表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説

彷徨うカボチャ~少女とロリポップ~

作者: 半信半疑

 トリックオアトリート。

 この時期になると、いつも心がオドル。


 胸の内で呪文を呟き、明るい場所を、大手を振って歩く。


 トリックオアトリート。

 何て、楽しいんだろう。

 普段、抑圧されているせいもあって、開放的な気分になれる。

 ほら、頭にカボチャを被っていても、全く不自然さが無い。


 …、冗談だ。

 昨今、不審者に対応する警官も結構な数が導入されているらしい。

 規模が大きくなると、馬鹿なことをする輩が増えるってことか。

 まぁ、私には関係ないことだ。

 その気になれば、上手く身を隠すこともできる。

 クリスマスの赤いおじさんこと、サンタ・クロース師匠直伝の隠密技術だ。


 …、嘘だ。

 私のような者は、存在が半分だけなので、忽然と姿を消すことができるだけだ。サンタ・クロースのおじさんとは会ったこともない。

 風の噂は聞いているけれど。


 さて、今日はハロウィン。羽目を外せる貴重な行事だ。

 この人の波に、しばらく紛れていよう。

 楽しそうな顔を、ひっそり眺めていよう。

 と、そんな風に傍観者を気取ろうとしていたのが悪かったのだろうか。


 一人の少女に遭遇してしまった。


「あなたは、どうしてそんなカッコウを?」

 カッコー、カッコー。

 鳴き声を真似て、現実逃避してみるが、目の前の少女は消えてくれない。

 それどころか、話しかけてくる頻度が増えた。幻覚ではないのか。


「私、気づいたらここにいたの。どうしてか、あなた知ってる?」


 大きな木の下にあるベンチの傍で、少女と会話。


 しかし、「どうして」って言われてもねぇ…。私は、祭りに紛れ込んでいただけだし。

 首を左右にフリフリしながら、否定の意を示す。


「そう、なの。知らないのね…」


 目に見えて項垂れる少女。

 そんな雰囲気は、祭りに似合わない。

 私はポケットを漁って、ロリポップを少女に差し出した。

 カボチャ味、ではなくストロベリー味だ。

 好きだろ? お食べ。


「…くれるの?」


 君がストロベリーを嫌いでなければ。


「うん、好き。…もらうね」


 包装をはがし、ぺろぺろと舐め始める少女。

 ニコニコしている。さっきまでとは大違い。

 あぁ、お菓子の偉大さよ。


 本来なら、差し出す側ではなく受け取る側なんだけれど。

 たまには良いか。少女も喜んでくれているし。

 私もロリポップを食べよう。

 ガヤガヤと騒がしい人波の端。

 ベンチに座って二人して、静かにロリポップを舐める。

 

 視線を、練り歩く人たちへ。

 コスプレは様々だ。サキュバスや髭の旦那、ゾンビに猫娘。

 よく見ると、私と同じような者がいるように見える。実に楽しそうだ。






 しばらく眺めていたが、その間に、少女も私も、全て舐め溶かしてしまった。

 口が寂しくなると、今度は会話が始まる。


「あなたは、どうしてそんなカッコウをしているの?」


 カボチャが地面に転がっていてね、それが美味しそうで、食べようとしたんだ。

 そしたら、逆に食べられてしまってね。今じゃ、このカボチャは外せないんだ。


「…とれないの?」


 うん、取れない。

 でも良いんだ。私の本当の顔なんて、ロクデナシの顔だから。

 地上を永遠に彷徨い歩く、ロクデナシの顔だから。

 見ない方が良い。

 

「さびしい?」


 たまにね。もう慣れたけれど。

 君は、私と同じように彷徨う必要はない。

 だからそろそろ、あっちに行かないとね。


「あっち?」


 そう。もう思い出してきたんだろう?

 ロリポップを食べたからね。


「…あ、そうか。…そうだったんだ。だからこの服なのね…」


 少女は服の裾を軽く引っ張って確認する。

 白装束の白さが、夜闇の中で浮いている。


「ほら、君のお母さんも、あっちで待っているよ」


 左手にランタンを持ち、その方向を示す。

 一つの光が、少女を待っている。


「カボチャさん、ありがとう」


 少女はそう言った後、光に向かって走っていった。

 私はまた、一人になった。

 ポケットから新しいロリポップを取り出して、舐める。

 そうしていると、一つの影が近寄ってきた。


「やぁ、ジャック」


 知り合いのオロチだった。

 やぁ、久しぶりだね。


「あぁ、久しぶり。君も来ていたの?」


 そうだよ。楽しいからね。


「たまには私にも会いに来てよ。歓迎するから」


 オロチは優しく微笑んだ。

 そうだね、今度行くよ。


 さて、そろそろ日付が変わる。

 楽しい祭りも、もうお終い。


 ではまた彷徨うことにしよう。

 左手にランタンを携えて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ