候補者2.潮谷俊
「あの詩織ってマネージャー、あいつ、こないだまで俊の周りうろちょろしてたのに、急にやめたな。俊、なんかした?」
「いや、特に何も。」
「だからって急に免田?」
「さーな。面倒くさくなくて俺はいいけど。」
「諦めたか。このまま諦め続けてくれるといいな。」
「それか今は翔に移行する前の静けさとか?」
「いや、それはねーだろ。ないと思いたい。」
俺と翔は女子に関して面倒臭さを共有している。
うぬぼれと言われてしまったらそれまでだが、高校に入学してからというもの、俺達には常に一定数の女子がそばをついて回る生活が続いていたからだ。
でも、つい一か月と少し前、事情が変わった。
「で、翔は?もう一か月たったんだろ。まだ楽しい?」
「まだ、って何だよ。一か月ぐらいじゃそんな変わんねー。てか、最初からあいつ割と重いし。」
翔は最近、学年で一番かわいい、とほとんどの男子が言う武田怜奈と付き合い始めた。ほとんどの、というのはつまり俺と翔以外、という意味だ。
付き合いたい、と言い出したのはもちろん武田怜奈のほうで、かなり強めのアプローチと武田の取り巻きたちの作り出した雰囲気によってその他サッカー部の連中も固められていた。学校という狭い社会では翔が逃げ出す道はないに等しかった。女って恐ろしい。
「まあ、俺のことは置いといて。で、どうすんの?」
「なにが?」
「平井。免田と別れたんだろ。」
全く持って翔には隠し事ができない。気恥ずかしさを通り越して不思議だ。
「まあ、あいつが吹っ切れてそうだったらな。」
「ふーん。」
「ふーん、て何だよ。」
「がんばれよ、ってことだよ。いいじゃん、俊は彼女いないんだし。」
言葉の最後が少し陰った感じがして、俺は顔を上げた。
「なに、お前好きなやつ居たの」
「まーね。」
知らなかった。お互い小声で交わした言葉に少し驚く。
「今日、あっついなー」
翔はすぐにいつも通りの完璧な笑顔を浮かべた。
太陽がますますギラついた気がして、まだ始まってもいないのに、俺は部活が終わるまでの時間を逆算した。