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転生王子の数奇な軌跡  作者: 右二流
第一章~第三王子の行方不明~
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第五話第三王子と暗躍組合

 複雑に絡み合う迷路の様なスラム街、縦横所か、上下まで道があるその路地裏に、エルドードはアリーラと共に歩いていた。残念ながらエルドードが探していた孤児院はこの場所には無い。そもそもエルドードが探している孤児院は、この王国ではなく、隣国のスラム街に存在している。故にこの路地裏をどれだけ歩き回った所で、孤児院に辿り着く事は無い。

 では、何故エルドードはアリーラと仲良く歩いているのかと言うと、とある人物を待っているのだ。

 とある人物というか、とある集団を。

「おいおい、こんな所に高貴な坊っちゃんが歩いてるぞ」

「良い女も連れてるねぇ~、俺達にもちょっと遊ばせてくれよ」

「有り金とその女を寄越しな、そしたらガキは見逃してやる」

 ぞろぞろと、エルドードが待ち望んだ集団が現れる。彼らはスラム街の住人。女と金に飢えてる危険人物達。

「エルドード様、お下がりください」

 アリーラはそう言うと、瞬時に武器を展開する。

 ランス、それも名のある職人が打ったであろう最高級なランス。そのランスを、危険人物達に向け、ちらりとエルドードの方に視線を向けるアリーラ。

「……え? エルドード様!? 御待ちください!」

 その先にエルドードはいなかった。アリーラの背後、その先の先にエルドードはいた。

 残念! エルドードは逃げ出した!

「お、おいてめぇら! あのガキを追え!」

「クソが! 待ちやがれクソガキ!」

 エルドードの清々しい逃走を見て、一瞬唖然とするも、直ぐ様追いかけるアリーラと男達。

 どういう訳かスラム街で、奇妙な追いかけっこが始まった。

 王族と、その侍女と、スラム街の暴漢。凡そ会う事事態が奇跡的な人物達が、スラム街の路地裏を駆け抜けていく。

 だがそれも、長くは続かない。

 エルドードは、まだ子供である。それも前世の時よりもずっと幼い。そんなエルドードとは違い、暴漢達は大人である。体力も、歩幅も、子供であるエルドードとは大きく違う。

 アリーラに至っては比べる事すら烏滸がましい程に、体力も速度も違いがありすぎる。

 だがそんな事で諦めるエルドードではなかった。

(……うーん、振り切る為には全力を出さないと駄目だな)

 先頭を走るエルドードは、道を走るのを止める。

「エルドード様!?」

 アリーラの驚愕の声、アリーラの視線の先にいるエルドードは、壁を蹴りつけたかと思うと、雨避けにあるであろう出っ張りに手をかけ、そのまま上へ上へと上がっていく。

 アリーラは地面を思いっきり踏みつけると、一直線にエルドードがいる屋根まで跳んだ。

「んだよあのクソガキ! 何であんなガキが、あんな動きできんだよ!」

「知るか馬鹿! 早く走れ! 逃げちまうぞ!」

「ていうかあの女の方がもっとやべぇーぞ!」

 驚愕の声を上げるも、男達は追いていかれる。

 急いでエルドードがしたように、雨避けに手をかけるも、大人である彼らの体重に耐えられないのか、雨避けは崩れ、男達は地面に打ち付けられる。

 リタイアである。

 後残りは、エルドードの後ろにぴったりと付き従うアリーラのみ。

 アリーラのみなのだが。

(……遊ばれてるなぁ)

 エルドードは息切れしながらそう思った。

 走るのにも限界なエルドード、息も切れ、最早振り返る余裕も無い。そんなエルドードとは対称的に、アリーラは余裕たっぷりだった。息切れなんて起こしてなく、寧ろ鼻歌でも歌えそうな程に上機嫌。

 汗一つ流してないアリーラと、ふらふらしだしたエルドード、その力の差は明らかである。

「エルドード様、もう暴漢はいませんよ?」

 アリーラは無表情のまま言う。しかしその内心は顔とは正反対で、喜びの極致にあった。

(今この現状は、エルドード様と追いかけっこしていると言う事では? エルドード様と追いかけっこ……エルドード様と追いかけっこ!? ああ、素晴らしい! 何て素晴らしい! エルドード様と追いかけっこをするなんて、今日が初めてです!)

 エルドードに近付くなと命令され、遠くから監視するしかなかったアリーラ。そのせいで色々鬱憤が溜まり、本来ならエルドードを捕まえて王城に引き戻さないといけないにも関わらず、アリーラはエルドードとの追いかけっこに興じてしまう。

 たまったものではない、と、エルドードは不満に思う。

 まさかここまで力に差があるとは、エルドードは思っていなかった。

 たかが金持ちの侍女、複雑なスラム街で走り回れば振り切れるだろうと思っていたエルドードにとって、アリーラの強さは誤算であった。念の為、暴漢に鉢合わせて時間を稼いだというのに、それら全てが無駄だった。

(もう無理)

 これはアリーラを過小評価したしてしまったエルドードの落ち度である。故にその落ち度のツケを、エルドードは払うはめになった。

「エルドード様、大丈夫ですか?」

 倒れそうになったエルドードを、アリーラは瞬時に支えると、優しくエルドードを抱き締めた。

「エルドード様、息が整うまでどうかこのままお休み下さい」

 エルドードは屋根に寝転がって休みたかったのだが、アリーラ的には王族であるエルドードを屋根に寝転がす何て考えられない事だったのだろう。とはいえ、そこにアリーラの欲望が無いとは言えないのだが。

「エルドード様、ああ、エルドード様」

「……痛い、離れて」

「エルドード様、それはいけません。またいつあの暴漢が現れるやも知れないのです」

「……屋根の上では暴漢は現れないよ」

 エルドードがそう言い、アリーラを引き剥がそうとした時、ふっ、と、浮遊感に襲われた。エルドードが気が付くと、いつの間にかアリーラに背負われ、先程とは遠い場所に移動していた。どうやらエルドードを背負ったアリーラが、そのまま違う場所に跳んだ様だ。

 エルドード一人抱えて、である。

(一体何の為に?)

 と、そう疑問に思ったエルドードは、視線を前に向ける。そこには黒い服を着た集団が立っていた。

 先程の暴漢とは明らかに違う。どこか刺々しい雰囲気を纏ったその集団は、アリーラが背負っているエルドードを見詰める。

「……お前がシュランド王国第三王子、エルドード・シュランド=ラジスラジスだニャ?」

 集団の内一人が前に出て来て言う。

 声からしてどうやら女らしいその謎の人物は、徐に武器を取り出す。

 服と同じ色をした剣、漆黒の双剣を構えると、残りの集団も各々の武器を取り出した。

(……私一人では厳しいですね。かといってエルドード様を一人で逃がすのも危険……)

 ならば、と、アリーラは真上に魔法を発動する。それはただの照明魔法、しかし王子専属侍女が放つそれは、ただの照明魔法とは規模が違う。

 莫大な光、王国の端から端まで届くであろうその光は、彼女達の合図。

 エルドードに何らかの危機が迫った時、その位置を教える為の合図、それと同時に、侍女が死を覚悟して、他の侍女が来るまで時間を稼ぐという決意でもある。

 そんな照明魔法を見て、黒の集団は不味いと思った。

「……随分と舐めた事してくれるニャ」

「エルドード様を守るのが第一ですので」

「お前は王子を守れないニャ。お前は死ぬニャ、王子は拐うニャ。それで依頼は完了ニャ」

 謎の女がそう言うと、一斉に黒の集団は動き出す。

 黒の集団は侍女に向かい武器を振るう。アリーラは王子を背中から地面に下ろすと、迎撃を開始する。

 戦闘を開始したアリーラを尻目に、エルドードは謎の女に話かけた。

「お前、名は何て言うんだ」

「……」

「無視か」

 エルドードの言葉を無視する謎の女。そんな女の様子に、エルドードはため息を吐くと、違う方面から責める事にした。

「お前ら一人の侍女相手に集団で戦うとか、雑魚にも程があるだろう」

「……」

 無視。

「雑魚なのに王子に手を出そうとするなんて、お前達は変わっているよ。変人だよ変人」

「……」

 女の耳が跳ねる。

「語尾も変だし」

「……」

 女の尻尾がぐねぐねと動く。

「後何か獣臭い」

「それは聞き捨てならないニャ!」

 女は辛抱堪らず反応する。そんな女を見て、エルドードはにやりと笑った。

「反応するって事は図星か? 獣人だろう、お前? だから獣臭いんだ」

「差別ニャ! 獣人は獣臭く無いニャ! 王子なのに差別するニャんて恥を知れニャ!」

「まだ幼い王子を誘拐しようとしている奴の台詞じゃないな。お前の方が恥を知るべきじゃないのか?」

 ぐぬぬ、と、謎の女は唸る。誘拐犯でありながら、少しばかりの良心はあるらしい。

 エルドードは首を鳴らすと、最初の質問をもう一度言った。

「お前の名は何だ」

「言う必要性を感じないニャ」

「じゃあお前の事はニャンパチと呼ぶ事にしよう」

「ちょっと待つニャ」

「待たん。名を教えないお前が悪い」

 エルドードは憤然とした態度で言う。謎の女は耳や尻尾を忙しなく動かすと、諦めた様にへにゃりとへたらせた。

「私の名前はマーニャニャ」

「マーニャニャ? 変な名前だな」

「違うニャ! マーニャ・マーニーニャ! よく覚えておくニャ!」

 マーニャはそう憤ると、双剣をエルドードに向ける。

「生意気な口が聞けぬよう、少し痛めつけないといけないみたいニャ」

 マーニャは瞬間姿を消し、エルドードの背後に現れると、その双剣をエルドードの首に当てた。

「これで分かったニャ? 自分がおかれている立場が」

「あ、意外と良い匂いかも」

 マーニャの脅しに屈する所か、エルドードはマーニャの尻尾を掴むと、その尻尾の匂いを嗅いだ。

 化粧水を吹きかけているのか、甘い果物の匂いがした。

「お、お前、幾らなんでもおかしすぎるニャ! 何で甘ちゃんである王子が、こんなに余裕たっぷりなんだニャ!」

「何でって、お前が言ったんじゃないか。王子を拐うって、それはつまり、痛めつけるのはしても、殺す事はしないんだろう? ならまあ、別にいいし」

「ニャ!?」

 マーニャは思っても見なかっただろう。基本的に富裕層の人間は痛みに弱い。痛みに強いのは一部のそういう生き方を強いられる者のみだ。

 例えば騎士の家系。

 例えば古き英雄の家系。

 だが王族は、そんな生き方とは無縁だ。それも王子、それもまだ幼い子供。

 エルドードはまだ幼い子供なのだ。

 それなのに、

(何でこいつは、平然としてるんだニャ!?)

 エルドードは平然とした態度でアリーラと謎の集団との戦闘を眺めていた。

 マーニャが戸惑うのも無理は無い。

 エルドードの前世がスラム街の孤児で、しかもその時の記憶を覚えているなど、マーニャで無くても分かる筈が無い。

「……マーニャ」

「な、なんニャ」

 エルドードの問いかけに、マーニャは一瞬戸惑った。そんなマーニャの様子を気にせず、エルドードは言葉を続ける。

「取引しないか?」

「取引?」

 エルドードはアリーラ達に視線を向けたまま、マーニャに取引を持ちかける。

「あの侍女は強い、今もあの集団を相手に優勢している」

 エルドードの言葉の通り、アリーラは謎の集団を押していた。

(王子専属侍女というのは伊達ではないらしい)

 エルドードはアリーラの戦闘を見ながらそう思った。

「例えお前があの戦闘に入っていったとして、あの侍女を倒しきる事は出来ないだろう」

「……悔しいが、その通りニャ」

 マーニャは顔を歪めて言う。そんなマーニャを見て、エルドードはにこりと笑った。

「そこで取引だ」

 エルドードはそう言うと、マーニャに耳を近付ける様に指示する。その指示に渋々従うマーニャに、取引の内容をエルドードは話した。

「……お前」

「どうだ? 取引するか?」

「……その前に一つ聞かせろニャ」

「? 何だ」

「その取引内容は、こちらに得がありすぎるニャ。お前、何が望み何だニャ?」

 マーニャの言葉に、エルドードはにっこりと微笑んだ。

「…………ニャ」

 その微笑みに、マーニャは見惚れる。

 エルドードの微笑みに魅了されるマーニャを気にせず、エルドードは口を開いた。

「秘密」

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