表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王子の数奇な軌跡  作者: 右二流
序章~スラム街の少年の最後~
1/6

独白起きて目覚めてさようなら

 薄暗い路地裏、ボロボロの布切れ、その中に包まれた赤ん坊。それが俺だった。

 赤ん坊の俺は路地裏の壁際で泣いていたと、後に俺を拾うシスタークリススが言っていたが、俺はその時の事をよく覚えていない。

 まあ、スラム街ではわりとある話だ。赤ん坊を捨てると言うのは。

 大方どこぞの娼婦が子供をつくり、育てられずに捨てたのだろう。そんな訳で俺は自分の母親を知らない。母親は知らないが、母替わりの人は知っている。

 シスタークリスス、スラム街の比較的治安が良い場所にある孤児院の修道女。

 赤ん坊が捨てられていたら、助けようとしてくれる心優しい人、孤児が危ない事をしたら叱ってくれる。そんな思いやりに溢れた人だった。

 勿論、シスタークリススの他にも心優しい人はいる。

 シスターリリス、そしてプリーストギガロス。

 シスターリリスはほんわかしていて、時々危なっかしい人だが、根は真っ直ぐでとても綺麗な人だった。

 プリーストギガロスは孤児院の規則に厳しい人だが、孤児達を優しく微笑みながら見守ってくれる、まるで父親みたいな人だった。 

 そんな心優しい人達も、かつて俺と同じように路地裏に捨てられていたと言うのだから、何だかやるせない気持ちになる。

 ……まあ、それはとにかく、捨てられた時の事はよく覚えていない俺だが、捨てられた後の事はしっかりと覚えている。しっかりと覚える程に、孤児院の生活は楽しいものだった。勿論、時には辛い事もあるにはあった。

 飢え、雪の寒さ、喉の渇き、スラム街に住む危険人物の脅威。

 だが、そんな事を記憶の隅に追いやる程に、孤児院での日常はキラキラと輝いていた。

 ラリットレー、アンドーラ、ハナリス、ペラドット。

 その五人は、俺と同じ時期に拾われた孤児達だ。他にもいたらしいが、俺がしっかりとした自我を持った時にはいなかった。

 五人以外死んでいた。

 これもスラム街では珍しい事ではない。拾われても、必ずしも生き残るとは限らないからだ。

 俺達五人は生き残った。俺達五人は共に生き続けた。いや、俺達五人だけじゃない、孤児院の全員で生き続けた。

 凍える夜は皆で身を寄せあい。

 飢えた時は皆で食べれる物を探した。

 年下の孤児で喉が渇いた奴がいたから、俺の血を飲ませて渇きを癒した事もある。

 雨が降ればその水を溜めて、皆で喜びながら分かち合った。

 孤児院での生活は苦しい事ばかりではない。

 迷路の様に組み込んだスラム街を、孤児達全員で走り回ったり、剣士ごっこやお姫様ごっこ。スラム街に住む気の良いおっさんに、面白い話を聞かせて貰った事もある。

 まだまだいっぱい、楽しい事はある。

 まだまだいっぱい、楽しい事はあった。

 まだまだいっぱい、楽しい事をしたかった。

 だが、もうできない。何故なら俺は、死んだから。通り魔に襲われて死んだから。

 腹が減っていたんだろう。その通り魔は、俺を喰うために殺したのだ。

 自分が生きる為に、殺したのだ。

 無秩序と思えるスラム街でも、暗黙の規則がある。

 例えどれだけ飢え様と、人を喰ってはいけない。この規則を破るものは、スラム街の住人によって殺される。

 だから通り魔がした事は無意味だと言ってもいい。

 もしかしたら飢えで死ぬかも知れないが、スラム街の住人に殺されるに変わっただけだ。

 でも仕方がなかったんだろう。飢えの辛さを知っているから、通り魔の気持ちも良く分かる。

 死ぬ前に、人の肉でもいいから腹一杯に喰いたかったんだろう。

 満腹と言うものを知りたかったんだろう。

 その気持ちが分かるからこそ、俺はそいつを恨んじゃいない。

 ただ一つ、大きな心残りがある。

 孤児院の皆が、これからどうなるのか。

 俺が死んで、悲しんで無いか。

 ラリットレー、将来騎士になるって言ってたな。騎士になる為の特訓、その相手をもっとしたかったな。

 アンドーラ、王子様と結婚して、金持ちになって、孤児院の全員にお腹一杯御飯を食べさせるって言ってたな。その夢を叶える手伝いしたかったな。

 ハナリス、大人になったらシスターになって、スラム街にいる孤児を全員救うって言ってたな。俺も同じ気持ちだったから、俺も大人になったらプリーストになって、一緒に孤児達を救いたかったな。

 ペラドット、お前は冒険者になって金を稼いで、孤児院をもっとでかくしてみせるって、そう言ってたな。お前が無茶しない様、傍で見守りたかったな。

 ……ああ、死にたくないな。もっと皆と一緒に生きたかった。

 でも駄目だ。だって目の前に、俺の身体が転がってるのが見えたから。

 自分の死に顔が見えたから。

 ああ、くそ。せめて笑った死に顔を見たかった。

 そんな事を思いながら、俺は死んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ