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そのビルをヨド○シ梅田と呼ばないでください

 新梅田駅から見える大阪の街並みは、やはりビルの密度が凄かった。山形にだってビル街はあるが、高さとぎっしり感が比べ物にならない。

 馬鹿みたいにビル街を見上げてたら田舎者と思われるんだろうなぁと思いつつ、裕太は環状線の向こうに広がる風景に圧倒されていた。

「田上裕太君?」

 名前を呼ばれて、慌てて振り返る。

 ビジネスマンぽい人達の中を、ラフな格好をしてスラリと背の高い女の人が歩いてくる。その顔立ちには見覚えがあった。今回の勤奉で裕太の担当をしてくれる指導員で、待ち合わせの相手である。

「はじめまして。沖田シノです」

「あっ、どうも・・・田上裕太です。よろしくお願いします」

 握手の為に手を差し出しているシノに、ぺこりとお辞儀を返す裕太。裕太が気づかないよう、差し出した手をそっと戻すシノ。

「朝ごはん、まだでしょ。まずはセンターに行って腹ごしらえしましょう」

 シノが来た道を引き返し、二人は新梅田駅の入り組んだ通路を抜ける。

「わっ・・・」

 目の前の光景に思わず裕太が声を上げ、シノがニンマリと笑った。

「初めての人はたいてい驚くのよね、コレ」

 さっき裕太が見上げていたのとは反対側の方向、そこには見晴らしのいい広場が広がっていた。

 広場の中央に、ピラミッドの上を切り取ったかのような台形の建物と、それと重なるように13階建のビルが一つだけ墓標のようにそびえ立っている。

 その二つの建物を中心に、高層ビル群がまるで柵のように遠巻きに広場を囲っている。台形の建物を中心に、約一キロほどが建物一つない平地になっているのだ。新梅田駅もその円周上に建てられているので、広場が最大限に見渡せる。

 まるで巨大遺跡か現代彫刻的な幻想的な風景だった。

「ああ、あれがヨド○シカメラですね!」

 頭の中の知識と目の前の景色が繋がって、裕太が喝采を上げた。

「ダンジョンタワーね、今の名前は。それで手前のがダンジョンセンター」

 シノが慣れた調子で訂正した。

 この梅田の円形広場の出現は十年前に遡る。今なら教科書にも載っているようなことなので、知識としてなら誰でも知っている。裕太が驚いたのは、それが想像以上の光景だったからだ。


 それが起こったのは十年前、中国から発した金融大恐慌に世界中が巻き込まれ、日本国債も紙切れ同然となって何処もかしこも不穏な空気に包まれていた頃の出来事である。

 しかし当時の梅田を襲ったのは政府が弾圧していた反政府デモでもなく、人々が恐れていた国際テロ組織でもなかった。

 遥かコフュースから時空震によって転移してきた、百メートル級の龍である。

 大阪駅前のバスターミナルを地下からぶち破るように出現したそれは、やはりコフュースから来た冒険者の一団と自衛隊の協力によってなんとか退治された。

 しかし消滅するまでにその巨体と、そこから放たれる強力な熱戦攻撃によって半径一キロの地をほぼ更地に変えてしまった。後に残ったのは、奇跡的に傷一つつかなかった某家電量販店のビルだけという有様だった。

 ダンジョンセンターは龍の出現地点、かつてのバスターミナルの跡地に建てられている。


 建物の多大な被害に比べて、人的被害は死者二百十五人と重軽傷者五百三十六人と意外に少なかった。龍が出現したのがまだ早朝ということと、政府によって夜間外出禁止令が出ていたことが不幸中の幸いだったと言われている。

 その時に死んだ一人は後のインタビューで「突然ずどんと衝撃が来て、何かわからないうちに真っ暗になって、気がついたら広場で寝かされていた」と語っている。

 当時は現場に居た人達ですら、ほとんど事態を把握出来て居なかったのだ。


 せっかくなので、海星(コフュース)についてもう少し語っておこう。

 正確な記録が残っている限りでは、偶発的事故で生駒山に転移してきた五人の海星人(コフュースル)の冒険者と、地元の大学生との出会いが地球人とコフュースルの記念すべき初邂逅だ。

 梅田に百メートル級の龍が出現したのがその二日後。その時の動画が広まってコフュースルと魔法の存在は世界中に知れ渡ることとなった。彼らが転移門を使って呼び寄せた魔法医師団が、龍事件で死亡した被害者を次々と生き返らせていく様子は世界中に衝撃をもたらした。


 ではコフュースルとは何なのかと言えば、コフュースという惑星に住む人間のことである。地球に住む人間が地球人という程度の意味でしかない。

 海星(コフュース)は、大きさや組成的にとても地球に似た惑星である。ただし地球との物理的な位置関係は未だに判明していない。星空の比較から、別の銀河に属していると推測されている。転移門を経由すれば歩いて行き来できるが、天文学的には果てしなく遠いのだ。

 だがそこに住まう動植物もかなり似通っていて、最近の学説では生駒の冒険者や梅田の龍のように、有史以前から二つの惑星の動植物が行き来していたというのが有力視されている。実際、地球人とコフュースルの医学的な違いは耳の長さぐらいであり、まったく別の環境で別々に進化した結果と考える方が不自然だ。

 ちなみに海星とは言っても実は地球より陸地の比率が大きく、海の比率は六割だった。地球より地面の多い海星と、海星より海が多い地球。世の中そんなものである。


 コフュースと地球の一番の違いは魔法の有無だ。

 コフュースでは魔法を主体とした文明が発達し、地球では科学が発達した。

 それは現在の地球に魔法の元となる魔力がほとんど存在していないことによる差だ。ただし地球に元から魔力が無かった訳でなく、二千年から三千年程前に何らかの理由で魔力が枯渇してしまったという説が最近の主流となっている。

 その証拠に地球人にも魔力を扱う能力は残っており、上級言語さえ覚えていれば魔法を使うことは難しく無い。日本語も分類上は当然上級言語であり、日本語を読み書きできるなら、後は魔力と呪文の組み方さえ知っていれば魔法を使うことは可能だ。

 ヤマトリアルでは魔法教育に力を入れていて、義務教育にもなっている。今では魔法を使える地球人もそれほど珍しくはなかった。

 その逆に科学技術を習得したコフュースルも多く、今ヤマトリアルで広く使われているOSはコフュースルが開発したものだったりする。

 裕太も中学の頃から魔法を習っていて、その技能を活かすために梅田ダンジョンへ勤奉しにきたのだ。

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