悲劇のスケルトン
カタカタ、という無機質な音で目が覚めた。
目を開けるとそこは、どうやら俺の知らない天井のようで・・・?えっ
そこで俺は飛ぶように起き上がった。
周りを確認すると俺は室内にいるようで、周りは壁で囲まれている。
入り口となるような穴が空いているだけで部屋の中には何もない。
壁には弱々しい青白い光を放つ石が数メートル間隔に埋め込まれており、そのせいか室内はほんのりと明るい。
ふむふむ、なるほどな。
知らない天井、ゲームの古代遺跡を思わせるなんか光る石が埋め込まれている壁、そして岩がむきだしになっている床、そこから導き出される答えはーーーー
「どこやねん。」
そこでふと、自分の体に違和感を感じた。俺は恐る恐る自分の体を確認する。
そこには、“骨”があった。
いやこの場合その“骨”は俺の体なのだから、あった、というよりは骨になっていた、の方が正しいのだろう。
手や足も見てみるが、骨。
顔や頭も触った感じ、骨。
つまり全身骨の状態で動いているということになる。つまりーーーー
「誰やねん。」
俺だよ♪なんて言える心の余裕は今の俺にはない。
マジで意味が分からない。
目玉ないのに問題なく見れるし、骨なのに普通に喋れる。
いや、そもそも生きている時点でおかしい。
なんでこんなことに・・・ってあれ?
なんかこんな展開みたことあるぞ。
どこでだっけ?・・・ああ!思い出した!俺の持ってる異世界もののラノベにあった。
最初の「目が覚めたら知らない天井だった。」の時点で気付くべきだった。てことはここ異世界なのか。
ということは、この体は異世界でいう「スケルトン」で、ここはダンジョンとかそんな感じかな?
あ、問題全部解決しちゃったよ。
スケルトンだったら生きてても何もおかしくないもんね!あ~よかったよかった。ってーーーー
「なんでやねん!」
いやいやいや、落ち着け俺。
はい、深呼吸。シュコー、シュコー、シュコー。よし落ち着いたぞいい子だ俺。
さて。取り敢えずここは異世界だとする。
そうすれば「魔法」という不思議な言葉で俺の疑問は全て片付けられるあら便利。
いや、でも異世界に行くにはトラックにひかれないといけないんじゃなかったか?
確か昨日は一人で部屋でヤケ酒をしていたから、外には出ていない筈。
うん、俺の最期の記憶もトイレの便器で途切れているから、トイレで吐いてそのまま寝落ちでもしたんだろう。
だとするとやっぱり死ぬ要素がない。
・・・もしかして酒飲み過ぎたか?
ヤバい、なんかそんな気がしてきたな。
いやでもだって会社ブラック過ぎたんだからしょうがないじゃないか。
俺が死んだんだとしたら過労死だってありえるレベル。
てか仮に本当に過労死で死んだんだとしたら、クソ忙しいにも拘わらず仕事押し付けてきた田中先輩ともう一人の・・・もう一人の・・・。
あれ?思い出せない・・・。
いや、待てよ!それどころか自分のことも思い出せない・・・!
どういうことだ・・・?待て待て待て記憶がなんかけっこう消えているんだけど!
・・・もしかしてこれも異世界に転移したことによる影響?
いや、まだ異世界って決まったわけじゃないけど・・・。
ああヤバい。家族に至っては居たかすら分からん。
彼女の顔と名前も・・・ってあれ。おかしいな。
彼女に関しては何も覚えていない・・・。あれ?
なるほど。つまり俺は愛する人のことを全て忘れてしまったということか。くっ、なんてことだ。こんなことが許されるのか!
・・・まぁ、彼女なんて元々いなかった気がしないでもないが、認めたくないのでここは異世界に来たひょうしに彼女のことをすべて忘れてしまった悲劇のスケルトンということにしよう。
てか悲劇のスケルトンってなんか名前カッコイいいな。
丁度自分の名前も忘れていることだし、今から俺の名前悲劇のスケルトンってことにしよう。
異世界っぽくすると、ヒゲキノ・スケルトン。
カタカナにするとなんか微妙だけどまぁ、いいだろう。
よし、名前も新たに決まったことだし、取り敢えずこの部屋出るとするか。
まず、ここが異世界であれどこであれ、この意味のわからん状況には変わりない。
取り敢えずは情報が欲しい。
もっというと安全も欲しい。
そんな事を思いながら普段は信じていない神に、どうか安全でありますようにと祈りながら部屋を出るための穴をくぐった。