ういろうは羊羹の偽物ではありません
スライム討伐隊の道中は順調だと言えた。
既に地図も作られている地帯なので道に迷うこともなく、マッパーの指示に従って交差路も迷うことなく進んでいく。
途中でイノシシ型や熊型の魔物に出会ったが、炎系の呪文使い六人が手を出すまでもなく、他のメンバーだけで危うげなく退治された。裕太達はスライム溜まりに着くまで魔力温存ということになっている。
地下一階や二階での戦いと異なるのは、一戦ごとに小休止して装備をチェックしたり周囲の状況を確認していることだ。それだけ敵が強く、ちょっとしたミスが大きな失敗に繋がるということなのだろう。
後三十分弱で目的地というところに広場があり、一行はそこで予定通り休憩することにした。
「ちょっと疑問なんですけど・・・・・・」
裕太が行動食を手に一休みしているフェイに声を掛けた。
「僕達、大きく迂回するルートで移動してますよね。打ち合わせの時は特に不思議に思わなかったんですけど、ここなら森の中を突っ切った方が早くないですか?」
「おっ、裕太ちゃん。それは初心者あるあるだね」
二人に近づいてきたヤハギが、耳ざとく裕太の疑問を耳にしてニヤニヤしていた。
何を言われたかわからず、裕太が首をかしげると、
「まあ実際に触ってみな」
ヤハギが広場の端に裕太を連れ出し、何も無い空間に手を伸ばした。
彼が何を伝えようとしているか理解は出来ないものの、裕太が言われた通りに手を伸ばす。
「えっ」
何も無い筈が、何か硬いものにぶつかった感触がして、裕太は慌てて手を引っ込める。
特に危険は無いようなので、恐る恐るもう一度手を伸ばして、見えない壁を撫でるようになぞる。
これが一行が森を突っ切れない原因で、マッパーが地図を見て一行を指示している理由だ。
「もっと深いとこだとけっこう見た目通りに行動出来るんだけどさ。この辺はなぁ、まだ空間が雑でよ。見た目ほど自由度が多く無えんだよ。
慣れてくると何処に壁があるかなんとなくわかるようになるぜ」
「この辺はまだ魔力濃度が低いでしゅからね。空間の再現にも限度があるのでしゅ」
二人に近づいてきたフェイは、何かを口にしているのかいつもより不明瞭な声だ。
一般に、ダンジョンは下層へ行くほど魔力濃度が濃くなっていく。当然、裕太にとってはここが一番魔力の濃い場所だ。
「ここでもまだ魔力が薄いんですか?」
「大体今のコフュースと同じ程度でしゅね。魔力大崩壊の前だと地下六階くらいで同じくらいの濃度になりましゅ」
コフュースの魔力濃度は魔力大崩壊の後でかなり薄くなった。それでもここと同じくらいというのは、裕太としては素直に羨ましい。
「なんだぁ、お前また羊羹食ってるのかよ」
口をもぐもぐさせているフェイを見て、ヤハギが呆れた声を出す。
フェイは水筒を口にして口の中のものを流し込むと、
「羊羹は最高の行動食ですよ。羊羹以外のものを食べるなんて、人生の損失です」
きっぱりと言い切る。
「羊羹がどうかしたのかね」
ヤハギ達の会話を耳ざとく聞きつけたのか、コフュースルの中年の魔法師が羊羹を手に近づいてきた。その相棒らしいフェイと同じ年代のコフュースルも、その手に羊羹を手にしている。
討伐隊に参加したコフュースルが三人なので、全員が羊羹を食べていることになる。
「いや、羊羹談義とかしてねーし」
ヤハギが牽制するが、
「私としては芋羊羹が至高だと思う」
中年魔法師は気にせず羊羹について語りだす。
「芋羊羹もいいですが、栗羊羹も捨てがたいですね」
「私はよく冷えた水ようかんが一番好きです」
フェイに続いて、中年魔法師の相棒まで会話に入ってくる。
「あんたらどんだけ羊羹が好きなんだよ」
呆れ顔のヤハギを置いて、コフュースルの三人がどのブランドの羊羹がいいか語りだす。
「でも僕も羊羹は好きですよ。ちょっとチョコっぽい風味がいいですよね」
「あー? ああ、裕太ちゃんの世代だと本当のチョコの味なんてもう覚えてねーのか」
初めは驚いたヤハギが、すぐに勝手に納得する。
「今のチョコはトリアル産だからな。なんか小豆っぽいのはそのせいだ。本当のチョコは全然羊羹っぽくねぇよ」
カカオの主な原産地であるアフリカ大陸は、今ではフランスと同じくヤードゥ神国の領土となっている。奴隷制度を認めていないヤマトリアルとは当然国交はなく、交易もしていない。
幸運なことにカカオはトリアルでも栽培していたので、ヤマトリアルで生産されているチョコはすべてそれを使っている。ただこのカカオの品種が、普通の人なら言われてみないと気づかないレベルではあるが、何故か微妙に小豆っぽいのだ。
もう七年近くトリアル産のカカオが主流なので、裕太の年代だとチョコと言えばそちらの味である。
「羊羹と言えばさぁ、あんたらが名古屋人を半殺しにしたって噂は本当なのかよ」
ヤハギが、羊羹談義で盛り上がってるコフュースル達に疑問を投げかけた。
「? ああ、ういろうのことですか。別に半殺しなんて野蛮なことはしませんよ、あんな羊羹の偽物さえ持ってこなければ」
「そうだな、あんな羊羹の偽物さえ持ってこなければ、我々は彼らを有効的に受け入れるよ」
「ええ、あんな羊羹の偽物さえ持ってこなければ、同じヤマトリアルの人間ですからね」
コフュースルの三人はともに笑顔で、その裏に隠されたどす暗い感情も共通しているようだった。
「名古屋人がどうかしたんですか?」
不穏な空気を感じて、裕太が小声でヤハギに尋ねる。
「なんかな、トリアル人が羊羹好きって聞いて、ういろうを売り込みに来た名古屋人がいたらしいんだわ。でもあれ、見た目以外は別物じゃん。それで名古屋人は詐欺師扱いされてひどい目に合わされたらしいぜ」
ヤハギも三人を刺激しないよう小声で、ボソボソと裕太に答える。
何分ヤハギやの言うことなのでどこまで本当かは分からないが、羊羹狂信者の三人を見てるとあながち嘘とは言い切れず、裕太は何かをごまかすように乾いた笑いで受け流すしかなかった・・・・・・




