地下四階は別世界でした
地下三階まではダンジョンビルから直通のエレベーターで降りた。
そこからは地下三階側の回廊の扉を開けて階段を下り、四階側の扉を開ければ新たな世界が広がる。
「えっ」
目の前に広がった光景に、裕太は思わず足を止めた。
そこは針葉樹の森だった。
空はどんよりと曇っているというか、まるで上にだけ霧が立ち込めているようで、十メートルくらいから上はどうなっているかわからない。それでも降りてきた階段よりはどう考えも高い。
まるで曇りの日のように光源の位置は分からないが、行動するには支障のない明るさだった。
「どうかしましたか?」
裕太が突然止まってしまったからだろう、フェイが後ろから覆いかぶさるように肩に手をおいてきた。
「いえ、あの・・・・・・」
慌てて振り向いて、裕太は絶句する。
後ろには、裕太が通ってきた扉はあるが、壁がない。まるでどこでもドアのように、扉だけが突っ立っているのだ。
「はっは〜ん、驚いちゃってるね、裕太ちゃん」
先頭の方にいたヤハギが、裕太の動揺を目ざとく見つけて声を掛けてきた。
「地下四階からは疑似空間、知識では知っちゃってても、実際に見ちゃうとやっぱ凄えよな、これ」
見回すと、他の冒険者達も共犯者めいた笑みを浮かべて裕太の様子を覗っている。初心者なら誰もが通る洗礼のようなものなのだろう。
梅田ダンジョンは地下十階まである巨大ダンジョンだ。地下四階より下は端から端まで歩いて一週間はかかるほど広い。しかし実際に梅田の地下にそれだけの空間がある訳ではない。疑似空間を広げているのだ。
だから地下三階から物理的に穴を掘っても、地下四階には到達しない。地下四階から下はそれぞれの階層ごとに独立した空間で、階を繋ぐ回廊によってのみ繋がっている。
そうした知識を裕太も朧げに知っていたし、昨日の打ち合わせで詳しく聞いてもいた。しかし四階が森林地帯とは聞いていなかったし、想像もしていなかった。
そこまで教えてくれなかったのは、やはり裕太を驚かす為だろう。他の冒険者はともかく、フェイならいかにもそういことをしそうだ。まあ聞いていても信じられなかっただろうが・・・・・・
ただこれで普通は地下四階から三階へは、普通は回廊を利用するか転移魔法を使わないと移動できないことが裕太にも実感できた。
「この光景だけでも驚いちゃうけど、さらに年三回ペースで空間が変わっちゃうってんだから凄いよな。ここも森になる前は岩山だったんだぜ」
「いわゆるフリー生成ダンジョンですね」
ヤハギとフェイが続ける。二人が言うといかにも胡散臭いが、これは本当のことである。実際には大きな疑似空間を維持し続けるのが難しい為、ある程度の期間で再制作しているのだ。
勿論、ダンジョンのタイプによって出現する魔物のパターンも変わってくる。森林タイプなら獣型が多くなる。今回のようにスライムが湧くのは珍しい。
冒険者の収入は魔物を倒した時に手に入る魔力石がメインだ。ただ質のいい魔力石を落とす魔物は限られていて、それを手に入れる為に冒険者はダンジョンに長く留まることになる。
逆に魔力石が手に入らない魔物は冒険者もわざわざ苦労して倒そうとは思わない。
そしてスライムは刃物が役にたたず厄介な上に、魔力石を落とさないという冒険者には価値のない魔物だった。今回のようにわざわざ討伐隊が組まれることは珍しい・・・・・・というか、皆が倒さないからこういうことになってしまったと言えるかもしれない。
今回のクエストについては管理センターの方から報酬が出るので、魔力石が手に入らなくても赤字になることはない。
日帰りで距離が短いせいか、一部の例外を除いてウェストバックや小さめのリュックを装備している。使い魔を連れているのはフェイ一人だけに見えるが、リスのような小動物を連れているのが何人かいるらしい。
ヤハギをはじめとする剣や槍で武装した戦士が前列に、裕太をはじめとする呪文の使い手が真ん中に、フェイをはじめとした飛び道具の使い手が後列に並んぶ。ちなみにフェイはライフルを担いでいた。
各集団は所持する武器こそ違うものの、着ている服装は革製のボディスーツのような軽鎧がほとんどだ。かつてのヤハギがあきらめたように、やはり金属製の鎧は冒険に向いていないのだろう。
「さて、そろそろでかけちゃうぜ」
ヤハギのややしまりない号令で、一行は歩き始めた。




