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候補者4.水沢翔



4人目です。








水沢翔はのどが渇いていた。



今は水を飲みたいという事と暑いという事以外何も考えられない。

この高校は生徒数も多く、偏差値も悪くはないし割と街中へも近い好立地にある。でもグラウンドから給水機までの距離がありすぎることがサッカー部の生徒の共通の悩みだ。わざわざグラウンンドを出て体育館の脇までいかなければならない。



給水機のペダルを踏む。水が跳ね上がる。水の一滴一滴がしずくになって見える。できる限り取りこぼさないように水を捕まえた。



「翔―、次俺―。」



どれだけ飲んでも足りない気がしたが、後ろから来たキャプテンの佐々木に給水機の前を譲る。佐々木も水を貪るように飲みだした。それにしても暑い。夏だ。



「去年もこんな暑かったっけ?」


考えていたことが無意識に言葉になっていた。


「お前それ去年も言ってた。」


「まじかよ。俺もうダメかも。」


「しっかりしてくださいよ。エース。」


「無理。キャプテンが頑張ってください。」


いつものようなやり取りだけど今日は二人とも覇気がない。それもそのはず、いつもは決して良いとは言えないコーチの機嫌が、何故か今日はすこぶる悪かったのだ。器の小さい大人のすることは一つ。自分より下の立場の人間にあたる。


「なんで今日あんなに機嫌悪いんだ?」


「知りたくもない。」


練習中ずっとコーチは怒鳴っていた。無駄なエネルギーの消費だ。


「まあ、休憩もらえたことが奇跡だな。」


「ほんとそれ。」


でも早めにグラウンドに戻らないとどんな言いがかりをつけられるか分かったもんじゃない。俺たちは来た道を戻り始めた。




「ん?おい翔、あれ。」

「何?」



佐々木の指さした方に目を凝らすと、体育館の裏でイチャついているカップルがいた。


「おえ、場所がベタすぎる。」


「おい、あれ免田と詩織だ。練習中に何やってんだよあいつら。」


目を凝らしてよく見ると、確かに今日の学校中で噂の二人だった。


「それにしても詩織の変わり身の早さはすげーよな。」


「あのマネージャー、なんか企んでそう。」


「俺も翔と同意見。あいつ顔は確かにいいけどなんていうか性格がな…」


「まあ大抵の女はそうだろ。」


「さすが、イケメンエースは経験値が違いますねー。」


免田はあのマネージャーに何か手渡すと、デレデレの顔で手を振った。


「おい佐々木、あいつ今、何渡した?」


「財布じゃね?え、まさかの金目的?」


「免田ってそこまでアホだったか?」


「おい、聞こえてんぞ。」


気付くと免田が俺たちの前に仁王立ちしていた。


「お前、練習中に何やってんだよ。」


「何、って休憩してただけだよキャプテン。」


免田は相変わらずデレデレの表情だ。


「免田、お前あのマネージャーに何渡したの。」


「お、気になりますか水沢翔くん!」



こいつうぜー。



「別に。」


「ちょ、おい!そこは気になるって言えよ!」


「絶対やだ。」


「なんでだよ!」


それは俺が今、お前に心底イラついてるからだ、免田。



「なんか翔つまんねーよ。詩織に渡したのはコーチのキーケースだよ。ほら、いっつもグラウンドのベンチに置いてあるだろ。」


「は?なんで?」


「なんでって、さあ?」


「お前それコーチに言った?」


「ああ。てか、コーチに渡せって言われたんだ。」


「でも、あれコーチの車のカギとかだろ。なんで詩織に渡すんだ?」


「だから知らねーけど。」


佐々木と免田が言い合っているが、無視だ。それにしてもあのマネージャーはコーチのカギの束を何に使うんだ?


「それで詩織はあの鍵の束何に使うって言ってたんだ?」


「知らねーよ!俺らにはイチャつくっていう重要な任務があったんだよー!」


やはり免田はアホだとしか言いようがない。まあ平井とあのマネージャーを比べて平井を振ったくらいだから当然か。人の迷惑も考えてほしい。

もしコーチの車に何か問題があればあの器の小さすぎる男は意味のわからない連帯責任として俺たちサッカー部にペナルティを課すだろうことが想像できたからだ。


「とりあえずもう休憩終わるし、コーチに直接何の用なのか聞いてみれば?」


たぶんそれが一番マシだ。


「ええー、なんか今日すげー機嫌悪いーじゃん。さっき呼び出された時もずっとネチネチ言われ続けてたのに話しかけたくねー。」


「お前がもしキレられんならどーせキャプテンの俺とエースの翔とついでに俊も一緒にキレられんだから早めに言えよ!」



佐々木の言うとおりだが、今日は免田の巻き添えになるのは勘弁だ。何故かって、こいつが紛れもなく人の密かな恋路を邪魔してるからだ。むかつく。その原因を作ったこいつのためにコーチにキレられるなんて。




「おーい!休憩終わり!早く来―い!」


グラウンドから俊の叫び声が聞こえる。


「分かった。じゃあ後でコーチに探り入れてみる。」


「おお!さすが翔様!頼りになるぅー。」


正直、こいつのため、っていうのは腑に落ちないが、機嫌の悪いコーチに怒鳴られるより

はだいぶマシだ。


「じゃあ急ぐぞ二人とも!」


「はいよー!キャプテン!」



どうするかな。まあ俊と一緒ならどうにかはなるだろう。俺は佐々木と免田に続いて走り始めた。

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