おまけ 其の一 おめでとう、マイケル
話の流れ的にちょっと本編に挿入しづらかったエピソードですが、
裕太の勤奉期間の最後の頃のお話になります。
異世界での人種問題とか語ってます。
昼下がりである。
「そう言えばマイケルさん、初めて死んだ後も平気そうでしたけど、どうしてなんですか?」
どこか気怠い雰囲気が漂う控え室、裕太は不意にそんなことを口にした。
なんとなく気になっていたことを、なんとなく聞ける雰囲気、それが昼下がりの魔力だった。
「? どうして死んだことを気にしますか? ゲームでは死ぬことなんて日常茶飯事ですよ」
マイケルが不思議そうにそう返す。
そう言えばこの人、ゲームみたいな世界に憧れて亡命したんだよなと裕太は思い出した。こういうのもゲーム脳って言うんだろうか。
「いやいやいや、マイケル君。その返答はどうかと私は思うわよ。ゲームはゲーム、現実は現実できちんと分けて考えないと」
さすがにシノは引いていた。まあ普通はそういう反応だろう。
「ゲームと言えば、|コフュースル(海星人)のことをエルフって呼ぶのはやっぱり失礼なんですよね?」
「そうなの?」
シノが不思議そうに問い返すものだから、逆に裕太が慌てた。
「僕はコフュースルのことをエルフって言うと怒られるって聞いてたんですけど……」
「別に怒りはしないと思うわよ。ただやっぱり言わない方がいいかな。ゲームと現実の区別がついてない奴と思われたくないなら」
ちらりとマイケルに視線を移して、シノが答える。
「ああ、怒るからじゃなく、馬鹿にされるから言わない方がいいってことですか……」
「そういうこと」
シノが頷いて、乗ってきたのか更に続ける。
「それにエルフのイメージは、|コフュース(海星)の白肌より格段にいいしね」
「えっ、そうなんですか? むしろイメージ的にはそっくりな気がするんですけど」
耳が長くて魔法が使えて、どことなく高貴な感じ。まあフェイのような例外はあるものの、だいたいそんなイメージだ。
「最近のトリアルだけ見てるとそんな感じだけどね。コフュースだと一般的に白肌は奴隷だから」
どことなく苦笑いして、シノが言う。
そもそも魔隷制度から逃れた奴隷達が作ったのが、トリアルという国である。トリアルでよく見かける人種が、他国で奴隷として扱われているのは歴史の必然であった。
その辺りのことは裕太も歴史の授業で習ってはいるのだが、知識として知ってはいても具体的なイメージが追いついていなかった。
「白肌が一番多いのはヤードゥ神国ね。今はどうなってるかわからないけど、魔力崩壊以前は三億以上の白肌が奴隷になっていたらしいわ。当時のトリアルの人口の倍ね」
シノはそう言ってからふと首をかしげ、
「よく考えたら今のヤードゥ神国って、地球上だけでも一億以上の白人を奴隷にしてる訳よね」
ヤードゥはヨーロッパだけでも、フランスとスペインとポルトガルを支配下に置いている。魔力崩壊によってコフュースでの領土は縮小したと考えられているが、それ故に地球での領土を拡大させていると推測それている。
ちなみにヤードゥの次に大きいテンク皇国の場合、奴隷の割合は白人と黄色人種が半々で、合計二億人強である。
「白人が奴隷って、なんだか不思議な感じですよね」
「地球の感覚だとそうよね」
実際には地球でも白人同士で奴隷を作っていた時代が長いので、地球というよりは近代の感覚なのだろう。「コフュースで奴隷として扱われてるのは白肌だけじゃなくて、赤肌もなんだけどね。まあ赤肌はテンク皇国みたいに支配人種になってるところもあるから、地位としては白肌が一番低いんだけど」
コフュースだと、黄色人種は赤肌と呼ばれていた。
白肌が奴隷として扱われていないのは、一部の小国を除いてトリアルだけである。ただ現在のヤマトリアルがそうであるように、奴隷も支配人種もない体制なので例外中の例外と言えるだろう。
「逆に黒肌は歴史的にずっと支配人種なのよね。その辺も地球の感覚と大違いよね。
初めて魔法を体系化したのが黒肌だって言うし、ヤードゥなんか三千年は続いてる国だから、向こうでは当たり前の感覚なんだけど……」
実際にヨーロッパの先進国の間でヤードゥへの嫌悪感は、元日本人では計り知れない。いきなり核弾頭を撃ち込んだくらいだ。それは彼らにとって最悪の結果を導いた訳だが、ヤマトリアルではそれを自業自得ととらえている人が多かった。
「マイケルさん、どうしたんですか?」
さっきから会話に入らずキョトンとした顔でこちらを見ている同僚に、裕太が声をかける。
「エイダとかジェダとか、初めて聞く言葉ですが、なんとなく意味が分かります。これはどういうことでしょうか?」
音を伝えるだけの下級言語と異なり、上級言語は意味を伝える言語だ。トリアル語と日本語でも、魔力を媒介としてその意味は伝わる。シノがトリアルの単語を織り交ぜて喋っていても、特に支障はないのはそのためだ。
しかしもともと英語という下級言語で暮らしていて、最近になってようやく初級の呪文が使えるようになったマイケルにとっては、音でなく意味が伝わってくる会話というのは初めての体験なのだろう。
「それが上級言語ってことよ。おめでとう、マイケル君。あなたにヤマトリアルの一員となる資格がきっちりと備わっていること、移民局にしっかりと報告しておくわ」
シノがにこやかにそう言い、裕太がなんとなく拍手をすると、シノもそれにかぶせて拍手をした。
昼下がりの控え室で、拍手はしばらく鳴り止まなかった。




