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地下四階でのトイレ事情

 コフュースル三人組が羊羹談義で盛り上がっていた頃、数人の冒険者が広場の中央に小さなテントのようなものを設置していた。

 縦長で、一人がかがんで入れば満員になりそうな、とてもテントとして機能するとは思えないサイズだ。側面に大きな窓があるが、何故かその上から布をかぶせて見えないようにしている。

 その小さなドームに、冒険者が一人入ってはしばらく中に籠もり、出てくると窓の布をパタパタして空気を入れ替えるということを、何人かで繰り返している。

「あれは何ですか?」

 なんとなく小声でヤハギに尋ねると、ヤハギは腕を伸ばして裕太の頭をクイッと回し、そのドームから目を離させる。

「ありゃトイレだ。じっくり見るのはマナー違反だからな」

 言われて裕太の頬が赤く染まる。ちょうど彼が見ていた時に女性が中に入ったことを思い出したのである。

「裕太ちゃんも怪しいようなら行っとけよ」

「いえ、僕は別に・・・・・・」

 裕太がブンブンと首を振る。


 地下四階以降は階層ごとに空間が独立しており、当然上の階から電気や水道を通すことは難しい。高度な転移魔法を駆使すれば不可能ではないが、それだけ苦労して通しても、四ヶ月もすれば再構成されるのでコスト的にも見合わない。

 つまり、下層のダンジョンには水洗トイレなんて作れない。

 しかし文明人としては、その辺に垂れ流しという訳にもいかない。

 通路や広場として設定された場所しか移動できず、穴も掘れないようなところでは、なおさらだ。

 その為、冒険者は組み立て式のトイレを持ち歩く。中身は吸水素材を入れた袋をセットするタイプの簡易トイレと同じである。

 ただ問題は出したものの後始末だ。それをそこらに捨てていくのでは、垂れ流しと変わりない。

 日帰り程度の行程なら、そのまま持ち帰ることもある。

 それが数日の行程となると、流石に荷物になるので大変だ。それを防ぐために、下層のダンジョンではあちこちに回収ボックスが設置されている。

 冒険者達は排泄物を回収ボックスに捨て、後にセンターから依頼を受けた冒険者が回収していく。

 それが下層のダンジョンでの一般的なトイレ事情である。


 トイレの利用希望者が居なくなったのを確かめた設置者が、

「おーい、ヤハギ。例のアレ頼むわ」

 大声でヤハギを呼び、

「何だよ、また俺かよ。いい加減お前らも呪文覚えろよ」

 ぶつぶつ文句を言いながら、トイレの方へ歩きだす。

「ヤハギは浄化呪文を使えるのですよ」

 状況が飲み込めてない裕太に、フェイがそっと説明する。

 魔法で浄化してしまえば、排泄物も水と土に変わる。一見そこらに捨てても構わないように思えるが、魔法の効果は常に一定ではなくブレがあり、目に見えないほど少量が浄化されずに残るということもある。そんなものを辺りに撒き散らしたら大変だ。

 かつてそれで病原性の大腸菌がダンジョン中に大発生し、冒険者達が次々と食中毒に倒れるという事件が発生したことがあった。回復魔法で治せるので大事には至らないが、そんなことで貴重な魔力を消費したくないというのが正直なところだ。

 そんな訳で浄化呪文を使っても、排泄物は持ち帰るか回収ボックスを利用するのがマナーだ。

 では何故わざわざ浄化するのかというと、単に気分の問題である。持ち運んでる最中に戦闘が発生して、中身が装備に飛び散るなんてのは誰もが避けたいところだろう。だから冒険者は可能な限りアレを浄化するのだ。

「ヤハギさんも呪文使えるんですね」

 裕太はむしろそのことに驚いたが、

「そりゃ上級言語を使ってるんだから、呪文くらいできるでしょう」

 むしろフェイの方が裕太の言葉に驚いたようだ。

 確かに学校で呪文の勉強をする世界なのだから、呪文の使えない方がおかしい。健一だってホタルのような簡単な呪文は使える。

 前衛の人達も戦闘向きな呪文は使えないだけで、基本的に誰もが魔法使いでもあるのだ。

 ついゲーム的な戦士のイメージでヤハギを見ていたと反省する裕太。

 ちなみに、前衛で攻撃呪文を使う上級職タイプの人もそれほど珍しくはない。最近では飛行呪文と組み合わせて、空中から攻撃するタイプがトレンドである。ヤマトリアルの制空域を侵犯したロシアのステルス機を、単独で捕獲した魔法師が居るほどである。

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