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夜が開けて

 この状態を端的に説明するなら、全滅だった。

 裕太は火傷と骨折で動くことも出来ず、健一は片腕を失ったまま呻き声を上げていて、その上にのしかかっているおやっさんはまるで動きを見せない。マイケルは倒れたままぴくりとも動かずその周囲は血だまりになっており、奈々美は裕太の呪文が炸裂したときに緊張の糸が切れて気を失ったようだった。

「あーあ、こりゃ酷ぇや」

 そんな凄惨な状況の地下道に、ヤハギの声が響いた。

 灯りの魔法で辺りを照らしながら、階段を降りてくる。

「これ、裕太ちゃんか? ずたぼろじゃねえか」

 倒れていた裕太の首筋をひょいと掴み、猫のように摘まみ上げる。

 裕太はヤハギを見ようとしたが、目が開かない。喋ろうにも、呻き声すら出ない。

「ちょいと待ってな」

 ヤハギに胸元を叩かれた気がした裕太が、唐突に身体に熱を感じた。

 それと同時にヤハギが手を離したのか、裕太が地面に尻餅をつく。

「痛っ」

 思わず声が漏れた。声も出るし、目も見える。足の痛みも消えていて、自分の身体を見下ろすと上半身の皮鎧は焼け焦げて崩れ落ちており、胸元にお札のような紙が貼ってある。それが回復呪文を封じた呪符であることに裕太はすぐに気づいた。

「ありゃ、おやっさんは死んでるな」

 ヤハギの台詞に驚いてそちらを見ると、健一の千切れた腕を片手に持ちながら、器用におやっさんの身体を仰向けに寝かしているところだった。

 ヤハギはそのまま無造作に健一の肩に千切れた腕を押しつけ、その上から札をぺたりと貼り付ける。一瞬、健一の身体が淡い光に包まれ、次の瞬間には健一の身体からあらゆる傷が消えていた。

「ああっ、こいつ気を失いやがった」

 痛みが消えたことで緊張の糸が切れたのか、健一の呻き声はすやすやとした寝息に変わった。

 助かった……心からそう実感して、裕太の身体から力が抜けていった。


 目が覚めたとき、裕太はそこが宿舎の自分の部屋だとすぐに思い出せなかった。

 昨晩はいろいろあった。

 裕太は怪我も治っていることもあり、そのまま警備部に連れて行かれて事情聴取を受けることになった。

 事情聴取と言ってもそれほどお堅い雰囲気はなく、むしろ彼らは勤奉生達の冒険譚に興味津々なようで、隠し通路を見つけるに至った経緯を感心しながら聞いてくれた。

 また現時点でわかってることも惜しみなく教えてくれた。

 密入国者の解呪と尋問は既に終わっていること。密入国者の目的は主にダンジョンの調査であったこと。調査後、場合によってはテロ活動をする可能性もあったこと。外部にいた協力者も既に確保されていること。当然隠し通路のことも把握しており、明日の朝から探索する予定だったこと。

 勤奉生達がなかなか帰ってこないことに業を煮やしたおやっさんが、ほかに人手がなかった為に一人で勤奉生を探しに出たこと。おやっさんが魔物に襲われたことで、持っていた緊急連絡用の呪符が発動して、急いでヤハギが救助に向かったこと。

 奈々美は無傷で、健一も怪我は完治したが、マイケルとおやっさんは死亡していたのでダンジョンビルの医務室に運ばれたこと。魔物の出現は密入国者と無関係で、おそらくダンジョンから迷い込んできたということ。

 勤奉生達の行為は勤務中とは言えない為、労災にはならないということ。とは言え保険には入っているので、自己負担額は少ないということ。返済は成人後でもかまわないということ。金額的には残りの勤奉の報酬で相殺できる程度ということ。

 解放された時には、既に日にちが変わっていた。

 いろいろありすぎて眠れないかもと思っていたが、意外と熟睡してしまったようだ。


 裕太が控え室に入ったら、修羅場だった。

 奈々美が泣き喚いており、その横でマイケルが困った顔で突っ立っていた。

 奈々美の嗚咽混じりの声から察する限りでは、彼女は回復役のくせに何も出来なかったことを悔やんでいて、裕太達の怪我やマイケルの死に責任を感じているらしい。あの時の奈々美が恐怖に打ち勝っていたとしても、彼女の使える初級呪文ではどうなる状況でもなかったが、恐らくそういう問題ではないのだろう。

「私も魔法で生き返りましたし、そんなに気にすることはありませんよ」

 マイケルがなんとか奈々美を慰めようとしているが、奈々美の方は聞く耳を持たず泣き続けている。

 裕太としては、むしろ昨日死んだばかりなのにこんな状況に立たされているマイケルの方に同情した。

「あらあら、凄いことになってるわね」

 控え室に入ってきたシノは、一目で状況を把握したようだ。

 奈々美に近づき、その頭をわしゃわしゃと撫でながら、

「裕太君、健一君が休むみたいなんだけど何か聞いてる?」

「いいえ、何も……」

「じゃあ悪いけど、健一君の様子を見に行ってくれないかな」

 奈々美がシノの手をはね除けようとして、シノがそれを躱してさらにわしゃわしゃする。ここはシノに任せていれば大丈夫なようだ。

 それよりなんだか嫌な予感がして、裕太は健一の元へ急いだ。

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