“骨”か“スケルトン”か
穴をくぐると通路に出た。
通路の壁も部屋の中と同様に、光る石が埋め込まれている。
さて、右に進むか左に進むか。
俺右利きだし右に進んでみるか。
俺は割と重要になるであろう選択肢を右利きだからという理由で右を選び、右に振り向く。
・・・この先マジで何があるか分からないから、しっかり警戒しながら進まないといけない。
石の光があるといってもほんのり明るいレベルだし、石の無い場所は完全な暗闇だ。
なので、慎重に進む。
歩き始めて一時間は経っただろうか。
特に変化は、っていうか歩き始めてから全く変化なし。
これだけ歩いているのにこうも何もないと、実は同じところをぐるぐると回っているだけなんじゃないかと疑ってしまう。
でも俺がくぐってきたような穴は無かったから、少なくとも進んではいるはず。
でも、そろそろ何かあってもいいんじゃないか?もう一時間だぞ?あの時左を選んでいた方が正解だったのかなぁ。
そんなことを思いながら進んでいると俺の何かあってくれ、という思いが通じたのか、ふいに前からこちらに歩いてくる気配を感じた。
え、本当になんかあるの?ちょ、それはそれで困る。
取り敢えず友好的に挨拶でもしてみるか?いや駄目だ。
俺の今の体は明らかに友好的じゃない!どうしよう分かった後五分待って!
そんな俺のお願いなど聞くわけもなく、“何か”はどんどんとこちらに近づいてくる。
ヤバいヤバいお腹遺体どうしよう。
もういっそのこと逃げるか?いや、待てよ。
あるじゃん!この体だからこそできる、絶対に怪しまれない方法が!
そうと決まれば早速動く。
仰向けになって、寝る。
はい終わり。
あとはなんか朽ち果てた感を出しておくか。
何をしているかだって?そりゃあもちろん「死んだ振り」だ。
だって俺骨だしな。
しかも目玉がないから目線を気にせず相手をガン見できるという。
もしかして俺天才か?恐らくここまで完璧に死んだ振りができるのは世界広しといえども俺くらいのものだろう。
まぁ、世界広しっていってもここが異世界だとしたらどのく・・・ら・・・い?
ここで俺は、この作戦には、ここが「異世界である」という可能性を考慮していなかったことに気がついた。
ヤバいかも知れん!
ここがラノベとかにある異世界だとすると今の俺は“魔物”だとか“モンスター”ということになる。
そうなると当然それを討伐する“冒険者”とやらもいることになるワケで。
つまり何が言いたいかというと、今近づいてくる“何か”が冒険者だとすると非常にマズいよねってことだ。
ここが地球だったのなら、今の俺はただの“骨”という扱いになるが、ここが異世界だとすると、俺は“スケルトン”という立派な“魔物”やら“モンスター”やらに分類される事になる。
やっぱり友好的に挨拶?でも闇の中からニュッと現れたスケルトンがいきなり「コンニチハ」とか言っても驚かれるだけだろうし。
それどころかそのまま切り捨てられる可能性だってある。
あ、詰んだ。
いや待て、でも俺を見た反応で色々とできたりするんじゃないか?
例えば俺を見て驚いたりしたらこの場所で俺の姿は異質なんだって分かるし、逆に俺を見ていきなり斬りかかってきたら「次生まれる時は鳥になりたいなぁ」なんて次の生まれ変わりに思いを馳せることだって出来る。
よし、俺だって一人のスケルトンなんだ。
覚悟を決めよう。
そして、そんな俺の覚悟をあざ笑うかのように“何か”は俺の前に悠然とその姿を現した。
その“何か”とはーーーー
・・・反応がわからねぇ
ーーーー片手に古びた剣を携えた、俺と同じ“スケルトン”だった。