観察対照
「見てて飽きないもん。ころころと変わって面白いじゃん」
子供の頃、公園でずっと空を見ているアイツに『なんでずっと空を見ているの?』と聞いた時の反応がそれだった。
俺は、そうなのか、と思ってしばらく一緒に空を見ていたけど、やっぱりボール遊びの方が面白くてアイツをやや強引に引っ張っていった。
アイツも特に嫌がりもせずに遊んでいたと思う。
あれから数年。
俺とアイツの関係が幼馴染から恋人に代わっても、あの時のずっと空を眺めていた眼は変わらない。
「……どうしたの?」
「いや、何十分も見られてりゃ何か言うだろ」
部屋で課題をやっている俺を飽きもせず見つめていた彼女は、俺の言葉に嬉しそうに表情を緩める。
……昔からよくわからないところで喜んだり、笑ったりするんだよな。
「昔から君はそうだよね」
「は?」
「最初に話しかけてくれた時、一緒に空を見てくれた」
「途中で飽きたけどな」
「だから好きなの。興味ないのにそこまで付き合ってくれたから。最初から拒否するでもなく、興味があるわけでもなく、途中までは付き合うなんてことをしてくれたのは君が初めてだったから」
心底嬉しそうにそう話す彼女を魅力的だな、と思ってしまうあたり、俺も大概かもしれない。
ストレートな『好き』の言葉に中てられた、という面もある。
「その割には最近は見てないじゃん、空。喫茶店とかでその辺の人を見て悪の幹部みたいに笑ってた時もあったけど、それもやめたし」
「さすがにそれは不気味すぎるからね。それにもっと面白いことがあるって気づいたんだ」
へえ、なにが?
と聞こうとした俺の唇は、その相手である彼女のそれでふさがれた。
一瞬の、しかし俺を黙らせるには十分な時間の口づけを一方的にしてきた彼女は、やっぱり嬉しそうに口を開いた。
「やっぱり、見てて飽きない。ころころと変わって飽きないもの、君の表情は」
最初と最後の言葉か同じで終わるというのをやってみたかった。
なお、できたとは言っていない。