秋葉原ヲタク白書49 神田佐久間河岸の謎
主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。
相棒はメイドカフェの美しきメイド長。
この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナの為のラノベ第49話です。
今回は、郷土資料館の古文書が解読され神田佐久間河岸近くの橋に"徳川埋蔵金"との噂が流れます。
怪しげなトレジャーハンターが出没する中、外堀通りが通る和泉橋に調査に乗り出したコンビは、その地下に…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 火事と喧嘩はアキバの華
天和の大火を知ってるか?
江戸は、世界に類例を見ない"火災都市"で大火と呼ばれるモノだけでも49回あったと逝われてるが、その中では初期の頃の大火だ。
有名な八百屋お七に因み"お七火事"とも呼ばれるが彼女はこの大火では被災者らしい。
大火の度に、繰り返し広大な市街地が焼き払われるのだが、彼女は焼き出された1人だ。
で、避難先で恋仲になった寺小姓に会いたくて自宅に放火し、鈴ヶ森で火炙りにされる。
井原西鶴"好色五人女"など歌舞伎、文楽など多様な芸能に取り上げられる恋愛悲話だ。
諸作では、文字通り八百屋の娘との設定が多いようだがソレすら定かではないらしい。
しかし、アキバには神田から移転して来た青果市場とかあったせいか何か縁も感じる。
あ、お七の八百屋は本郷だったらしいけどね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「テリィさん!いょいょ運命に導かれし勇士たる我等トレジャーハンターの手で徳川埋蔵金の秘密のベールを剥ぐ時が参りました!立てょ選ばれしトレジャーハンターょ!」
「ミユリ姉様!お宝発見は絶対確実なのです!どうぞ、ハンタを男にしてやってください!お願いします!」
「そうは逝われても…トレジたん、未だ懲りずにハンタさんと付き合ってるのね?ってか結婚しちゃったのw今度こそ逮捕されちゃうわょ?」
ココは、僕の推し(てるメイド)ミユリさんがメイド長を務めるアキバの老舗御屋敷だ。
ダイアモンドの雨が降る大気を持つとされる惑星に準えて"土星バー"とも呼ばれる。
今宵は自称"トレジャーハンター"のトレジとハンタの新婚コンビが押し掛けて来てる。
トレジは区立郷土資料館の学芸員だが、展示物をチョロまかしてはネットで売っている。
この前は"永遠の命"を絶つ聖槍を売り出したら"未来ナチス"がタイムマシンで強奪に来て町中華が全焼と逝う騒ぎを起こしてるw
その後、新郎ハンタと出逢って結婚、未だ資料館はクビにならズに済んでいるようだ。
夫が見つけたマガイモノを妻が売り捌く夫唱婦随カップルw余り近寄りたくはないな笑
「今度こそモノホンですっ!今回、トレジが郷土資料館の倉庫の奥で見つけた古文書に、明確な記載があるのです。時の幕府勘定奉行 小栗旬順が"天和の大火"からの江戸復興を憂慮した大老 井伊加減の命を受けて"橋の袂の護岸石垣七列目にお宝を埋め候"と記されている。で、コレは昨夜俺が徹夜で判読したばかりで、取るものもとりあえず、コチラにお邪魔しましたっ!従って、このコトを知ってるのは俺と妻のトレジ、そして今、この御屋敷におられるみなさんだけです。くれぐれも口外厳禁で願います」
「何で取るものもとりあえずバーに来るんだょ?ソレにまたソンなコト逝って、実は今頃、既にソコの"愛妻トレジ"がネットオークションとかに出品してンじゃないの?あ、コラ!何処へ逝くんだ?トレジ!」
「あ、ホントに出てる!コレかしら?"江戸時代のお宝古文書【公式】"?こーゆーのにも【公式】ってあるの?【非公式】は…マガイモノってコト?意外にわかりやすいわ」
既にトレジは影も形もないw
カウンターでPCを開きオークションサイトを確認してるのは女サイバー屋のスピア。
冬でもジャージ姿で、恐らくその下は白のスク水なんだけども、寒くないのだろうか?
とにかく!
どうやら、よくある胡散臭い話で聞き流しておけば良さそうに思えたが…
ココでスキンヘッドの男が、常連を掻き分けカウンターに来て語り出す。
しかし、見事なスキンヘッドw
よく手入れ?されている頭だ。
「僕は、神田川対岸にある嫌森神社の副住職テラィと申します。仕事柄スキンヘッドですがコレでも一応セクシーボーイズ(地元のストリートギャング)のメンバーでして…」
「あら、テラィ。久しぶりじゃナイ?タマには集会に顔出しなさい」
「あ、ハイ。御無沙汰してます、クイーン。で、実は先日、神社の過去帳を調べてたら気になる記述があって…メモしておいたンですが…あ、コレコレ"神田川を遡って来た船から誰かが何かを佐久間河岸に運び込むのが見えた"ってあります。記載は西暦に直すと…多分1683年です」
解説しよう。
テラィの話に途中で割り込んだのは常連のジュリでセクボのヘッドの妹だ。
そして1683年は"天和の大火"があった年で延焼2日に及び死者3500人。
ソレから、材木商の名に因む佐久間河岸は、江戸時代から続く神田川沿いに広がる河岸。
あ、河岸は船着場と荷揚げ場のセットで河岸問屋が船の荷揚げや荷積み、荷物の保管などを行うトコロの、今で逝う物流拠点のコト。
「ええっ?!ってコトは、江戸時代の大火事の復興資金が、今も佐久間河岸の橋の袂に埋まってるってコトがあっさりわかったワケ?"令和 無責任男"の僕が逝うのもナンだが、少し簡単過ぎナイか?もっと、その、何と逝うか、派手なカーチェイスとか、美人の考古学博士との一夜とか、少なくとも何人か死んで、ようやくワカるモンじゃないの?だって…未だ第1章だぜ?」←
「だ・か・ら!アキバで1番大事な人の下へ取るものもとりあえず馳せ参じたンじゃナイですか!まぁ確かに妻は何処かへ逝っちゃいましたが」
「で、私達に何か御用なの?」
カウンターの中のミユリさんが優しく問いかける。
すると、ハンタは心のガードを下げ、頭も下げる。
「お願いです!俺と一緒に佐久間河岸に逝ってください!」
「ええっ?別に構わないけど、そんなの1人で逝けば良いじゃん?お宝も独り占め出来るぜ」
「ソ、ソレが…ローカルがキツくて」
「ローカルがキツい?ソレ、サーファー用語ょね?アナタ、波乗りとかやるの?」
「トンでもありません、クイーン。ただ、クイーンも御存知だと思いますが、アソコら辺って"溜まり場"になってるじゃナイですか?その、あの、何と逝うか"族"の」
ローカル云々は、都会から来る週末サーファーが地元サーファーに意地悪されるコトだ。
神田川でサーフィンはナイから、恐らくタムロしてる暴走族が怖いって意味なのだろう。
となると、ココは界隈を仕切るストリートギャングのクイーンの出番だ。
頼むょジュリ。お前にはホントたくさんの貸しがあり過ぎて困るホドだ。
「あぁ"何ちゃらセブン"の連中ね?そんなのお安い御用ょ任せて頂戴。でも、その前にそもそも"セブン"から何か悪さされたの?大人しい連中ょ?まぁ確かに騒々しいのはタマにキズだけど」
「あ、クイーン。でも、あの公園って、確かセクボ的に治外法権ってコトになってますょね?」
「あのね。セクボはね、国連みたいな緩やかな連合体なの。帝国主義の侵略国家じゃナイのょ。主権を奪って属国化するのは最後の手段」
おぉトルメキアのクシャナ王妃の既視感…
「何か面倒臭い。じゃあ生姜焼き定食…じゃなかったショウガナイわ。特別に私が一緒について逝ってあげる。だから…テリィたんも来て」
ええっ?僕も?暴走族の溜まり場に?!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
確かに暴走族は暴走族だが…
スケボーの暴走族のようだw
"佐久間親水テラス"は、昭和通りから神田川の川面へと、すり鉢状に下る河川公園で、すり鉢の底から川へ浮き桟橋が突き出てる。
洪水の時には全てが水没する作りになってるそうだが、すり鉢は底を見下ろすコロシアム状にベンチが整備され寛いでる人々の間を…
スゴいスピードでスケボーが疾駆してるw
すり鉢には車椅子用か2箇所スロープがありソコがスケボーの滑走台と化している。
猛スピードで底に突進して、その勢いで反対側のスロープを発射台にして宙を舞う。
さらに、どうやってるのか底から上がって来る奴や手すりの上を滑り下りる者もいる。
まさにスケボー技の博覧会だが、公園に憩う老人や子供とは全ての意味で接触がナイ。
その代わり、ゴォゴォガラガラと凄まじい騒音で話も出来ないが文句を逝う者も皆無。
川辺の公園ではスケーターと地域の人々が完全に共生している…なワケはナイでしょ笑
やはり、傍若無人な若者の溜まり場的雰囲気は否めず、コレではお宝を前に声掛けを躊躇うハンタの気持ちも分カラナイでもナイが…
僕達の先頭を行くジュリは、全く頓着するコトなく、ヒョロ長い男目掛けズンズン進む。
すると、谷底へ滑りかけたヒョロ長男が(殺気を感じ?)ジュリの方を向きニヤリと笑う。
「ジュリ。久しぶりだな。お前の唇を初めて奪った俺に何か用か?」
「ミサル。幼稚園のお遊戯会でのコト、いつまで自慢してンじゃナイわょ、バーカ。そーゆーアンタは、アタシの5才のお誕生会にオムツで来た唯一の男だったわね?そのオムツが取れたのは確か年長組の…」
「わ、わ、わかった!その先、逝うな!な、な、何の用だ?今日は。ま、まさか、リリス先生に何かあったのかっ?!」
リリス先生は"裏アキバ"と呼ばれるパーツ通り裏にある聖アンモナイト幼稚園の教諭。
このリリス先生、実は曲者で、僕達は結構エラい目に遭わされてる。因みに彼女は百合。
どうやら、このミサルとか逝うヒョロ長男とジュリは幼稚園が同じだったようだ。
さらに、ミサルは未だ若かった?リリス先生に淡い恋心を抱きつつジュリとキス…
ま、どーでもいいや笑
ジュリがミサルと話し込むのを見て、スケーター達は僕達を無視するコトにしたようだ。
そこで、早速"古文書"に従い"橋の袂の七列目の石垣護岸"に眠るお宝探しに掛かる。
昭和通りは、江戸時代から神田川を"和泉橋"で渡るが、鉄骨化された同橋は今でも"佐久間親水テラス"の直ぐ横に架かっている。
僕とハンタは、内心胸をトキめかせながら、早速"和泉橋"の袂から石垣護岸七列分を歩いて周囲を見回すと…うーん。問題発生だ。
なぜなら、ソコは公衆便所の中だったから。
しかも、悪いコトは重なるモノで女子用だw
お宝は…女便所の地下なのか?
第2章 女子トイレ地下の秘密
佐久間河岸の児童公園"佐久間親水テラス"に巣食うスケボー暴走族"ベジタブラ7。
公園の公衆便所は、彼等の要塞と化しているが、その女子用地下に徳川埋蔵金が眠る。
現地踏査中の僕達は"大(小?)"から出て来たオバちゃんに悲鳴を上げられ止む無く緊急離脱、その夜の御屋敷で厳しく追及される。
「あぁ情けナイ!宝を目の前にしてオバちゃんの悲鳴で追っ払われるなんて!アキバのヲタクも地に落ちたモンだ!」
「そんなコト逝われても万世警察に通報スルとかスゲェ剣幕で…」
「何逝ってンだ!コレが映画なら、今頃お前とオバちゃんは恋に落ち、古の秘密結社の追跡から命カラガラ逃げてるシーンだぞっ!」
「公衆便所の"大"から出て来たオバちゃんだゼ?無理アルだろっ!」
コレにジュリが加わる。
「だから、私がミサルと話つけてる最中にコソコソ女便所にシケ込むからこーなンのょ。ちょっち待ってれば、私が調べに入ったのに」
「だって"大"から出て来ていきなりステーキ、じゃなかった、いきなりキャーだぜ?ありゃナイょな」
「あのね。女子用は"大"も"小"もナイの。全部個室なのょ。バーカ」
「知らないょソンなコト。初めて入ったンだからw」
救いを求めカウンターのミユリさんを見ると…
「テリィ様、先に申し上げておきますが、私と(ヘルプの)つぼみんが、その公園の女子トイレの床を掘り起こすようなコトは、絶対にあり得ませんから」
ほとんど、鼻と鼻がぶつかる距離まで顔を近づけてキッパリと逝われる。
せっかくだからキスしようとしたら、彼女は唇に人差し指を立て拒否るw
流石だょミユリさん。
何でもお見通しだね。
しかし、御主人様のピンチに背中を蹴って谷底に落とすメイドってどーなのw
ところが、アキバの古い諺に"捨てるメイドあれば拾うメイドあり"とある←
その囁きは、狭い御屋敷の中を、まるで重力波のように広がり、時空を伝播する…
「エリスだ…エリスが来たぞ…」
「エリスが?テリィさんに逢いにか?」
「おおっ!エリスだっ!テリィさんの元カノが今カノの御屋敷に殴り込みかょ!」
オールホワイトのメイド服でエリスが…って描写を始める前にハッキリと逝っておくが、エリスは断じて"元カノ"ではありませぬ←
ミユリさんと出逢う前のコトだけど、まぁ、その、何と逝うか推してた時期があって…
もちろん、御主人様とメイドの関係だから正確には"元推し"で直前は"前推し"か…
早速"今推し"ミユリさんと火花が散ってるw
"今推し"って何かスキヤキの老舗みたいだ←
「おかえりなさいませ、エリスお嬢様。ワンオーダーお願いします」
「ごきげんよう、ラッツ。まだミユリさんとツルんでるの?何か奢って下さる?」
「下さらナイ。何しに来たンだょ、エリス」
ラッツは、僕がテリィを名乗る前のネームだ。
エリスはカクテルを注文、早々に切札を切る。
「女子トイレに忍び込んだんだって?私、もうビックリしてしまって。ラッツ、何を考えてるの?」
「…ソ、ソ、ソレには深いワケが、って良く知ってるな。その、あの、心のバランスが崩れ気味な割には」
「私のコト、気が狂ってると思ってるのね?」
そう応える彼女の瞳には狂気が宿ってる。
話すと長いが、一言で逝うとエリスは人生を賭けたトランプに負け血の繋がらないパパに囲われるコトになり正気を…一言じゃ無理w
「そのコトで、パパが呼んでる。ラッツに話があるそうょ」
「あ、間に合ってマス。no thank you。どうせ次にトイレに逝く時は男子用に入れってお説教だろ?」
「ラッツが来ないと、ココで私は舌を噛むの」
そして、エリスは美しい顔に微笑を浮かべながらベロリンと舌を出す。
僕は背筋がゾッとして絶句するが、傍らからミユリさんが静かに逝う。
「私の御主人様を、前のネームで呼ぶメイドにお預けするコトは出来ないわ。私も御一緒します。御屋敷をお願いね、つぼみん」
「かしこまりました。メイド長」
「結構。では、私の御屋敷で」
来た時と同様、まるで幽霊みたいにエリスは音を立てず滑るように御屋敷からお出かけ。
「何なの、アレ?」
「あぁ。何であんな厄介なメイドを推しちゃったんだろ?昔の僕は」
「全くです」←
思い切りブー垂れるミユリさんを、後退りしながら常連が遠巻きにする。
そして、少し遅れ、息を殺し、常連の遠巻きの輪に恐る恐る僕も加わるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エリスの御屋敷"ノーシグナル"は、僕の苦手な地下の箱だ。
渋谷で遊んでた頃、オヤジ狩りに遭って以来、地下は大嫌いw
ソレを知ってか知らズか、ミユリさんは先頭を切りトントンと地下へ降りて逝く。
意趣返しのつもりか勝負メイド服の黒のミニで街中の視線を集めながらの御帰宅。
そして…知らない内に僕の後ろに虎吉さんw
虎吉さんは、夜のアキバを仕切る若頭だけど副会長の孫娘のつぼみんに頭が上がらない。
あ、つぼみんは御屋敷のヘルプなんだけど、彼女なりに気を遣い彼を呼び出したようだ。
案の定…
「と、虎の旦那。何でコチラに?」
「いや、ちょっと近くに用事がありヤして。ところで、ウチのお嬢の御友達に何か御用がアルとか伺いヤしたが」
「いや何、聞いた話で和泉橋の女子トイレで災難に遭われたとか伺ったモノで。コレは、是非お見舞いをしなくてはと」
おぃおぃ!余計なお世話だょーw
ソレにお見舞いなら呼び出すな←
エリスの血の繋がらないパパ、通称"低い城の男"は、戦後のアキバを知る黒幕的な存在で当然虎吉さんとも繋がっているのだろう。
何と2人の間でポンポンと話が弾むw
つぼみん、ありがと!ナイス采配←
「何でも、御友達は女子トイレの地下に御執心の余り、御婦人に追いかけられたとか。いやぁ若いとは羨ましいモノですなぁ。ところで、ホラ、虎の旦那も御存知でしょ。旧海軍さんのモグリ酒場ですケド。確か、あの辺りでしたかな」
「え?旧海軍の?あ!思い出しヤした!戦時中の"海軍バー"の話でヤスな。あぁそぉそぉ。あの辺りでヤした。あのバーだけは、戦中でもJAZZが聞けたとか。しかし、よく御記憶でヤスな」
「いや、何、この歳になると他に覚えるモノがナイもので。わっはっは」
裏社会版お達者倶楽部の茶飲み話だw
しかし、トンでもない情報だょ!件のトイレの地下に酒場があるらしい。
恐らく、封鎖され埋め殺しにされてるのだろうが、今でも入れるのでは。
中は贅沢なつくりの倶楽部で生バンドが入り夜通し賑やかだったらしい。
もし、その気があるのなら近くのマンホールでも開けてみたら如何かな?
ハイ!わかりました、早速!
エリスとメイド服オシャレ合戦中のミユリさんを引き剥がして、夜のアキバへ飛び出す!
お達者倶楽部の御両名は、御屋敷のメイドに紅茶を淹れさせて昔話に更に花を咲かせる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
途中で"もしも"に備えてハンタを呼び出し和泉橋の袂で待ち合わせる。
探し出すとマンホールってヤタラとあるんだけど案外アッサリ見つかる。
「あった!」
密かに、自分で見つけたいと思ってた僕は、ハンタの能天気な声に少しガッカリする。
彼がペンライトで照らし出したマンホールの蓋に"ぐん用"とあってマスマス怪しい。
"ぐん用"の上には、丸で囲われた"海"の字がありコレで決定的カモ。
ハンタが背負ってたデイパックから金具を出しマンホールの穴にハメる。
「コレ、マンホールの開閉専用の金具なんです。都会派トレジャーハンター七つ道具の一つナンです…よいしょ!」
うーん。やっぱり彼を呼び出した僕には先見の明があったょな←
僕達だけだとこうは逝かナイ。ミユリさんなんかメイド服だし…
と、思ってたら、そのミユリさんがマンホールが開くや真っ先に地下へ飛び込んで逝く。
勇敢なのか単にパンツを見られたくないだけなのかよくワカラナイが僕達も慌てて続く。
「コ、コレは…」
「もはや"酒場"ではありませんね」
「壁に歴史を語らせたいな」
闇に沈む大箱だ。
ハンタのペンライトを振り回すだけでも、ちょっとした講堂並みの広さがあるとワカル。
ステージから伸びる花道の両側にゆったりしたボックス席が並び、花道の先にはポール。
振り向くと上手サイドにバンドスタンドがあり目を凝らすとホタテ貝のオブジェw
ビーナス誕生かょwうーんバンドスタンドじゃなくストリップの舞台ですね多分←
戦時中こんな巨大施設で夜な夜な何を?と思う一方でコレだけの施設をつくれば地下は完全に掘り返されたろうと容易に想像がつく。
「うーん"お宝"は持ち去られた後ですね、恐らく」
「そして、空襲で焼け野原になった東京の復興資金に消えたのかな。ソレなら、まぁ、所期の目的は達したのカモしれない。時代を超えて」
「今回も楽しい夢が見られました。ありがとうって逝いたい気分です」
口々に慰め合う僕達だが、その時!
「やっぱりジュリのトコロのお前達か。絶対に何かを探してるンだろうと思ってズッとココを張ってたんだ。しかし、いつもスケボーしてた公園の地下に、こんな大箱がアルなんて、今まで全然気づかなかったぜ。なぁ、みんな?」
スケボー暴走族"セブン"リーダーのミサルの登場だ。
闇に目を凝らすと、僕達はどうやら囲まれてるらしい。
「お前のトコのメイドがハデハデで、身を隠すのが楽しかった…じゃなかった、楽だったぜ。あのメイドカフェでお前らが何を話してたのか知らんが"お宝"がココにアルんだな?」
「だから"お宝"がナイと逝う話をしてたンじゃナイか。あのなー。人の話、よく立ち聞きしろょ」
「何を!ストリートスケーターを負け犬だと思ってバカにすんな!俺達だってヤル時はヤルんだ!」
うーん。
こーゆー奴等の常套句だが、そーゆー奴等がヤル時にヤルのを見たコトがナイ。
"ヤル時はヤル"と逝い続けて何もヤラない内に人生が終わってしまう連中だ。
…なんて思ってたら、マタマタその時!
「またテリィたんなの?どーして貴方は、いつもトラブルのド真ん中にいるの?」
今度は国益優先の特殊部隊の隊員サリィさんの登場だ。
闇に目を凝らすと"セブン"を次々と武装解除してるw
僕達を"セブン"が囲み、さらにソレを暗視ゴーグルに自動小銃の男女が取り囲んでるw
「サリィさん?サリィさんこそ、何故ココに?やっぱり僕達をモニターしてたの?」
「シッ!静かに!大事なトコロだから」
「え?何?」
耳をすますと、壁の向こうから声がする。
「スクリューが曲がっていたぞ」
「道理で妙な音がしたワケだ」
「新しいのと取り替えたからな」
「至急!全員整列!」
「全員乗艦しました。準備完了」
「諸君、出航だ。配置につけ」
「はい!艦長」
最後は数10名による唱和だ。
因みに、全編ドイツ語だょ←
さらに耳をすますと、慌ただしく誰かが何かに乗り組む音がして、続いて水をかき混ぜながら派手に水を切って何かが進む音がする。
壁の向こうで出航する船があったのか?
「さぁ、ミユリ&テリィのコンビに"セブン"のボーヤ達、その他モロモロのみなさん、もう終わったからいいわょ」
「え?何が終わったの?何がもういいの?」
「ソレはね…」
サリィさんは、僕にウインクする。
「話し出すと長いし、話す以上はキチンと話したいから、コッチの話は次回にするわ。だって、次回はキリが良い"第50話"ナンでしょ?乞う御期待ってコトにして、みなさんのお話だけで次章に進んで頂戴」←
第3章 "ヤル時はヤル"の顛末
…と逝うワケで次の章だw
舞台は翌日深夜のアキバ。
みんな!秋葉原公園は知ってるょね!
JR秋葉原駅の今度は昭和通り口なんだけど、改札を出て直ぐ右に曲がると駅前広場。
その駅前広場は実は千代田区立の秋葉原公園なんだが、囲いもなければ遊具もナイ。
だから、行き交う人が公園と知らずに入っては出て逝く雑踏公園だ。
アキバの正面玄関が電気街口だとすれば、まぁ、裏庭みたいな存在。
そして、深夜3時。
市場があった頃から夜の早いアキバで、この時間ともなれば人っ子一人いない。
まるで、核戦争後の夜のような静寂と闇に支配され街並みも深い眠りに…やゃ?
あれ?今宵は道路工事か?
人通りの絶えた秋葉原公園の一角で真っ赤なポールを四隅に立て働くおじさん達がいる。
最近の工事はナイター並みの夜間照明に照らされて最新式重機が低く唸るイメージだが…
しかし、この現場は、ナイター照明も重機もなく、耳をすますと、どうやらシャベル&ツルハシの人力で路面を掘り返してるようだw
「リーダー、ホントにココっスか?」
「え?ココス?ガストならアッチにあったぞ。ソレに俺のコトは親方と呼べ!何度逝ったらワカルんだ!みんな、俺達は建設作業員だぞ!」
「"監督"とかの方が気分じゃね?」
おぉ!この連中は…
まるで、中央通りの"ノンキ・ホーテ"のコスプレ売場から抜け出たような作業着姿。
お約束の黄色いヘルメットに描かれた社名は"冗談建設"で茶色の長髪がハミ出てる。
「リーダ…じゃなかった、親分!まだ掘るンですか?コチトラ、スケボーより重たいモノを持ったコトがナイんスけど」
「泣き言並べてねぇで掘れ!そんなんだからスケーターは負け犬だとか一般人に笑われちまうンだ。俺達だってヤル時はヤルってトコ、見せてやれ!」
「誰に?」←
コイツらスケボー暴走族の"セブン"だw
リーダー格の親方(自称)気取りはミサル!
コイツら、そんな安いコスプレしてまで深夜の区立公園でいったい何をやってルンだ?
コレは僕とミユリさんには、法と秩序の名において断固乱入して問い質す義務がある!
あ、物陰に潜む僕とミユリさんも負けずと電力会社のコスプレで頭にはヘルメット。
実はスチームパンク用なんだけどフルフェイスのマスクを装着し、顔は隠してGO!
「あ、君達!僕達は第3新東京電力の地中線工事監理の者だ。この工事は、ちゃんと許可を取ってるのか?ココには、原子力発電所と直結する50万ボルトの超高圧ケーブルが埋設されている。迂闊にツルハシなんか振り回すとケーブルを傷つけ、セカンドインパクトが起きて人類は滅亡する」
「ええっ!全く知りませんでしたっ!ごめんなさいっ!あ、お袋に早く逃げるよう、電話してきてもいいスか?」
「モチロンだ。早く電話してお母さんを安心させてあげなさい。コレからは親孝行スルんだぞ」
さぁ電波バリ4はコッチょ!と手招きするミユリさんに誘われ"セブン"の連中は、ミサルを先頭に一団となって一目散に走り去る。
突如、深夜の秋葉原公園に一人となった僕は、彼等が掘り返した後の穴に入る。
舗装を割って掘り進んだ穴は僕の胸くらいまであり僕は屈んで穴の中を検分する。
植物の根っことか色んなモノが埋まってルンだけど脛辺りの石の下から何かが覗いてる。
僕は足元に屈み込んで、工事用ヘルメットに装備されているLEDライトを点灯してみる。
菊の御紋がついたA4サイズの布製の袋だ。
僕は ポケットに丸めて仕舞って穴を出る。
第4章 遠くの一般人より近くのヲタク
さて、今回も色々とピースが集まったので、みんなで御屋敷に集まって絵を描いてみる。
先ず"セブン"だけど、ミサルが意外と狡猾で抜け目がない奴であるコトが判明。
と逝うのも、僕達が"お宝探し"をしてると知るやハンタを脅し情報を聞き出す。
さらに、元々アキバ育ちのミサルは、子供の頃に爺さんから聞いた話を思い出す。
「昔、秋葉原公園は、神田川と秋葉原貨物駅の船溜まりを結ぶ掘り割り運河だった。その後、運河は埋め立てられて公園になったが、公園の東側と西側に、それぞれ1列ずつ当時の護岸の石垣が残っている。また、公園の南側には、掘り割り運河に架かっていた佐久間橋があったが、今では8車線道路として整備され、その名残となる親柱が残置されている」
僕達は"徳川埋蔵金"が袂に眠る橋は、ハナから和泉橋だ、と決めてかかってたが、もしかしたら、今はない佐久間橋だったのでは?
そう考えたミサルが秋葉原公園にスケボーを飛ばすと、確かに護岸跡の列石の先に、まるで墓石のような佐久間橋の親柱が残ってるw
小躍りして喜んだミサルは、その足(そのスケボー?)で中央通りへコスプレを買いに逝く。
さらに、深夜にチームを集め"お宝"の話はせズに列石の南から7番目辺りを掘り始める。
すると、闇の中から突然現れた電力会社の人から「危ないょ」と注意されて…(以下省略)。
ところで、ミサルは"お宝"発見後はチームを生埋めにするつもりだったんじゃないかなw
エジプトのファラオのお宝みたいにさ。
何しろ、あの"徳川埋蔵金"だからね。
あ、ソレから秋葉原公園の辺りって電波状況は極めて良好だ。
だから、いつ逝っても"ポケGO"ゲーマーで賑わってるょ。
だから、怪しいスチームパンクのお姉さんに「もっと良い電波の場所があるわ」と誘われても、良い子はついて逝ってはイケません。
念のため笑。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ねぇねぇ。ホントにあのスチームパンクのゴーグルマスクで踏み込んだの?ズルーイ。私も逝きたかったなー」
「アレは、ドイツ月面派遣艦隊の航宙空母船パイロットのマスクなんだ。先の"スチームバーデン(スチームパンクのパーティ)"でも大ウケした僕の自信作なんだ!」
「"セブン"の人達に面が割れてるから仕方なく装着したけど、メイクは崩れる、バンドの跡が残る、息苦しくなる、のトリレンマなの。今年度最強の乙女の敵に認定です!」
アラサー&セーラー服のジュリ、僕、ミユリさんの順でそれぞれ正直な感想を述べる。
御屋敷の常連も今回の"徳川埋蔵金騒ぎ"には関心が高くて、いくつかの質問が出る。
「で、テリィたんの拾った布袋入りの"徳川埋蔵金"って何だったの?まさか中から金箔ザワザワで、実は大金持ちになってますナウとか?」
「残念ながら、ハズれ。そもそも古地図を見る限り、江戸時代には神田川からの掘り割り運河って未だナイし、もちろん佐久間橋もナイ。だから、仮にソコから埋蔵金が出てもソレは明治以降のモノだから"徳川埋蔵金"ではナイょね。でも、まぁ、ソレでも、何か"お宝"が出たって逝うなら救いがアルけど…」
「ええっ?結局何だったの?」
牛飯のレシピだw
「布袋の中は、恐らく明治新政府の公文書で数枚の油紙だったんだけど"牛鍋ぶっかけ飯"のレシピがビッシリ記されてたw実は、牛丼は東京発の食べ物で、当時は河岸の人達に親しまれたようだ。京阪に同類の食べ物はなく、新政府としては、誰かに独占的に全国展開させるコトにより、文明開化を一気に推し進める腹だったようだ。この油紙は、そうした一切合切を練り上げた作戦ペーパーだ」
「おおっ…では結局"埋蔵金"では無かったワケ?何かガッカリだな」
「ペーパー自体は金塊ではナイが、この作戦ペーパーどおりに起業した者には、恐らく巨額の富が転がり込んだと思われる。公文書に記された其の者の頭文字は"松田栄吉だ。明治の政商秘話であり我が国の牛丼史を語る上での歴史的遺産だ。しかも、おい!みんな!レシピ中では、ネギはザクザク切るコトから"ザク"と呼称されているぞっ!」
途端にガンダムヲタクの多い常連達が歓声を上げて"やっぱりな"と肩を叩き合う。
何が"やっぱり"なのか、サッパリ思い当たるフシがナイが、ハイ、お次の質問は?
「うーん。金貨じゃナイとなると、もーどーでも良いと逝うか、逆にどーなるのか興味は津々ナンだけど、掘り出した"お宝"は、結局、誰のモノ?テリィたんの独り占め?書類だけど」
「うんにゃ。独り占めドコロか、掘り出した瞬間、本来なら僕は文化庁長官に届出して現場を保管する義務を負う。で、長官が調査するか決め、調査となれば、実際に掘る仕事は区の教育委員会辺りに下りてくる」
「おおっ!ソコで同じ区の学芸員たるトレジ辺りがコッソリお宝ゲットしてネットで売り捌くワケだな」
ホント世の中不公平だw
しかし、役人が絡むと、何でもカンでも万事がこうなってしまう。
役人って、何かと言うとフレアイたがるんだけど、ソレはポーズ。
ソレが証拠に、コッチが逃げれば追っかけて来るが、逆に求めると一目散に逃げ回る。
フレアイって何なんだょ?橋や施設の名前?全員忙しがるだけで何一つ前に進まねぇw
閑話休題。
ところで"セブン"リーダーのミサルだが、幼稚園のリリス先生が百合に目覚めた経緯を話すコトが僕的には宿題として残ってイル。
全く気は進まないが僕達の溜まり場であるマチガイダ・サンドウィッチズで世界一ウマいチリドッグを奢り言葉を選んで話したが…
その瞬間、ミサルは9回裏に満塁ホームランを打たれたピッチャーみたいに床に崩れ落ち「1人に…してくれ」とウメくように逝う。
リクエストには応える主義なので、床にワンワンスタイルでいる彼を残しその場を去る。
後でYUI店長に聞くと常連に邪魔だと蹴られチリドッグをもう1本食べて帰ったそうだ。
あ、ソレからモチロン真っ赤なウソだw
埋蔵文書がレシピだったとか逝うのは←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日、会社の都合で僕は都営地下鉄の岩本町駅からアキバ入りする。
もう夕方だったけど"親水テラス"は"セブン"の連中で溢れてるw
足早に通り過ぎようとしたら、ヒョロ長い男が動きを止めて僕を指差す。
僕が片手を上げて応えると、奴はガラゴロとボードを滑走しやって来る。
ミサルだ。
「お前に教えてやるょスケボー」
「ええっ?何ソレ?新手のイジメ?学芸員を通じて教育委員会に訴えるぞ」
「…トレジを、探してる。本気で探し出したいンだ、彼女を」
ソレだけはヤメとけ、と条件反射で口まで出かかったが、フト、ハンタの真剣な眼差しに驚き少し黙るコトにする。
「ストリートにはストリートの掟がアル。御屋敷育ちの"テリィたん"は御存知ナイだろうけどな」
「例えば?」
「例えば…"遠くの一般人より近くのヲタク"ってのがアル。だから、コレからも"テリィたん"をスケボーに誘うけど、OK?」
「no thank you。だって、僕は"セブン"のコトなんか何も知らないんだゼ?」
「だったら、コレから知ってくれょ」
夕陽の中で、とりあえず握手して別れる。
フト振り向くと、彼は僕を指差している。
おしまい
今回は海外ドラマによく登場する"トレジャーハンター"をネタに、トレジャーハンターと資料館の展示物をネットに横流しする学芸員のカップル、スケボーの暴走族とそのリーダー、狂気に犯されたメイド長と彼女を囲う血の繋がらない親などが登場しました。
TVで見聞きするNYの都市風景を秋葉原に当てはめて、ネタは整理しながら描いたつもりですが、いつもより長目にw
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。