けてもらったからには恩を返さないと。


「──! サムっ!!」

「!」


 階段を上がり終え、廊下を歩いていたら外へと繋がるドアの前に人が倒れているのを見つける。あの人は……私に手紙を渡した人だ……!


「「殿下っ!」」


 護衛の騎士がスレイン王子を守るために前に出る。


「待て! サム!」

「っ……殿下……」

「サムっ! 無事か!?」


 スレイン王子が走って駆け寄る。騎士も追いかけて私も追う。

 サムという看守は肩を怪我をしていて、布切れで血を止めている。


「何があったんだ!」

「……っフランツ殿下派の看守たちがここに入ろうとしてきたんです。怪しい人影を見た、と……」

「……! 見張られていたのか……!」


 スレイン王子の発言にぞくりとする。

 もし私が力技で脱獄してもすぐに捕まってもっと酷い目に遭っていたかもしれないと考えると無意識に腕を擦ってしまう。


「どうにかここを封鎖しましたが……非常用の出口にも待機しているかもしれません」


 騎士に支えられながらドアから離れる。


「スレイン殿下、他に仲間はいないのですか?」


 スレイン王子に尋ねてみる。出入り口は二ヵ所。一つは平時に使うものでもう一つは非常用だ。

 他に仲間がいれば助けが来るかもしれない。


「あまり大人数で動くと気付かれる可能性があったので最小限の人数で来たんです。僕と騎士二人、そしてサムだけです」

「そんな……」


 するといきなり電流が流れるような苦痛が体全体に走った。


「痛っ……!」

「エレイン嬢!!」


 痛みに思わず倒れてしまう。

 電流のような苦痛は今もずっと流れている。


「まだそこにいたか、シルヴィア」

「……!」


 バァンと大きな音を立ててやって来たのは今私を苦しめている憎い人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ