ダンジョンのトイレのために出来ること
皆の注目が集まるのを意識してか、ゆっくり名探偵風に部屋の中を歩きながらフェイが説明を始めた。
「地下三階のトイレの調子が悪い理由を調べていて、私達は恐るべき事実に辿り着いたのです」
「いや、前フリとかいいから、裕太君をどうしたいのか結論から言いなさいよ」
シノがフェイの独演会をぶった切ると、
「裕太君には明日私と付き合って欲しいのです」
誤解を招きそうというか、誤解を招くことを目的にしてフェイが妙に色っぽく芝居する。
「怒るわよ」
既に怒っている声色で、シノが鋭くフェイを制する。
「ですからスライムなのですよ」
話が飛びすぎてつながっていない。シノがまた何か言い募ろうとする気配を察して、フェイが素早く話を続ける。
「地下三階の排水管にスライムが紛れ込んでいたのです。あの階にはスライムの湧出地点がありませんから、地下四階からやってきたと考えられます。そして地下四階にはスライム溜まりというような池がありまして、ちょうどその上を三階の排水管が通っているのです」
シノに口を挟まれないよう、早口で一気にそこまで口にするフェイ。
「トイレの調子悪いのがスライムのせいってのはわかったけど、そもそも地下四階から地下三階って出入り口の回廊以外で移動できるの?」
「梅田ダンジョンでは今まで確認されたことありませんが、コフュースでは階を繋ぐ回廊以外で移動したケースが何件かあります。今回も状況証拠からほぼ間違いないでしょう」
通常、ダンジョンでは階と階を結ぶ回廊以外での移動は、転移魔法を使うくらいしか方法がない。たまに落とし穴で下階に落ちることもあるが、コフュース式のダンジョンの落とし穴は転移魔法の一種であり、一方通行である。
「じゃあスライムが階を超えて移動しているのも認めるとして、それと裕太君に何の関係があるの?」
「このままではいくらトイレを修理してもすぐに駄目になります。それでスライム溜まりを焼き尽くして、一度全滅させてから湧出点そのものを潰してしまおうということになったのです。
それで炎系の呪文の使い手をかき集めたのですが、万全を期すには今ひとつたりません。そこで期待の新人にも登場願おうということになったのです」
「炎系の呪文の使い手ってけっこう居るでしょ。わざわざ裕太君を誘う必要があるとは思えないんだけど」
「それが明日身体の空いている者は六人しか掴まらなかったのです。ほとんど下層に潜ってしまっているので」
梅田ダンジョンにはおよそ六百人の冒険者が居る。しかし地下六階以降の下層は日帰りで探索するのが難しく、大抵は三日から一週間の行程となる。熟練した冒険者ほど長く探索を続けるので、その期間は連絡がとれない。
そんな訳で、緊急に集まれるメンバーというのは意外と少なく、今回は特にタイミングが悪かったようだ。
「なら予定の方を伸ばしなさいよ。一週間後とかならもっと調整できるでしょう」
「ところがですね、調律師が明後日からしばらく出張なのですよ。明日を逃すと次の機会は一ヶ月後になります。その間トイレの調子がずっと悪いのは勘弁ですね」
ちなみに調律師とはこの場合、ダンジョンの魔物の湧出地点を調整して魔物の湧出期間や湧出数を調整する魔法師のことである。一度調整してしまえばしばらくそのダンジョンでの仕事がなくなるので、大抵は複数のダンジョンを掛け持ちしている。
フェイが意外と手堅く理論武装していて、シノが眉間に皺を寄せる。
「だからって、まだ地下二階しか経験していない子をいきなり四階は無茶よ」
「護衛は付けますし、目的地は片道二時間程度なので大丈夫ですよ。なんと総勢十五人の大パーティです。私とヤハギもついてきますしね」
どうにも突き崩せず、むっつりと黙り込むシノ。
「あの、僕で良ければ、地下四階にも行ってみたいんですけど・・・・・・」
恐る恐るという感じで、裕太が何故か挙手しながら申告した。
「裕太君・・・・・・」
意外な伏兵に、シノが何とも言えない顔で裕太を見る。
「それ、俺も行っていいっすか?」
裕太に合わせるように、健一も何故か挙手して主張する。
「ええとですね・・・・・・」
フェイが何か言いかける間に、シノは一度大きくため息をついて気を落ち着かせ、
「健一君、その挑戦する意気は嬉しいんだけど、今回は諦めてちょうだい。
突然二人抜けられると、こちらの仕事にも差し支えがあるからね。地下四階はまた別の機会に挑みましょう」
諭すように健一に言った。健一は不満そうな顔をしたが、申し訳なさそうなシノと目があって黙り込む。
「では細かい打ち合わせをしたいので、このまま裕太君をお持ち帰りしてよろしいですか」
うまく話がまとまって、フェイが意気揚々と宣う。
やっぱりちょっと早まったかもしれない、そんな思いが浮かんできた裕太だった。




