ポスターの謎、解けました!
そのポスターは、やはり下の一部がこすられたように破られていた。
「やっぱりあいつらの仕業なんかな」
ポスターを指で突きつつ、奈々美が言うと、
「だとしたら、なんで破るのかって話だよな」
健一が腕を組んで考える。
「合図? とか・・・・・・」
「誰に?」
自分でも本気で思ってなかったくせに、健一に聞き返されるとぷぅと頬を膨らます奈々美。
密入国者がわざわざダンジョン内で合図を交換する必然性は少ない。誰かと情報を交換したいのなら、ダンジョンの外でやればいいのだ。
「そやったら、健一君はどう考えてるん?」
「いや、それがわかれば苦労しないよ・・・・・・」
そもそも監視カメラに映らないようにこそこそしていた連中が、こんな証拠を残していくなら余程の理由に違いない。そこまでは皆わかるのだが、そこから先が誰も推測できない。
「ケンカしないで、皆で調べましょう」
マイケルが取りなして、一行は早速調査に移った。
ポスターの周りをペタペタと触って確かめる裕太、周囲の壁をコンコンと叩いて回る健一とマイケル、床に何か落ちていないかとしゃがみ込む奈々美。
所詮は地下道、それほど調べる場所は多くない。五分もしないうちに調べ尽くし、一行は途方に暮れた。
どこからどう見ても普通の地下道の一風景で、おかしな所は何もない。
「ここはおかしくないとわかっただけでも収穫だよ。他のポスターも調べないと・・・・・・」
ややテンションが下がった一向に、裕太は粘り強く提案した。
その後も今までポスターが破られていた箇所を巡り、その間に出会った魔物を蹴散らして進む一行。見かけだけなら破竹の進行だが、彼らの気持ちはむしろ下降傾向にあった。
それというのも破られていたポスターは二箇所しかなく、調査もことごとく空振りだったからだ。
「ポスターがほとんど破られてないってことは、連中がダンジョンに侵入してからすぐに捕まったってことだと思うんだ」
「その分手がかりも少なくなるってことか・・・・・・」
裕太の考えに、健一が肩を落とす。
「まだ探してへんとこゆうたら、堂島の方くらいやね」
ダンジョンセンターの入り口からディアモールを抜けて北新地駅に行き、更に奥にあるのが堂島地下センターだ。梅田地下街の南の終端である。
「そこに何も無ければ諦めるしかないと思う。でも何かあるならそこが一番可能性が高いと思うんだ」
裕太の言葉は当てずっぽうではなかった。密入国者の謎は、破れているポスターと、ダンジョンへの侵入経路の二つだ。
その内侵入経路については、転移魔法じゃなければ物理的な抜け穴があるに違いない。しかし梅田地下ダンジョンの上は円形の広場であり、見通しがよくて人目もある。抜け穴があるとしたら端の方が可能性は高い。
裕太はそんなことを説明しながら、最後のポスターを目指した。途中で出会う魔物は全部健一とマイケルが倒してしまうので、喋るくらいしかやることがなかったのだ・・・・・・
最後のポスターに辿り着き、調査を開始してすぐ裕太はそれに気づいた。
「風が吹いてる・・・・・・」
ポスターの上に手を置くと、何処からか風が吹いているのを感じる。勤奉生達はすぐ裕太の手の平付近に群がり、
「こっちだ!」
風の出処はすぐに判明した。ポスターの右側に、看板のように壁から張り出した部分がある。畳一畳ほどの大きさだが、それと壁との間に僅かな隙間があり、風はそこから吹いていた。
どう考えてもそれが怪しいと、勤奉生達は早速その出っ張りに張り付き、引っ張ったり押したりと試してみた。
「動くぞ」
横へ力を加えた時、僅かに動く気配があった。健一とマイケルが端を掴み、力を入れて踏ん張ると、看板状の板が引き戸のようにゆっくりとスライドしていく。
「おい、向こうに道があるぞ」
健一の声が興奮している。
龍によって梅田が壊滅した後、地下街を再建する時に出た土砂を運搬する為にあちこちに運搬道が作られた。その大半は再建後に埋められてしまったが、これもそのうちの一つだった。
「あいつら、ここから出入りしてたんだ・・・・・・」
健一が中を覗き込むが、中は暗くてよく見えない。
「裕太君、これ!」
奈々美が興奮して指差した先は、例のポスターだった。スライドしてきた看板が、ポスターの端を擦っている。
「それでポスターが破れてたんだ・・・・・・」
出入りする時に引き戸に引っかかってポスターが破れることに気づいた密入国者達が、カモフラージュをする為に他の場所のポスターも破いて囘っていたのだ。分かってみれば簡単なことだが、それで勤奉生達に怪しまれてしまったのは皮肉である。
奈々美と裕太でポスターの謎が解けたことを喜んでいる間に、健一とマイケルが装備の中から懐中電灯を取り出して隠し通路を照らしていた。コンクリ剥き出しの通路は幅があるが高さは低く、ちょうど正方形の断面だった。裕太や奈々美ならそのまま歩けるが、マイケルだと屈まないと無理だろう。
「けっこう奥まであるな・・・・・・」
懐中電灯の光はやがて闇の中に飲み込まれ、通路がどこまで続いているかはわからない。
「どうする・・・・・・?」
「そりゃここまで来たんだから、行くしかないじゃないか」
遠慮がちに尋ねた裕太に、健一が力強く答える。その横でマイケルも大きく頷いていた。




