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異世界料理! 食材は魔物じゃありません

 褐色の液体が並々と注がれたジョッキを掲げて、まずは乾杯という流れになった。

 ジョッキの中身は当然アルコールではなく、トリアル産のお茶だ。紅茶にアクセントとして生姜を混ぜたような味で、地球側でも好まれている。

「みんなの今朝の大活躍と、これからの大躍進にカンパ~イ」

 シノの音頭で卓を囲んだ六人が杯を交わす。

 遠慮がちにコチンと当てる裕太、勢い良く杯を突き出す奈々美と健一、柔らかな動きであまり音を立てないシノとマイケル、そしてわりと大雑把に中身をこぼしそうなフェイ。

 六人の宴はこうして始まった。


 次々と運ばれてくるのは唐揚げや串焼きやオムレツ、それにサラダなど。トリアル料理という触れ込みだが、見た目にはあまり目新しいところはない。それどころか、一品だけ明らかに見慣れた料理が並んでいた。

「竹輪の磯辺揚げ!」

 フェイが嬉しそうに箸を伸ばす。どうやら本当にトリアル料理ではなかったらしい。

 裕太がこっそり確認したら、メニューにすら乗っていない。迷宮亭は店員を呼ばなくてもメニューのボタンを押すだで注文出来るシステムなので、初めに店員を呼んでいたのは竹輪の磯辺揚げを頼む為だったらしい。

「あんた、またそれ頼んだの・・・」

 シノが呆れた声を出ことから、フェイの本気度が伺える。

「白身の魚をすり身にして焼いたものにわざわざ衣を付けて油であげる、この過剰な料理への情熱の一品を食べないでなんとするのよ」

「いやまあ、確かに無駄に手が込んでるけどね、トリアルにもその程度のならあるでしょ。干した玉ねぎを小麦と練って揚げたやつを煮込むのとか・・・」

「ああ、赤玉ダンゴ、頼み忘れてたね。追加で注文しましょう」

 言い終わる頃にはメニューの注文ボタンを押し終わっている。

「いや、そうじゃなくて・・・」

 シノは何か言いかけたが、諦めたように首を振った。

「玉ねぎといえば、あっちの赤玉ねぎむっちゃ美味しいですよね。うち最近毎日食べてます」

「ああ、このあたりで出回ってるのは淡路島で栽培されたやつだね。あれも悪くは無いけど、本場はもっと凄いよ。

 ここのはトリアル直送だから、これを食べてごらんよ」

 テーブルに並んだサラダを奈々美に勧める。奈々美はためらわず箸を伸ばして、

「うわっ、なにこれ、むっちゃ美味しい!!」

 両手で頬を押さえて、至福の表情を浮かべる。

「えっ、そんなに?」

 たかが玉ねぎと不思議そうな顔で健一も箸を入れ、裕太もそれに続く。

「わっ・・・」

 口に入れて、一瞬固まる。

 シャキシャキとした歯ごたえは確かに玉ねぎだが、味がまるで違う。例えるならアップルパイ用に煮込んだリンゴのように濃厚なこくと甘さで、風味もリンゴに似ていた。

 それが酸味のあるドレッシングと実にマッチしている。

「ああ、うちもう店で売ってる赤玉ねぎじゃ満足でけへん・・・っていうか、これ他の野菜も無茶苦茶美味しいし!」

 もうガツガツという有様でサラダを攻略にかかる奈々美。

 出遅れたマイケルが出しかけた箸を引っ込めるのを見て、

「評判が良いようだから、それも追加で行っちゃいましょう。奈々美はもう一皿食べる?」

「食べます、絶対食べます!」

「じゃあ三皿追加ね」

 メニューを操作するシノ。

「私の体感だと、野菜はトリアルの方が美味しいわね。甘いというか、味が濃いのよ、全体的に。それでいてクセがないから、サラダにするならトリアルの野菜ね」

「こっちのサラダは紙を食べてる感じがするね」

 フェイが過激に補足したが、もしゃもしゃとトリアルサラダに夢中な奈々美もうんうんと大きく頷いて同意していた。

「そのかわり、果物はこっちの方が断然美味しいわよ。あっちのはそのままだと苦かったり酸っぱすぎたりで、生で食べる気しないのが多いから。ほら、そこの串焼きみたいに、たいてい肉と一緒に火を通して調理するのよ」

 シノが指差した更には、一見するとアスパラ巻きのように薄い肉で何かをぐるぐる巻きにしたものが三つ、串に刺されている。巻かれているのは上から緑色、オレンジ色、赤色のスティックだ。

 雰囲気に流されて裕太が串を手に取り、それを口にした。

「あっ、これいいですね」

 緑の肉巻きは噛むと真ん中の果物から甘苦い果汁が溢れてきて、それがやや癖のある肉とマッチして濃厚な風味が口いっぱいに広がる。真ん中のオレンジは強烈な酸味が肉の癖を打ち消して、柚子っぽい香りでさっぱりした。そして最後の赤いスティックは・・・

「かっ、辛っ!!」

 一口噛んだ時は肉の味しかしなかったのが、その後から猛烈な刺激が追いかけてきて脳天を直撃する。裕太は慌ててジョッキを手に取り、中身が空になるまで飲み干す。

 裕太の後に続いた健一も裕太同様顔を真っ赤にしてジョッキを空にした。

「むふふ、クフスの実は刺激強いからね〜」

 何故か嬉しそうに言うフェイ。それを小突いて諌めながら、シノはお代わりのドリンクを注文する。

「辛いけど、これもうち好きかも」

 一方奈々美は頬を赤くしながらもモリモリ咀嚼していた。マイケルの方も気に入ったようで、満足気に二本目に手を出している。

「まあそんな感じでね、あっちの果物ってこっちのと扱いが違うのよ」

「こっちのは甘くて美味しいよね。桃とかもっと安ければ毎日食べるのに・・・」

 箸をぐっと握りしめ、フェイが悔しそうに愚痴る。

「でもアメリカの果物もそんなに甘くないので、その辺は日本が特別だと思います」

 三本目をもぐもぐと咀嚼しながら、マイケルが補足する。


 二杯目のジョッキを半ばまで飲み干し、ようやくひとごこちついた裕太と健一は、ちらりと視線を交わしてテーブルの上を検索し、いかにもオーソドックスな唐揚げの上で二人の視線は止まる。

 互いに小さく頷いて、それでも少し恐る恐る唐揚げを箸に掴み口にした。良かった、これは普通に唐揚げだ・・・二人して安堵の吐息を漏らす。

「野菜と果物の違いは分かりましたが、肉にも何か違いとかあるんですか?」

 マイケルの質問にシノはちょいと小首をかしげて考えて、

「お肉はあんまり違い無いわね。飼ってる家畜も似たようなもんだし。

 まあ珍しいところではトカゲも家畜化してたりするけど、ほとんど鶏肉と変わらないでしょ?」

 説明の最後で、シノが裕太と健一に話を振る。

 一瞬何のことか分からなかった二人だが、すぐに理解が追いついて、只今絶賛咀嚼中の唐揚げの正体に気づく。

「ふぇっ、こりぇトカゲにゃんれすか・・・」

 口の中身がこんにちわしないよう手で押さえつけながら、声を絞り出す裕太。うんうんと大きく頷くシノとフェイ。

 一瞬口の中身をどうしようかと悩んだが、美味しければただの肉だと達観し、覚悟を決めてゴクリと飲み込む裕太と健一。その後で二人でちらりと視線を交わして、なんかちょっと友情が芽生える感じだ。

「でもトカゲって飼いやすいんですか? 冬眠しそうな気がしますが・・・」

 冷静に質問するマイケルに、

「餌の少ない冬場は冬眠しててくれるトカゲの方が、鶏より飼いやすいと思うのよ

 それに夜明けに鳴いたりもしないし」

 フェイがトリアル的常識を全面に押し出して答える。

 言われてみれば確かにその通りで、マイケルも思わず納得する。

「ちなみにそっちのオムレツもトカゲの卵よん」

「うわっ、これも味が濃くてむっちゃ美味しいです〜」

 フェイが指し示した一品を真奈美がパクパクと口に運び、目を細めて感激する。

 この子なんだか大物になりそうだなぁ・・・そんなことをちらりと思う裕太だった。

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