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プロローグ

初の連載ものです。よろしくお願いします。


早速血が出てきます。

 喉が焼けるような痛みからカップが手から落ちて咄嗟に手を口許へ持っていく。

 だけどそれは間に合わず、ごほっと口から血が溢れてこぼれ出す。

 体を支えることができなくてソファーから倒れる。口の神経が動かない。

 息が苦しい。息を吸おうとしても上手に殆ど呼吸できない。

 即効性の猛毒は私の心臓を止めるのなんて容易いようだ。


「あ……」


 死んでしまうんだ、私。

 ぼぅっとした頭の中で自分の死を自覚した。

 ドクンドクン、と心臓が大きく脈打つのが不思議とはっきり感じる。

 死が近いと思うと今までの思い出が脳裏に流れてくる。

 楽しい思い出に嫌な思い出、どちらも順番に流れていく。これが多分、走馬灯というものなんだろう。


 死ぬのが怖い。死ぬのなんて想像もしていなかったから。

 死が無縁、とは言い過ぎでも遠い存在のように思っていたから。

 ひゅー、ひゅー、と荒い、異常な呼吸音がなって苦しい。

 もう本当に死ぬんだ、と思うと心残りがあった。

 それは師匠のことだった。


 私と師匠が会ったのは七歳の頃だった。

 師匠が大師匠様に引きずられる形で私たちは出会った。

 全てを黒く染めてしまいそうな漆黒の黒髪、珍しい青紫色の瞳の美しい青年。

 初めて出会った時には既に師匠は十代後半だったのに出会って九年、私はすくすくと成長しているのに師匠は全然姿が変わらなくて、私はうっとうしいくらい慕っていた。

 外を知らない私にとって、師匠のお話は全て新鮮で楽しくて師匠に何度もせがんだこともあった。

 母様を亡くして唯一、本来の私を見せることができる人で、大好きだった。

 だからもう会えない、そう思うと悲しくて悲しくて。


 何も毒を入れるのも今じゃなくても、って思うけど相手にとっては今が一番いいタイミングだろうなぁとも感じる。

 でも、一言もお別れの挨拶を告げずに死んでしまったら師匠はどう思うだろう。


 大丈夫かな、私がいなくなってご飯はちゃんと食べるかな。自分の体をあまり気にしない人だから少し心配。

 大丈夫かな、私がいなくなって朝ちゃんと起きられるかな。師匠ったら朝が弱いから私がいつも起こしていたけど、これからは他の人がするのだろうか。


「……ごめ……なさ……ししょう……」


 どうにか、なんとか紡ぎ出せた声で師匠に謝る。

 ここに師匠がいたらさっさと治癒魔法を使えと怒鳴られそうだけど、口はこの通り殆ど動かないし、もう私には詠唱して魔力を使う気力もなくて。

 視界が、思考が霞む。──あぁ、そろそろ限界のようだ。

 

 私に魔法を、親愛を、喜びを、楽しさを、幸せを教えてくれた師匠。


 でも、そんな人を置いて死んじゃう。

 これからもなんだかんだずっと繋がり続けると思っていたのに。師匠が遠くに行っている間に勝手に死んでしまうなんて。不出来な弟子でごめんなさい。


 ごめんなさい、ごめんなさい、師匠──。


 そうして、私、レラの生涯は十六年で幕を閉じた。

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