彼らは何処からやってきた?
密入国者がダンジョンに侵入し、フェイに捕まったというニュースはあっという間にセンター内に広まった。
おかげで一般客を全部引き上げて一時的にダンジョンを封鎖することになり、シノ達スタッフは大わらわだ。
「おい裕太、どういうことだよ」
控え室に戻るやいなや、健一が詰め寄ってくる。非常時ではあるが、緊急性が少ない現状では客が引き上げた後に勤奉生達が手伝えることもなく、皆控室でやきもきと待機していたらしい。
「どうもこうも・・・・・・僕にもよくわからないよ」
裕太が仲間に事の顛末を、時々つっかえながらも可能な限り丁寧に説明した。
「困ったことになりましたね」
マイケルがため息をつく。正式に亡命してきた彼にとって、密入国者に対しては色々と複雑な思いがあるのだろう。
「欧米では、魔法に強い興味を持っている人がたくさん居ます。一階で取れるような魔力石でも高値で取引されるという噂を聞いたことがあります」
倒した魔物が強いほど、手に入る魔力石に込められた魔力も強くなる。逆に地下一階程度の魔物では、初級呪文一つにも満たないほど弱い魔力石しか手に入らない。そもそも呪文を使えない人が持っていても価値のない代物のはずだが、本来の価値を実感出来ないからこそ法外な値段でも手を出すのかもしれない。
「それにしても考えたなぁ、コフュースルに変装して侵入してくるなんて」
奈々美が感心して言うが、
「ううん、あれはどちらかというと無謀だと思う。あんなの見ただけでおかしいって思うし、実際フェイさんはひと目で見破ってたし・・・・・・」
「そうですね。私もここに通うようになってから、亡命希望者で日本語を話せるかどうか、見ただけでわかるようになってきました。英語しか話せない人は何か足りてません」
裕太の言葉を、まさかのマイケルが補足する。まだ魔力の扱いには不慣れな彼だが、日頃から下級言語話者と接している分、その辺の違いはよく分かるのだろう。
「私は思うのですが、彼らは受付を通れないのではないでしょうか」
マイケルの言葉に、裕太も確かにと頷く。センターのスタッフには冒険者が多い。日常的に呪文を使用する彼らなら、フェイ同様下級言語話者などひと目で見破れるだろう。
「そやかて受付を通らんと、ダンジョンにはいられへんやん。
他の手段ゆうたら、転移魔法とか?」
「あの人達が、そんな高度な呪文は絶対に使えないよ」
奈々美は彼らを見ていないから実感がわかないのだろう。あの魔力適性が小学生よりも劣っている、見苦しい姿を・・・・・・
「じゃあどうやったん?」
自説を簡単に否定されて、奈々美は少々お冠なようだ。だがそれに答えられる者はいない。
「あの人達、例のポスターの前に居たんだ」
「例のポスター? ああ、あのよく破られてるやつか」
突然話題を変える裕太に皆戸惑うが、健一が義理堅く答える。
「あのポスターを破ってたのも、あの人達なのかも」
「でもさ、あのポスターけっこう前から破られてたじゃん。それだけ頻繁に来てたんなら、もっと早く見つかってたんじゃないのか」
意外と冷静に指摘する健一。
「でもさ、破られてたポスターって、今思うと全部巡回ルートから外れたところにあったでしょ。それなりに人目を避けていたんだと思う」
ダンジョンでは魔物の湧出点が固定されていることもあり、効率的な巡回ルートが存在する。別にその通りに移動しなければならない訳ではないが、適当に歩く意味も無いので、結局ほとんどの人が巡回ルートに沿って移動することになる。スタッフがお客をエスコートするなら、尚更である。
その巡回ルートを避けて移動していたなら、人に合うことも少なくなる。下級言語話者だとばれる可能性も格段と減るだろう。
今日は観光客のおじさん達が好き勝手に移動して、フェイもそれを面白がって特に止めなかった。それで巡回ルートをそれてしまい、彼らに鉢合わせたのだ。
ポスターが破れていることに気づいたのが約二週間前。その間、密入国者が誰にも気づかれずにダンジョンを移動していたのは十分にありえる。
「でもさぁ、その人らはなんでポスターを破ってたん?」
「それはわからないんだけど・・・・・・」
こそこそ移動している人達が、わざわざひと目に着くようなことをするのは不自然だ。
裕太には皆を納得させる考えなど無い。
ただ密入国者達がたまたまあのポスターの前に立っていたというのも、偶然としては出来すぎているように思う。そこに何らかの関連性があった方がしっくりくる。裕太はそう思ってた。
そしてそう感じているのは裕太だけではなかったようだ。
「あのさ、俺達であのポスターのこと調査してみないか」
健一が、興奮を隠しきれない声でそう提案した。




